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08.千羽鶴


細緻な模様のある色とりどりの美しい小振りの正方形の紙をクレアは手にしていた。

紙は幾分色あせていたが、それでも十分に美しかった。


「私がこのようなものを持っていることが、そんなに可笑(おか)しいですか?」

「いや、可笑しいとは思わねぇが、意外だった」


それは可笑しいと思っているのではないか、とクレアは無愛想な声で言った。


わずかな荷物。

本当に必要最低限の物…

…いや、ひょっとして必要なものすら足りていないのではないか、というクレアの荷の中に、その紙はあった。


「昔、…私がまだ生まれ故郷から出ていない幼い頃ですが、仲の良かった子がおりまして」


クレアは紙を扇状に広げ持ち、ぼんやりとその紙を見ていた。

いや、何も見ていないのかもしれない。


「病弱な子でして、しょっちゅう倒れ、医者の世話になっていました」


昔話などして何の感傷に浸るというのか。

クレアは眉をひそめたが、口に出してしまった以上、ここで話を止めるのも可笑しなものだろう。


「ある時、いつも以上に体調を崩し、幾日も寝込む日々が続いたので祈り鳥を女神に捧げようと思ったのです」


色とりどりの紙で千羽の鳥を作り、糸で繋ぎ束ね、女神に病気平癒を祈り捧げる、という信仰がクレアの生まれ故郷にあったらしい。

早く友の病が治るようにとクレアは、その祈り鳥を作ろうとしたのだ。

美しい紙が良かろうと、細かく優美な模様の入ったものを集め、一人で何羽も何羽も作った。


「我ながら、よく一人で千羽もの鳥を作ったものだと思います。」

「で、その千羽の鳥を女神とやらに捧げたのか」


ザインの問いに、クレアは答えず目を閉じた、それが答えだった。

出来上がったそれは、友がその目で一度も見ることなく、また女神に捧げることもなく、友が墓の中へと持って行ったのだ。

今、手にしている美しい紙は、その時に残ったものだ。


「よくある話です」


肩をすくめ、そう一言結び、クレアはそれら再び荷の中へと片付けた。


昔を思い出し感傷に浸るわけではない。

ただ、これ持っている限り、自分は人間としての感情を持ち続けられる気がする。


そっとクレアは息をついた。



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