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レムポイント(9)

 青空と星空の混じる幻想的な空の下で、僕は通学路である住宅街を歩いている。

 心地よい疲れのせいか、普段のように布団でスマホをお供にネットサーフィンすることもなく『この場所』へ来てしまった。僕は今日の日中のことを思い出して、それから少しだけ歩く速度が上がっていく。

 結局、今日の体育祭は優勝することは出来なかった。だけど、リレーは僕の所属している団が一位でゴールすることが出来た。信じられないことに僕は第一走者の中で、一番最初に第二走者へバトンを渡すことが出来たのだ。

 正直、自分があそこまで走れるように、走り方が上手くなっていたとは思っていなかった。乙百主催の体力づくりは行っていたが、あれはあくまで体力をつけたり筋力をつける基礎的なもので、即効性は無いはずだ。別に、乙百に走り方を細かく指導してもらったわけでもない。

 そうなると……夢の中で身体を動かすことが訓練になっていたのだろうか。そういえば以前染石もそんなことを言っていた。自己の認識を強化することが、夢の中でも、現実世界でもいい影響を与えると。

 考えながらも足が動く。足が道を覚えているのか、自然と進んでいく。考え事をしているはずなのにいつの間にか高校に辿り着いた僕は、昇降口の前に人影がふたつあることに気がつく。僕はいつも通り師階田と染石の二人だろうと思い、なんの気なしに校門をくぐってからハッとしてすぐに物陰へと隠れた。

 違う。ひとりは想像通りの師階田だけど、もうひとりは……染石じゃない。

 僕は物陰から二人を覗き込む。師階田といるのは黒いスーツの男のようである。背は高く、体格も良い。背筋が通っていて毅然とした佇まい。こちらに背を向けていて、顔は見えない。長い髪を後ろで結んでおり、ポニーテールにしている。違和感があるのはその腰。一本の日本刀を帯びていることだ。スーツだというのに、日本刀と長髪がどことなく浪人のような雰囲気を漂わせている。

 刀の刃は抜かれてはいない。少なくとも師階田と敵対しているわけではないみたいだ。でも、ここから見える彼女の表情にはどこか険しさもある。だとしたらどういう関係なのだろうか。


「……うん」


 ここでこうして盗み見していても仕方ない。それに、師階田と染石以外の人間を見たのは初めて――もちろん、ウロを除いてだが――だ。純粋に興味もある。

 ……行ってみよう。

 僕は右手を自分の左手に……武器をしまってある時計に触れつつ、二人に近づいていく。僕に気づいた師階田は表情を変えるが、スーツの彼は気づいていないのか、引き続き熱量高く話を続けている。


「――をわかっているんですか。もう充分でしょう。上は今回のレムポイントへ強制執行を適用すべきと考えています。あなたも夢警の一人なんです。……組織に加わったのなら、その恩恵を受けるのなら、相応の貢献をするべきです」


嘉手村かでむらさん。ちょっと」


 師階田の声がけと、それと併せた彼女の視線で『嘉手村』と呼ばれたスーツ男が僕を振り向く。現れたのはその物々しい雰囲気とは似つかわしくない涼やかな京風の顔立ち。彼はその流し目で僕を見ると「君は誰だ。この辺りに野良の夢見がいたのか……?」と眉を潜めた。

 顔からにじみ出る拒絶の雰囲気を感じて心が重くなりつつも、僕は立ち止まって小さな会釈をする。


「僕は、九空埜くからのです。九空埜くからの希生きおと言います。ええと……この高校の生徒なんですけど、最近共有夢に来ることになりまして……」


 僕の自己紹介を聞き、腕を組んで首をかしげる嘉手村という男。訝しげな表情は変わらない。


「最近だと? 君は見たところ、既に十代半ばも過ぎているように見えるが」


 そういえばそうだった。僕のような歳で共有夢の初心者というのは中々いないんだったっけ。とはいえ、怪しまれたところで説明できるような理由もなく言葉に詰まってしまう。すると師階田が嘉手村の肩をたたきながら歩いてきて、僕の隣に並んだ。


「嘉手村さん。そのくだりはもうやったから。……九空埜くんは事情があって、私とりっちゃんのところでちょっと面倒見てたの」


 彼女は嘉手村と同じく腕を組んで言う。驚いたような表情の嘉手村が僕を横目で見た。


「師階田さんが面倒を……。では、彼も染石嬢と同じく?」


「いいえ。スカウトはしたけどフラれちゃった。だから――」


 師階田が嘉手村から庇うように僕の前まで来て「『この件』には巻き込みたくないの」と言い放つ。言われた嘉手村は少し考えた素振りを見せた後で、小さなため息をついた。


「成程……わかりました。それであれば、今は退きましょう。ただ、貴女がやれないのであれば、八課で強制執行の決裁を出します。総隊の貴女でもこれは覆せません。努々(ゆめゆめ)お忘れなきよう」


 毅然とした態度で師階田にそう伝えた嘉手村は僕を見て咳払いをする。そして、師階田へ目配せ。


「彼に少し挨拶しても?」


 師階田は「ええ、もちろん」と返し、真正面を譲るように横へずれる。嘉手村はネクタイの首元を整えつつ僕に向き直り、それから目の笑っていないお手本のような胡散臭い作り笑いを見せた。


「九空埜くん、申し遅れた。私は夢警の関東方面、執行部の八課で課長をさせてもらっている、嘉手村かでむらさいだ。師階田さんのスカウトがあるということは、君には染石嬢と同様に一定のレベルがあると思っている。……もし気が変わったら我々、夢警むけいと共に戦おう」


 そして、右手が差し出される。握手を求められている。多くの日本人と同じく不慣れでもあるため、僕は戸惑う。戸惑いながらも無下には出来ないと思い、手を差し出す。

 おずおずと出した手は不意に掴み取られ、しっかりと握られる。性格と意志の強さが現れたような若干の力の強さ。抵抗する気すら起きず、僕は嘉手村の顔を見て笑顔を作って見せる。すると、彼は手を離してくれた。


「世界を問わず、素直さも従順さも美徳だよ。九空埜少年」


 おそらく師階田に対する当てつけも多分に入っているだろう言葉だ。

 跳ねっ返りで生意気な登場人物が握手をする際に力を入れ返す、みたいなシーンを漫画やドラマで見たことがあるけど、そんなことは僕には怖くてできない。


「あ、はい……」


 僕がどこか心の無い返事をしてしまったところで嘉手村は満足したのか、校門へ向かって去っていく。その足音も聞こえなくなったところで、師階田はわざとらしく大袈裟なため息をついた。


「ごめんね、九空埜くん。嘉手村煩いから追い返すための言い訳に使っちゃった」


 舌を出して茶目っ気を見せる師階田へ、僕は首を横に振る。


「大丈夫です。……今のは、夢警っていうんですか?」


 聞くと、師階田は「ま、あんなおっかないおっさんが来たら気になるよね」と前置きしてから説明してくれた。


「夢警っていうのは悪夢を狩り、力のない夢見を保護しているんだ。……ずっとずっと昔から、名前を変えて、人を変えて、この国にある夢見の組織だよ。自警団みたいなもんだね」


 正直想像はしていなかったけれど、そういう組織はいてもおかしくはないと納得できる話だ。

 これまで師階田や染石に聞いた感じだと、性格な数はわからないけど夢見はそれなりに数がいるらしい。人が複数いれば集団が出来、コミュニティが出来、組織が出来る。どんな世界だって変わらない普通のことだ。

 特にこの共有夢には夢魔という外的な脅威もある。人類としては協力して対抗するというのが然るべき対応だろう。ただ。


「自警団……」


 自警団という言葉には違和感がある。先程去っていった嘉手村は延々と組織の住所を話していた。関東方面だとか、課長がどうだとか……自警団という規模ではないように思えてくる。少なくとも、全国クラスの規模であることは間違いないだろう。

 と、そこまで考えてから、僕は嘉手村の言葉を思い出す。


「質問ばかりですみません。さっき嘉手村さんが話をしていた『レムポイント』っていうのは何ですか?」

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