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権勢




 スザンナは学園に入学して早々、一つの派閥を作っていた。


 それはスザンナを聖女として崇め、神聖視する平民の取り巻き達だった。


「スザンナ様、今日も綺麗です!」


「聖女様、素敵です!」


「スザンナ様」


「聖女様」



 登校時に取り巻き達が自分を褒め称える瞬間が何よりも好きなスザンナには一つだけ不満があった。


 それは、一目見た時から気に入り自分に相応しいと思った王子様が、スザンナと違うクラスだったことだ。


 文字の読み書きでクラス決めだなんて、本当に有り得ない。それよりもスザンナに相応しいかどうかでクラスを決めるべきだ。だって、この学園はスザンナと王子が出逢うために創られたのだから。なのにスザンナと王子が離れ離れなんて、設計ミスにも程がある。


 きっと何処かで王子様の計画が狂ったに違いない。


 王子の美貌はスザンナの隣に並んで初めて輝きを増す。スザンナと王子は一緒に居なければいけないのだ。



「先生、これは横暴です。私と王子様が一緒に授業を受けられないなんて、誰かの策略に違いありません。今すぐ私をあっちのクラスに入れて下さい。」



 スザンナは初日のうちから、学園の教師に抗議をしていた。しかし、教師はスザンナの話を取り合わない。なので今日もスザンナは教員室で教師に訴えた。


「スザンナさん。学園からは事前にご説明をお送りしてますよ。文字が読めるか読めないかでは受けられる授業内容に差が出てしまうものです。まずはそう言った差異を少しでも埋める為にクラス分けをし、事前テストが行われたのです。

 この主旨をご理解して下さいね。王子殿下と同じクラスになりたいのであれば、まずは目の前の勉強を頑張り文字を読めるようになりましょう。」


 柔和な顔で諭すようにそう言う教師へ、スザンナはブチ切れた。


「アンタみたいな下っ端に言ったって意味ないのよ!学園長を出しなさいよ!私は聖女よ!いいから言うことを聞きなさいっっ!!」


 暴れて教員室の備品を壊したスザンナは、学園に呼び出された母と共に早退をさせられた。


 これにはスザンナも怒りが収まらなかった。まるでスザンナが悪者かのような待遇。納得がいかない。


「あのね、スザンナ…。お母さまもあなたの力のことは信じているけれど、暫くは大人しくしておいた方がいいと思うのよ。

 まずはルールに従って学園の生活を無事に過ごしましょう?そうすればおのずと王子様とお近づきになれるはずよ。

 聖女が問題を起こして退学だなんて、世間体が悪すぎるわ。」


 必死に宥める母へ、スザンナは納得しないながらも渋々頷いた。


「どうして間違ってない私が叱られるの?まあ、いいわ。あの教師は私が偉くなったら処分すればいいんですもの。

 それよりも確かにお母さまの言う通り、聖女なのに妙な噂を流される方がマズイわ。

 3日くらいなら我慢できそうよ。それだけあれば王子様が私に求婚するまで充分よね?」


 満面の笑みでそう言うスザンナに、初めて母は自分の娘が少しだけ何かを間違っている気がした。


 しかし、それを認めるのは自分の育児が失敗したと認めること。スザンナの母にはそれができなかった。


 家族を置き去りにした夫を見返す為には、夫が帰ってくるまで完璧な母親でなければならないからだ。


「そうね…王子様が、聖女の魅力に気付かないはずはないものね。」


「ええ、そうよ!もし3日経っても王子様から何もなければ、学園長を呼び出して土下座させるわ!」


 意気込むスザンナを見て、母は必死で自分に言い聞かせた。スザンナの言っていることが正しい、だから自分の育て方は間違っていないのだ、と。







 


 しかし、スザンナの思い通りにはならなかった。王子からの声かけどころか、王子と会うことさえなかなか困難なのだ。


 スザンナは考えた。スザンナは聖女である。当然、王子はスザンナが好きなはず。でも立場があるので今はまだスザンナのところに来れないのだ。


 だったら、スザンナが積極的に動けばいい。クラスを移るのは…勉強が面倒だからできない。


 だけど、放課後や休み時間なら何とかなる。


 後は…礼儀作法の授業。これは貴族と平民の交流を目的とするとして、生徒同士でマナーを教え合うことになっていた。


 正確には、貴族生徒と平民生徒が一対一のパートナーとなって、貴族生徒から平民生徒へ礼儀作法を指導すると言うもの。


 スザンナは聖女なので、当然パートナーは王子に違いない。


 この授業のことを聞いた時、スザンナは面倒だと思ったが相手が王子なら何の問題もないと思った。


 ここで交流を深め、放課後や休み時間に仲を深め合う。完璧な計画。


 しかし、後に発表された礼儀作法のパートナー一覧を見て、スザンナの怒りは頂点に達した。


 スザンナのパートナーは王子ではなく、たかが伯爵家の令嬢だと言うのだ。そして王子のパートナーはたまたま王子と同じクラスになった平民の女。信じられなかった。教師にも抗議したが、取り合ってもらえなかった。


 どちらにしろ、今日の授業には王子は欠席だと言う。


 ブチ切れたまま仕方なく参加した礼儀作法の授業で、対面した伯爵令嬢はこれまた酷かった。


 聖女である自分とパートナーになれた事を光栄に思え、と宣言したスザンナに対して、伯爵令嬢が口答えしたのだ。



「あのね、スザンナさん…神殿から聖女と認められていない者が聖女と名乗ることは禁じられているの。だから自重した方がいいと思うわ。

 それに、あなたがやってる作法…ちょっとだけ間違っているの。宜しければお教えするから、一緒にやってみませんこと?」


 あくまでも優しげに言う伯爵令嬢に、スザンナは違和感を覚えた。どうしてこの令嬢は、スザンナを辱めようとするのだろうか。


 これはよくある展開だ…とスザンナは手を叩いた。物語のヒロインを虐める意地悪な悪役令嬢。これぞスザンナが主人公の物語に相応しい展開。


 この虐めに屈さず、立ち向かうこと。それがスザンナのすべき事だ。


 スザンナは、伯爵令嬢の髪を引っ掴んだ。


「うるさいわね!そんな嫌がらせをするだなんて、この性悪女!」


 途端、伯爵令嬢や他の貴族令嬢達から悲鳴が上がる。


「な、何をなさるの!?こんな事をしていいと思ってらっしゃるの!?」


 貴族だからと言って威張るような女に、スザンナは屈しない。何故ならばスザンナは聖女であり、この国の未来の王妃なのだ。


 そもそもこの学園は王侯貴族と平民が平等に教育を受ける為に建てられた。だったら、スザンナが貴族に媚びる必要はこれっぽっちもなく。むしろ、率先して平民を率いて傲慢な貴族達と対立すべきなのだ。


 そう考えたスザンナは、目の前の伯爵令嬢を鼻で笑った。


「あなた、そんな偉そうな口を聞いていいと思ってるわけ?私は聖女。あなたなんて敵でも何でもないのよ。平民なのに可愛くて特別な力を持った私が妬ましいんでしょう?

 貴族ってこれだから嫌よ。嫉妬深くて自分が一番じゃなきゃ気が済まない身の程知らず!」


 伯爵令嬢の顔が青ざめる。教室は静まり返っていた。


「スザンナ様、何があったのですか?」


 最初に声を発したのは、スザンナの取り巻きだった。


「この女が私を辱めようとしたのよ!卑屈なイジメを許してはいけないわ!」


「なんですって!?スザンナ様を…」


「なんて事だ…聖女様を愚弄するなんて!」


 スザンナの取り巻きが騒ぎ始めたところで、スザンナは声を張り上げた。


「皆!貴族達は私達平民を馬鹿にしてるのよ!今こそ私達の団結を力にして立ち向かうべきだわ。貴族が何よ!私は聖女よ!これから貴族と仲良くすることや媚びることを一切禁じます。徹底的に貴族を懲らしめてやりましょう!」


 文字の読み書きでクラス分けされた平民生徒達には、所詮貴族には敵わないという劣等感があった。どんなに平等を掲げられたところで、平民である自分達を貴族は見下しているのだろうと。


 くすぶる劣等感は、スザンナの叫びで増大した。


 次々にスザンナの声明に賛同する平民生徒達を前に、貴族生徒は驚愕に固まった。


「何の騒ぎです!?」


 駆けつけた教師陣が見たのは、完全に対立した生徒達。と言うより、一方的に対立を訴える平民生徒と、困惑する貴族生徒。何もかもが瓦解し、貴族と平民の親睦を目的としていたはずの教室の悲惨な有様だった。















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