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第1話「死して死なず」

残酷な描写、表現が含まれております。

注意してご覧ください。

 永遠にも近く、程遠い世界の隙間。流れゆく鉛の塊がまるで流れ星のように綺麗な景色を駆け抜け、その1つが誰かの体を貫く。

 名前も知らない誰か。顔も知らない誰か。そのどちらでもあって、どちらでもない。


 確か、同じゴミ捨て場を漁っていた人だったはず。

 今までなにか話したかもしれない。でも、名前も経歴も知らない。記憶には残っていないくらいのあやふやな関わり。

 そんな人であっても、同じ時を生きてきた人間であって、蜂の巣になった姿を見てしまった私は、虚しく空を見上げる。


 銀色の弾丸が真横を通り過ぎていく中で、諦めたように立ち尽くす私は、生きた(まと)として撃ちやすいはず。

 いや、弾の気持ちになれば当たりやすかったのだろう。

 そもそも当たりやすいとはどういう意味だろう。鉛玉の気持ちなんて、そんな比喩表現とお粗末な思考回路は吐き捨てるべきかもしれない。


 ただ、その中でも。

 私の周りに散らばった肉片やら、倒れた死体の中で、呆然と直立不動の姿勢は兵士にとって気持ち悪かったのだろう。

 銃弾は私ではなく、後ろで背を向け逃げ出している民衆へ。

 注がれ、降りかかり、鮮血を飾る。


 そんな私が変わらず立ったまま。

 何事もなく全てが通り過ぎれば良かったのだろうが、仰々しい軍隊の先頭がやって来る。

 あぁ、そう。

 誰も嫌な顔なんてしないのね。

 みんな嬉しそう。


 そんな歪んだ笑みを貼り付けた兵士が私を見下すと。


「お前、なんで逃げないんだ? おしっこでも漏らしたか? 殺されるのが怖くて足が(すく)んだか?」


 そう質問されるものの、そのあまりにも下卑(げび)た笑顔の方が気持ち悪く、その場で震える拳を抑えることが精一杯であった。

 人殺しをしていて、なんでそんなにも楽しいのか。

 つい先日まで一緒に国の為、世の為に働いていた民衆だろ。

 同じ国へ尽くし、同じ祖国を想い、時には憂いて、涙を流した民だろう。


 そんなのは幻想だった。

 私が勝手に想像して妄想した、ただの空想に過ぎない。

 実際、国民を守るはずの彼らが、国民を殺し回っているのだ。


 そんな殺戮(さつりく)者達へ、溢れ出る怒り、憎しみ。それが心を染めていく中、その下品な男は私の体を舐め回すように目を走らせる。

 その時の私はとても綺麗な顔では無かったかもしれない。絶望に沈んだ表情をしていただろう。

 それがいけなかった。


「ふん。汚ねえ身なりだが、体つきはそこそこだな。おい、縄か何か持って来い。こいつ玩具(おもちゃ)にするぞ」


 おそらく、ここが転機だった。

 このまま、兵士の慰め者として使い果たされるか。

 それとも、銃弾に撃たれて生涯の幕を降ろすか。


 二択の選択肢ではあっても、私が彼ら兵士に大人しく従うほど、健気ではない。それが答えであって、それが理由だ。

 こんな女を道具のように扱う連中が、生きてていいはずがない。

 国民を撃ち殺して悦に浸る奴らなんか、生きていいはずがない。


 そんな思いだけが先行し、何も出来ない私が悔しく地面を睨むと、散らばったガラス片が輝いて見えた。

 あぁ、これだ。これでいい。

 そのまましゃがみ込む。そんな姿を人間モドキの悪魔は不思議に思ったのだろう。


「お、どうした? 泣きたくなったか? 大丈夫だ、安心しな。すぐにいっぱい鳴けるよう調教してやるからな」


 そこからはあっという間であった。

 手のひらサイズの透明な破片を手にし、その兵士へ向け飛び掛るように、首元を狙って尖ったガラスを突き立てようとしたが――


 ――ダァッン。


 と、立ち上がった私の胸、心臓を銀色の弾丸が貫き、一瞬の衝撃によって私はその場へ倒れる。

 埃臭い、土煙へとその身が落ちると、原動力を失った私の頭をこれでもかと兵士は踏み潰す。

 何も出来ない。無力な私は失っていく熱をかき集める気力も湧かず、ただ口の中に入る土と屈辱を味わうだけ。


「糞ガキが、やっぱり復讐の機会伺ってたか。

 ――おい、玩具にするのは無しだ。全員殺せ」


 真っ赤に染まっていく世界へ残響のように震える音色は、残酷で冷酷で、私の心へどす黒い塊が溶けていく。

 絶対許さない。

 許さない許さない許さない!

 神様が決して許したとしても、私がお前を断罪してやる。お前達みたいな悪者、私が地獄に落としてやる!


 今にも事切れそうなギリギリの境目であっても、憎しみという原動力を得た私は、自然と唇を動かし血にまみれながらも憎悪を込めて叫ぶ。


「お前らは私が絶対許さない! 殺してやる!! 地獄に叩き落として――」


 ――ダァッン。

 と、見上げた私の頭蓋に銃弾が穴を開ける。


「おい、お前らもこいつに撃っとけ。反逆者はこうなるって見世物にするぞ」


 そんな死体へ。

 動かぬ体へ。

 一瞬にして魂を失った女の子の体には、いくつもの邪悪な弾丸が撃ち込まれるほど、死してなお凄惨な仕打ちを受けることとなる。

 その子の顔はボロボロになるその瞬間まで、激しい忿怒(ふんど)の表情に染まっていた。

 悪人は必ず皆殺しにする。

 そんな決意を抱いて、彼女は死んだ。

読んでいただきありがとうございます。

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