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11話 VSワイバーン

 僕らは森の奥深くを進んでいく。

 木々こそ生い茂っているものの、ここら辺は冒険者たちも依頼でよく行き来しているため、自然と道のようなものが形成されていた。


 アルファムさんたちの話によると、彼らはここに風の魔石を置いたらしい。


 といってもその場所が問題であるのだが。それよりも問題がもう一つある。

 

「……本当にキミもついてくるんだね」

「そらお祖父ちゃんから報酬もといお小遣いたんまりもらったしね」


 リズベルがフフンと得意げに答える。

 実際、彼女の歩みに迷いはなく、僕はここに来るまで一度も迷わずに案内されている。

 なにせ、ここらは彼女らが薬草や魔物狩りに訪れる場所の一つらしい。

 まさに勝手知ったる縄張りと言うわけだ。この前とは大違いである。


「お。いたいた」


 やがて、リズベルが指さした先には、相当の樹齢を感じさせる巨大な大木がそびえ立っていた。


 そして、その周囲には五匹ぐらいのワイバーンが飛び交っており、大樹の枝や洞に巣のようなものが作られていて、そこには幼体……雛が何匹も顔を出していた。


「けっこう多いな。なんでみんな退治しないんだ?」


「少なくともここのワイバーンは基本的に人も襲わないし、大人しいからね」


 そういえば種類にもよるが、少なくとも緑色……風属性のワイバーンは草や木の実、もしくは大気中の魔力を主食としているんだっけか。

 その後のリズベルの話によると、彼らは外から来た凶暴なハグレ魔物も勝手に退治したりしてくれるから、近隣の住民にとっては結構ありがたい存在とのこと。

 ……全然知らなかった。今まで国からの勅命を受けて、人を襲う危険な魔物ばかりと戦ってきたからなぁ。


 ……でも僕が倒しちゃって大丈夫なのか?


「いや、そもそも退治しなくてもいいんでしょ? ようは例の魔石を回収できればいいんだからさ」


 気軽に言うけど、そんな簡単な話じゃあるまいに。



 とりあえず僕は草むらの影からじっくり観察してみる。

 すると、群れの中で特に一際体格が大きい個体を見つけた。体中の傷跡は歴戦の痕とでもいうかのような上に、濃い風の魔力を立ち上らせている。

 さらにはその腹の中央に緑の宝石……風の魔石がワイバーンの腹に埋め込まれていた。

 間違いない。アイツが群れのリーダーだ。


 なんでも、アルファムさんがこの森の魔物の生態調査に訪れていた所、死にかけていたワイバーンの幼体が転がっていたそうだ。


 そんな虫の息の雛を彼は見かねて、風の魔石を取り込ませたらしい。


 ……実験の一環も兼ねてないよね?

 あの日以降、僕はあの賢者様をやっぱりマッドサイエンティストじゃないのかと疑っている。

 とにかく、魔石を取り込んだワイバーンは傷も癒えて、屈強な個体となり、現在では群れの主として君臨しているらしい。


「本当に取っちゃっていいのかな……」

「まだ言ってるの? あの魔石の効力は同じ属性の魔物に持たせた場合は潜在能力を極限まで引き上げるっていうらしいから。あそこまで育った時点で魔石はもういらないんだよ」


 それどころか、魔石から貧弱だったとはいえ、元々魔力を持っていた者にとっては魔石から与えられる力は供給過多でいずれパンクしてしまうので、そろそろ切除した方が良いそうだ。


「あーもう、じれったいな。ちょっと待ってなよ。すぐに取ってきてあげるから!」


 え?

 突然、何を言い出すんだこの娘は。


「フッフッフ。こう見えて、私はスキル対話持ちだからね。結構珍しいスキルなんだぜっ!」


 そのスキルなら僕も聞いたことがあった。

 確か人以外の魔物や動物はては植物とも対話ができるんだったか?

 便利なスキルなのだが、一方で祖先に亜人や魔族がいてその隔世遺伝なのではないか、という説もあり、地域によっては迫害されていたりする。


「んじゃ、行ってきます」

「あ、ちょ……」


 こちらが止める間もなく、リズベルは走って行った。


 そのまま彼女は街中で出会った友人のようなフレンドリーさで、ワイバーンに話しかけ始める。……正気か?


 僕はいざという時のために剣に手をかけるが、……あれ?


 なんかワイバーンの方も頷いており、リズベルもそれに合わせて、笑いながら手を叩いていた。

 やがて彼女の周囲に他のワイバーンが集まって、鳴き声をあげているが、リズベルは神妙な顔でそれを聞いて、時たま頷いていた。


 ……まさか本当に意志が通じ合っているのか?


 やがてリーダーのワイバーンが低い鳴き声をあげると、リズベルはビシッと指をさして何かを言った。

 

 そうしてリズベルが笑顔でこっちに走ってきた。……もしかして、もしかするんじゃないのか?

 期待する僕に彼女はテヘペロしながら、こう言った。


「ゴメン。失敗した」

「ふざけんなああああああああああっ!」


 直後、怒り狂ったワイバーンの群れが後ろから彼女を追いかけて迫ってくる。


 僕は慌ててリズベルを担いで、全力疾走。


 ぶっちゃけこんなにキレたのは初めてかもしれない。

 勇者のスキルを失って、ジャックが新しい勇者となっていた時も絶望度合いの方が強かったし。


「なんであんなに怒ってるんだ! 君は一体何を言った!」

「最初は上手く話が進んでたんだけどさ。魔石の話になると、貴様のような小娘に恩人から預けられた大切な魔石はやれんって言ってきてさ。酷くない?」

「会話自体は成立してたんだ……」

「だから『トカゲごときが人間様に偉そうに語ってんじゃねーよ。〇ァック!』ってどうせ魔物だし、意味なんてほとんど分かんないだろうなって冗談交じりに人間の言葉で言ったら普通に通じちゃってさ」


 やっぱ君が原因じゃないか、この疫病神!

 どちらにせよ、この状況を何とかしなければ!


「キアアアアアアアアア!」


 必死で頭を巡らせている所に、ワイバーンたちが翼を振り回す。

 ただ翼を叩き付けてくるのではない、その振り上げから真空の刃が生まれこちらに迫ってくるのだ。


「伏せろ」

「ぎゃびっ」


 僕は慌てて、リズベルの頭を掴んで地に伏せる。

 彼女を顔面からいささか強く地面に打ちつけた気がするが、まあ大丈夫だろう。

 とにかく今は応戦しなければ!


「ファイア!」


 僕はワイバーンたちに手を向けて、炎の魔法を出す。

 うおおおおおっ!

 本当に魔法が使えた。ここに来る前に何度か練習してたけど、いざこうやって実戦で使ってみると感動もひとしおだ。


 突然出た炎に威嚇されるワイバーンたちだが、さすがにリーダーはそうはいかない。

 彼だけは炎なんて気にせず、そのまま突撃しながら、口から風の塊……風撃を吐き出す。


「ぐああっ!」


 それをまともに胴に喰らった僕は、そのまま真横に吹き飛んで後ろの樹木に叩きつけられる。

 それでも僕は足取りこそ怪しいもののなんとか立ち上がる。


 危なかった。

 懐に入れてた護符のおかげでしのぐことができた。

 この護符は土属性のマジックアイテムで地に足を付けている限り、大地の魔力を吸い上げて持ち手の防御力を上げて、ダメージを軽減させてくれる。

 僕らだって馬鹿じゃない。ここに来る前に予め事前準備をしてきた。


 一方で、ワイバーンは相変わらず風のブレスを吐き出してくる。

 ほぼ無尽蔵の魔石を宿している故か、魔力切れを考慮しない力押しだ。


「アクア!」


 それに対して、今度は僕は水の魔法を攻撃ではなく、攻撃を防ぐ障壁として展開した。

 駆け付けてきた他のワイバーンと共に絶えず放たれる風撃。

 それによって僕の水の障壁は四散して、周囲が水浸しになる。


「キアアアアアアアアッ!」


 それでもそのワイバーンは仲間と共に攻撃を繰り出して、それを僕は水魔法で防ぐの繰り返し。

 このままでは僕の魔力は尽きてしまうだろう。


 でもこれでいい。次はこちらの番だ。


「アクア! ……とファイア!」


 僕は最後に一番大きな水の塊を作り出す。そこからさらに炎の魔法を撃ち込む。

 突然の高熱の蒸気にワイバーンは思わず怯む。

 だけど、僕はそれだけで終わらせない。

 足元の水たまりにも僕はファイアを連発して、あっという間に周辺が白い蒸気によって辺り一面に包まれる。


 一気に視界を封じられたワイバーンたちは狼狽するが、リーダーだけすぐに冷静さを取り戻して、蒸気の中で神経を研ぎ澄ましていた。

 やがて彼はドタドタと慌ただしい足音を察知して、そこに向けて翼による真空波を連続で撃ち込む。


「ぎゃあああああ! 痛くないけど、なんとなく痛い気がするうううっ!」


 そこにいたのは、さっき僕が使った土の護符をありったけ装備させて囮にしたリズベルだった。 


「残念だったね。僕はこっちだよ」


 一方で僕は傍の大木に駆け登り、最後に大きく高く飛んで、ワイバーンの真上から奇襲をかけた。

 魔剣の力で刀身に残りの魔力を注ぎ込んだ炎を纏わせて渾身の一撃を放つ。


「ギアアアアアアアッ!」


 斬撃と言うよりも、爆撃ともいうべき一撃、その攻撃をまともに受けたワイバーンはたまらず咆哮する。

 致命傷にはならなかった。その衝撃で、胸に張り付いていた魔石がポロリと落ちた。


「ゲット!」


 それを、いつの間にかワイバーンの後ろに忍び寄っていたリズベルが両手でキャッチすして、そそくさとこちらに戻ってくる。


 リーダーのワイバーンは満身創痍になりながらも、こちらを睨み付けてくる。

 その目に未だに戦意は消えていない。


「……よし。逃げるぞ!」

「う、うん!」


 僕はリズベルと共にすたこらさっさと逃走を開始した。

 目的の魔石は手に入れたし、これ以上の戦いは無益だ。


「……いいの? トドメを刺さないで?」


 並走しながら、どこか試すような口ぶりでリズベルは問うてくる。


 ……君も言っていただろう?

 少なくともこのワイバーンは無害な存在だったんだ。

 倒す理由が見つからない。

 ……昔の僕なら身の内から響く使命の声に従って彼らを斬り捨てていたかもしれないが。


「今の僕は勇者失格かもしれない……」

「え、勇者ってそういうもんじゃないの?」


 怪訝な顔をするリズベル。


「別に勇者って敵を見たら見境なく狩りまくるやつとかではないでしょ。それってどこの狂戦士よ。弱きを助け、強きをくじく。そこに人も魔物も関係ないんじゃないの?」


 そうか。そうなのかな……。

 今まで考えた事もなかったな。

 ずっと人類の敵を討ち倒せ、そう教えられてきたし。

 ふと、僕は後ろを振り返ると、他のワイバーンたちは僕を追いかける様子もなく、ボロボロのリーダーに駆け寄っていた。その中にはよちよちと歩く雛もいる。

 ……その光景を見て、勇者の力を失った事は何も悪い事ばかりじゃない。なんとなくそう思えるようになった。

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