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魔王が運ぶはフェアリーレン  作者: 和水ゆわら
序章 魔王降誕
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九話 二人の妹?(中)

 薪を拾い集め、適当に火をつける。それをリリムとキャロルの二人で囲んだ。キアレは頭をリリムの足に乗せ、すやすや眠っている。キャロルはこくこくと、リリムの準備した聖水を飲んでいた。


「そろそろ、酔いが醒めたかしら。渡したいものがあるの」


 リリムの質問に、キャロルがこくりと頷いた。様子を見るに、さっきまで回っていた酔いは、聖水のおかげでだいぶ醒めているようだった。服のポケットから、三日月の装飾がされたロケットペンダントを取り出し、手渡す。


「その写真に写ってるの、貴女でしょう。何があったのか、良ければ教えてくれる?」


 ペンダントを受け取るや否や、キャロルは大粒の涙を零して泣きじゃくり始めた。今までため込んだものが溢れ出しているかのように、大きな声を上げながら。


「吾輩は……元々お姉様と一緒に、一国を治めていたのです……」


 キャロルが泣きながら、今まで起きたことを話し出した。元々キャロルとその姉は、猫人族の国フェルランドを統治していた。しかし一年ほど前にウレード王国に攻め込まれ、姉は殺されて、キャロルは命からがら逃げおおせた。それからは特に理由も無く、色んなところを放浪していた。要約するとこんな感じだった。


「ありがとうございます……これ、お姉様と作った思い出なんです……」


 そう言うと、キャロルは首飾りをリリムに見せた。それは太陽を象ったものだった。彼女の姉が持っていたものとは対象のデザイン。


「私と同じね。私も、国を焼かれたの」


 リリムは、今まで起きたことを全部、キャロルに話した。話す気は無かったのだが、一度話し出すと止まらなかった。キャロルは、月の飾りを握りしめて、静かに聞いていた。長い長い話だったけれど、何も言わずに。


「リリムさんは、お姉様と似てます」

「……そう?」


 リリムが話し終えて、キャロルが最初に発した言葉はそれだった。似ている、と言われても、リリムにはどうかは分からない。


「お姉様も、多種族の共存する社会を望んだんです。何度それを否定されても、諦めなかったんです。リリムさんはも、諦める気が無いように思えるんです……凄く格好いい」


 是非、彼女が生きているうちに一度会ってみたかったとリリムは思った。きっといい友人になれただろうと。キャロルが立ち上がり、リリムの隣に座った。少し体を預けてくる彼女を、リリムは拒もうとしなかった。


「リリムさん、吾輩、リリムさんについて行っても良いですか? 一緒に、リリムさんの望む世界を作りたいです」

「良いけれど、大変だと思うわよ?」


 その返答を聞いて、キャロルはにっこりと笑った。リリムの方に顔をちらりと向けて、もう一言。


「それと……もしよかったらで良いんだけど。お姉様って呼んでも良い……?」


 自分を、姉と重ねているのだろう。それで彼女が救われるなら、断る理由がリリムにあるはずがない。


「好きにしていいわ。よろしくねキャロル……貴女いくつ?」

「吾輩十七歳だよ」


 年上か、とリリムが呟く。それでもお姉様ですと、キャロルは力強く言った。

 木々の隙間から、朝日が差し込んで来ていた。朝日に照らされて、キアレが目を覚ました。目を擦るキアレに、リリムが話を聞くように促した。


「おはようキアレ。起きて早々悪いんだけど、ちょっと聞いてくれるかしら」


 リリムは、正確に、そして簡単に夜の間に起きたことを話した。あの宿は野亜人の幻影のようなものだったこと、キャロルを助けて仲良くなったことなどを。


「……それで、キャロル様がリリム様の妹様になったと」


 キアレが、キャロルの前に立って、右膝をついて最敬礼。彼女が最大の敬意を示す姿勢だ。


「リリム様の妹様ならば、キャロル様も私の主と同じ。よろしくお願いします。」

「うん、よろしくね」


 砕けた表情で、キャロルが言葉を返す。恐らく彼女の素は、敬語など使わないこちらなのだろう。リリムとしては、そっちのほうが話しやすくて嬉しかった。立ち上がると、キアレは狼へと姿を変えた。


「二人乗せて走れる?」

「問題ありません。昨日は休ませて頂きましたし、あと五人くらいは乗っても大丈夫です」


 リリムとキャロルが、狼に乗る。今日も、キアレは駆けだした。思ったよりも速かったことに驚いたのか、キャロルがリリムの腰をぎゅっと抱きしめる。ちょっと可愛いなと、リリムは感じた。しばらく走っていると、森を抜けた。一旦、キアレはが足を止める。眼前には、巨大な谷が広がっていた。幅は広く、向こう岸は霧がかかっていてうまく見えない。


「少し揺れますので、落ちないように気をつけてくださいね」


 そう言うと、キアレは谷に躊躇なく飛び込んだ。空中に、氷で花のような形の足場を創り、そこを一歩一歩踏みしめながら、谷を越えていく。さっきまでよりも激しく揺れるのを、上に乗る二人は楽しんでいるようだった。対岸へは、わりとすぐにたどり着いた。さっき見たとおりに、やはり濃ゆい霧がかかっていた。


「吾輩に任せて……精霊よ、我らの道を示したまえ」


 キャロルが指を折った両手を合わせて合掌し、祈る。光の粒がキャロルの傍に集まり、近くをふわふわと浮かび出した。まるでついて来てというかのように。


「キアレさん、この子について行って」


 彼女の言うとおりに、キアレは光の粒を追いかけて駆けだした。ただひたすらに走り続けると、霧が少しずつ、薄まっているように見えた。


「キャロル、貴女精霊術師なのね」

「そうだよ、吾輩凄いでしょ」


 精霊とは、全ての者に宿る魂。妖精とは違うらしい。精霊術は、彼らの力を借りることで戦うもので、繊細な魔力操作や精霊への理解が必要。故に魔法の中でも難易度は高く、術者は少ないのだ。ふわふわとした尻尾を揺らして、誇らしげにキャロルは笑った。いつの間にか、霧の深い所を抜けていた。その先で三人が見たのは、廃墟と化した街だった。


「……いったい何があったのかしら」

「確か、ここには小国があったはずですが……」


 キアレが、自身の知識をリリムに伝える。


「でも、どう考えても滅びちゃってるよね……」


 キャロルの言う通り、この国はもう国として機能しているようには思えない。三人は、一旦廃墟の街へと足を踏み入れた。キアレは人間に姿を戻し、主たちの後ろをついて歩いていた。この街には、全くと言っていいほどに人気は感じられない。


「不気味ですね……」


 建物は破壊されているし、所々血痕も見える。そのくせ、街には誰の死体も見つからない。それがどうしても不気味だった。


「精霊も全然居ない……こんなことありえないよ……」


 精霊は万物に宿る。だからたとえ人が居なくても、建物や大地などに宿っているはずなのだ。それなのに、キャロルに反応することは無い。


『ウオオアア――』


 巨大なうめき声が、街に響き渡る。声の持ち主は、すぐに分かった。いつの間にか、三人の誰も気がつかないうちに、腹部に巨大な口を持つ、異形の化け物が現れていた。リリムが軽く魔法を放つと、その大きな口でそれを呑み込んだ。大剣を構えようとした時、もうすでにキャロルが飛び出していた。猫のように体をしなやかに曲げて、大きな化け物の体に飛びつく。手には、小さなナイフが二本握られていた。


「追わないのですか?」

「一旦、あの子の実力を見ておこうと思って」


 この先付いてくると言うのなら、それ相応の強さが必要。強さがないなら自分が鍛えなければと、そう考えていた。


「あと、精霊術師の戦い方を見てみたい」

「そちらが本音ですね」


 ばれたか、とちょっぴり舌を出してみせる。キャロルの方は、化け物の体を駆けまわりながらナイフで、まるで踊るかのように細かな傷をつけていく。さっき精霊が居ないと言っていたが、どうするのだろうかという考えは、すぐに答えが出た。彼女が攻撃するたびに、彼女の魔力が大きくなっていく。化け物の血を媒体に、精霊を無理やり召喚しているのだ。少しづつ、化け物にダメージを与えていく。


「大丈夫でしょうか……?」


 キアレの心配そうな声が聞こえる。ダメージは入っているはずなのに、化け物が怯んでいるようには見えなかった。それに対して、キャロルの動きが鈍っているように見えた。大丈夫でしょ、とリリムが返そうとした時、化け物が腕を払った。その勢いに煽られて、キャロルが二人のすぐそばに落ちてきた。


「キャロル様!」


 駆け寄ろうとしたキアレを掴んで、リリムがそこから高速で離れた。これから起きることを察知したから。


「来るのが遅いよ……獄炎の精霊(イフリート)


 地面に打ち付けられたはずのキャロルは無傷。背後に、燃え盛る炎を纏う魔人が立っていた。


「許してくれご主人様。ちょっと時間かかっちまった」


 魔人の弁明を笑って聞き流し、右腕を真っ直ぐ空に掲げる。魔人も共に、手を掲げた。


「燃え尽きるがいい。煉獄(ゲヘナ)


 空に巨大な魔法陣が浮かび、紅蓮の隕石が無数に降り注ぐ。化け物はいつの間にか消え、辺り一帯は岩石と炎だけが残る、荒野に変わってしまった。


「危うく巻き込まれるところでした……ありがとうございます、リリム様」

「気にしないで。さすがねキャロル」


 キャロルはにっこりと笑って、ピースをしてみせた。背後に居た魔人は消えていた。リリムの中で、キャロルの評価が少し上がった。三人は、また廃墟を散策していく。

 

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