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魔王が運ぶはフェアリーレン  作者: 和水ゆわら
二章 竜人の国 ドラテア
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六十六話 第二ブロック

「さてと、そろそろかな?」


 闘技大会の観客席に座り、ステージを見下ろしながらリリムは呟いた。


「人も増えてきたし、そうだろうな」


 言葉を返したのは、その隣に座るフリート。彼の言う通り、ステージ上には第一ブロックと同等の人数が既に集まっていた。


「メレフさん、勝てるかなぁ」


 体をゆらゆらと揺らしながら、フリートとは逆側に座るトニアは言う。


「そっか……トニアはあの子が戦っているの、見たことないものね。メレフは強いから、きっと大丈夫よ」

「少なくとも昔は七大魔竜で最強だったんだ、本気出さなくとも余裕だろうよ」


 少し心配の色が浮かんでいたトニアの表情が、二人の言葉にぱぁっと輝く。


「そっか、二人がそう言うなら安心だね」


 トニアはそう言うと、視線をステージへと向ける。そこにメレフの姿は無い。まぁ、彼女の強さを考えれば当然のことではあるのだが。


『皆様、お待たせいたしました! 第二ブロック開戦の準備が整っております!』


 第一ブロックと同じく、逞しい声の放送が響く。それに呼応して、観客席のテンションも上がっていた。


『それでは今回も、注目の二名をご紹介します! まずは一人目。遥か南に存在する錬金術の都、アルケミアより遥々参戦したのはこの男! アルラ・ドレイク!』


 その紹介と観客席の歓声と共に現れたのは、翡翠色の長髪を後ろで束ねた、整った顔立ちの、耳長の妖精(エルフ)の少年。透き通るように綺麗な白衣をその身に纏い、両腕には、錬金術の象徴である金色の星があしらわれた、黒い皮の手袋を装着していた。

 彼はそのままステージ中央に立ち、観客席へと一礼。どこかの貴族の生まれなのだろうか。その所作は上品の一言だった。


『そして第二ブロック最後の参加者がこちら!』


 放送に合わせて、黒い稲妻が数度、ステージに降り注いだ。それが治まると同時に、最後の参加者――メレフがそこに舞い降りた。


「全く、派手に登場しろと言われたのだが……これで良かったのか……?」


 少し文句ありげに、メレフはそんな言葉を漏らしていた。


『雷光と共に現れた彼女こそが、最後の参加者! その小さな体に秘める魔力は、規格外! メレフ・アペレース!』


 見た目だけはとても幼い彼女が、一つのブロックで最も大きな魔力を持つ……それが大衆の心を掴んだのか、観客席からはとても大きな歓声が上がっていた。その声量は、もしかするとフリートの時を超えていたかもしれない。


「……大注目ですね」


 想定よりも大きな歓声に圧倒され。少し硬直していたメレフに、一人声をかける者が居た。


「ん……あぁ、アルラとか言ったか。注目されるとやりづらくて適わんな……よろしく頼むぞ」


 彼の言葉に我を取り戻したメレフは、そう言いつつステージの中央から少し外れたところへと動いた。


「ふむ。思ったよりも退屈せずに済みそうだな」


 ニヤリと口元に笑みを浮かべ、メレフはそう零した。その目はアルラを見つめながら。


『それでは選手全員が揃いました。予選第二ブロック、開幕です!』


 放送と共に、鐘の音が鳴る。その開戦の合図と共に、百人程の魔力が同時に解き放たれる。


「ここは子供の遊び場じゃねぇんだよ!」


 巨漢の人竜族(ドラゴノイド)が、メレフ目掛けて、その体に見合う大きさの大斧を振り降ろす。その刃を避けるのではなく、彼女は掴んだ。


「そうだな。余も遊びのつもりでは来ていないぞ」


 そのまま少し力を籠めると、男の獲物は砕け散った。


「え……」


 直後、メレフの小さな拳から放たれた裏拳が、男の顔面を打ち抜いた。その衝撃で低く飛んだ彼の体は、ステージの壁に激突して、止まった。


「さて、やるとするか」


 そう呟くと共に、メレフは虚空から、大きな水晶が頂点に取り付けられた、一本の大きな杖を取り出した。それに付属するように、漆黒の玉座が彼女の背後にふわふわと浮かぶ。


「平服せよ」


 ゆっくりとその玉座に座り、メレフは一言そう告げた。それに合わせて、彼女の魔力が解き放たれる。種族の祖としての、規格外の魔力を。彼女の魔力の奔流が、広いステージを駆け巡っていく。その波に呑まれた参加者達は、次々と膝を付き、倒れていく。


「……なんだ、耐えられたのはお前だけか」


 十数秒後、魔力の奔流が収まったステージで立っていたのは、アルラだけ。流石は『注目の選手』と言うべきだろうか。少し、その体は震えていたが。


「まぁ良いか。少しは楽しませてもらうぞ」

「……公爵錬金術師、アルラ・ドレイク。メレフさんを楽しませるには少々力不足ではありますが、全力で参ります!」


 黄金と白銀の対照的な色をした、腰に刺した二本の剣を抜き、アルラは跳んだ。少し足元の形を変え、勢いの乗りやすい体勢からの跳躍。メレフはそれに対して、一度杖を振った。


「先ずは小手調べ、という奴だ」


 空から、漆黒の雷が降り注ぐ。それらは全て、正確にアルラを狙っていた。小手調べにしては余りにも苛烈なその攻撃を、アルラは避けるのではなく、左の手で――白銀の直剣で受け止めてながら、メレフの方へ距離を詰めていた。黒き雷を受ける度に、彼の左手に握られた白銀の剣は、輝きを増していた。


「受けた痛みをわが糧として、輝け 白銀の剣(アガートラム)!」


 手を伸ばせば届くほどの距離で振り下ろされた白銀の直剣を、二人の間に突如現れた、毒々しい色の盾に阻まれる――ことはなく、そのままその不気味な盾を両断した。


「やるな……!」


 更にそれに続いて、感心するような表情を浮かべるメレフへ向けて、アルラは二本の剣で挟み込むように、彼女の首目掛けて、斬りつけた。完全に、命を取る覚悟で。


「良い威力だ。だがまだ甘いな」


 アルラの二本の剣から放たれた斬撃は、確かにメレフの首筋へと命中した。したのだが、そこで止まっていた。彼女の首に薄っすら残る竜の痕跡……鱗に受け止められていたのだった。


「これで終わりか?」


 怪しい笑みを、メレフは浮かべていた。それに一瞬恐怖を憶え、アルラは大きく飛び退いた。


「ふむ。良い判断だ」


 そう笑うメレフの足元には、大きくヒビが入っていた。彼女の魔力に押しつぶされ、割れていたのだった。


「……あっぶな」


 あと数秒退くのが遅れれば自分もそうなっていたかと思うと、アルラの背筋に冷たいものが走る。


人造人間・(ホムンクルス・)試作(ファルセダー)


 恐怖を押し殺しながら、アルラが全身に魔力を流していく。自らの体を錬金術で作り替え、無理矢理その力を強める。アルラは、短期決戦を狙っているようだった。


「行きます!」


 高らかに宣言すると同時に、アルラが轟音を立てながら大地を蹴る。先と同じく足元を作り替え、メレフのすぐ目の前へと跳躍。但しその速度は、先刻の倍以上まで跳ね上がっていた。

 その速度を乗せ、黄金の剣を彼女へと斬りつける。当然、何の捻りもないそれが届くはずもなく、メレフは涼しい顔でその剣を、右手に握る杖で受け止める。


「まだまだ……!」


 受け止められることは想定内と言わんばかりに、そこから何度も、黄金の剣が振るわれる。それとメレフの杖が交差する度に、逆の手に握られた白銀の剣の輝きが増していく。

 それから放たれる斬撃の威力を見たメレフは、それに意識を割かずには居られなかった。対するアルラはというと、少しずつ速度を上げていく。それを受け止めるメレフの顔は、どこか楽しげに見えた。


白銀の剣(アガートラム)


 アルラの剣が目が痛くなるほどの輝きに達した時、彼はそう宣言すると同時に白銀の剣を振り上げた。当然、メレフはそれに対応せんと、杖に魔力を込める。

 アルラが斬撃を放たんとした瞬間、その手から、強大な魔力の込もった白銀の剣が手放された。完全に予想外の行動に、メレフの行動は一瞬、止まった。


「本命はこっちです。打ち砕け、白銀の右腕(アガートラム)!」


 その隙をついて放たれたのは、手袋を外したアルラの右手――白銀に輝く義手から放たれた強烈な一撃。魔力の防御など関係無いと言わんばかりに叩き込まれた拳の一撃は、メレフを玉座ごと吹き飛ばした。


「……思ったより重い一撃だな」


 空中で体勢を立て直したメレフの口から、そんな言葉が零れた。アルラの一撃が命中したであろう彼女の頬には、痣ができていた。


「お返しだ。少しだけだが見せてやろう」


 一瞬、ステージ内の空気が歪む。メレフの纏う魔力が、つい数分前とは比較にならない程に強大になっていた。


「開け――冥界の扉(ヘルズゲート)!」


 玉座に座った魔竜が、杖を空に掲げる。それに呼応し、ステージ上空に禍々しく輝く魔法陣が浮かぶ。そこから、蛇の頭にも人の手にも見える、無数の不気味な影が、アルラ目掛けて伸びる。


「ぐっ……まずい……」


 自身に向かって放たれた無数の影を、黄金の剣で捌く。先の一撃の反動か、彼の右腕、白銀の義手には大きくヒビが入っていた。それでもなお、錬金術による防御と左手のみでなんとか対処しているあたりは、流石と言うべきだろうか。


「……詰み、というやつだな」


 無数の影に対処していたアルラの隙をついて、いつの間にか浮かぶ玉座と共に距離を詰めていたメレフが彼の眼前に、杖を突き付けていた。それは、アルラにとっては鋭い刃の切っ先を向けられているのと同質に感じられた。


「……強すぎですよ」


 左の手で握りしめた黄金の直剣をその場に手放し、動くその腕を上げながらアルラは大人しく降参の意を示した。同時に、鐘の音が大きく響き、試合の終わりを告げる。


「まぁ、退屈なものでは無かったぞ。ありがとな」


 アルラに向けた杖を下げ、玉座から降りたメレフの顔は、清々しいほどの笑顔だった。

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