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魔王が運ぶはフェアリーレン  作者: 和水ゆわら
一章 平穏の国 パシフィスト
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四十話 深層で見つけたもの

「……ってことがあって、私はリリムの下についてるんだよね」


 リズが、自身の背丈よりも大きく、鎖の巻き付いた棺桶を背負って自分とリリムとの出会いを、暗い、長い通路を歩きながらテリスに話していた。()()()()()()()()()()()()。ただただ嬉しそうに、どうしても話したくてたまらないといった感じで話すリズのことを、テリスは年に似合わぬ優しい顔で見つめていた。


「リリムさん、凄い方ですよね。私達兄妹でも受け入れてくれたし、私達のお父様も助けるとそう言ってくれた……この国とリリムさんとは全く関係ないのに」


 テリスのその言葉に、リズはこくこくと頷く。


「私とリリムだって、何か関係あったわけじゃ無いよ? さっき話した通り、最初は敵としての出会いだったからね。それなのに私のことを解放してくれた。だから私は、すごく感謝してるし、どうしようもなくリリムが好き」


 そう宣言するリズの顔はとても眩しい笑顔で、見ていたテリスもつられて微笑んでしまうようだった。


「さてと、早くリリムと合流しなきゃ。ついでになんか見つけて帰って感謝されちゃおっかな」


 白く長い髪を靡かせて、リズは急に走り出した。その後ろを慌ててテリスは追いかける。二人の移動は、すぐに終わった。長く伸びていた通路の突き当たりに彼女達はたどり着いていた。来た方向以外は全て壁の、行き止まり。


「……どうします?」


 テリスの問いにリズは答えず、じっと壁を目隠し越しに眺めていた。その視線の先の壁に、小さく割れ目が入っていた。その中に躊躇なく、リズは右手を突っ込んだ。


「ちょっとリズさん、危ないですよ……」


 テリスの心配そうな声をよそに、平気平気と笑いながらリズはその中を探る。外からは見えないが、割れ目の中にはちょうど腕一つ分程度の空間が存在していた。


「これ、なんだろ」


 リズの手に、何かが触れた。小さな空間の中心に、少し柔らかいような、押したら凹むものがある。


「何かありましたか?」


 その質問に答えるよりも先に、リズはその凹むものをぐっと、押し込んでいた。それと同時に、彼女達の足元で、コトリと何かが落ちたような音が鳴った。


「……鍵かな」


 リズが拾い上げたのは、濁った青色の宝石のはまった鍵。それと隣で腕を組み、自身を少し怒ったような表情で見つめるテリスとを見比べ、小首を傾げる。その態度に、思わずテリスは声を出していた。


「あのですね、流石に軽率ですよ。今回はたまたま何もなくそれを手に入れられましたけど、もしもあれが罠だった場合、何が起きてたのか分からないんですよ!」

「う……それはごめんなさい……で、でも、何も無かったし……」


 そう言ってしょんぼりとするリズに、テリスはそれ以上とやかく言えるような性格ではない。


「まぁ……気を付けましょう」


 テリスが振り返って歩き出そうとしたその瞬間の出来事だった。リズとテリスの足元の床が、消えた。もちろん二人の体は空中に投げ出され、暗闇の中へと落ちていく。


「だから言ったじゃないですかあぁ!」

「ごめんなさい! 来い、災禍の揺り籠(コーニャトロフィ)!」

 

 リズの言葉に呼応して彼女の背負った黒い棺桶が大きく動き出し、あの不気味な見た目を持つ人形へと姿を変える。人形は棺桶部分を大きく開くと、長い腕を伸ばし、リズとテリスをその中へと閉じ込めた。その直後、腕と車輪が消え、棺桶だけとなる。漆黒の箱はそのまま、暗く深い闇の中へと落ちていった。

 数十秒経って、ようやく棺桶は底へ着いた。轟音と衝撃を纏って底へと叩きつけられた棺桶は、一瞬の静寂の後に、人形へと姿を変えた。ゆっくりと胴体の扉を開くと、その中からリズとテリスを優しく掴み、外へ出す。


「ありがと、助かったよ」

「ドウイタシマシテ」


 リズの感謝の言葉に、人形は静かに頭を下げる。そのまま人形は黒い棺桶となり、鎖を出して彼女の背中へと張り付いた。


「……今のは?」

「今のって……さっきの絡繰りのこと?」


 尋ね返すリズの言葉に、テリスは頷いた。


「なんなんだろうね。ずっと私と一緒に居る、私の大切なお友達。見た目はちょっと怖いけど、とっても強くて優しいんだよ?」

「そうなんですね……凄いや」


 リズの背負ったままの棺桶を優しく撫でながら、テリスはそう言葉を漏らした。


「……テリス?」


 暗闇から、自身を呼ぶ声がして、テリスは目線を棺桶から目の前の薄暗い空間に移す。そこに居たのは、彼女が最も大切にしている存在。彼女の半身とも呼べる少年――アナトだった。


「お兄ちゃん!」


 最愛の兄の姿を認めると同時に、テリスはその体に飛びついた。


「無事でよかった……リズさんだったっけ……妹を、ありがとうございます」


 自分を抱きしめる妹の頭を優しくなでながら、アナトがリズへと謝意を述べる。


「気にしないで、私たちの仲間でしょ? それよりも耳長の妖精さん(サリオン)は?」

「一緒に居ます。多分もうすぐ追いついてくると……」


 アナトの返答に合わせて、軽い足音がリズたちのそばへと近づいてくる。少し息を切らしながら、足音の主であるサリオンが姿を見せた。


「あのなぁアナト君、大きな音が聞こえたからって急に一人で突っ走らないでくれ……って、そういうことか」


 リズとテリスの姿を認め、サリオンはアナトを責めることを辞めた。彼が一体何があったのかと言いたそうな表情をしているのに気づいたリズは、目が覚めたらテリスと共に居たこと、そしてそこから進んでいるうちにここに落ちて来てしまったこと、道中で不思議な鍵を手に入れたことを伝えた。


「説明ありがとうございます、リリム様の精霊様」

「リズ」


 サリオンの言葉に対して、ぶっきらぼうにリズが言った。その言葉の真意が分からず、彼は困惑の表情を浮かべていた。


「私はリズって名前があるから。そんな長ったらしいので呼ばないで。あと、そうやって過剰に敬って話すのも辞めて欲しい……何だか辛い……」


 リズは、自分の主から受け取った名前に誇りを持っていた。故に、先のサリオンの呼び方は彼女にとってあまり気に入らないものだった。それと、敬意を込めた話し方は、彼女が覚えていないはずの、過保護なまでに大切にされていた過去をどこかかきたてるものだった。


「……そっか、じゃあ普通に話させてもらうね。一旦、その見つけた鍵見せてくれる?」


 何かを察したようで、サリオンはリズに対する話し方を変えた。彼の要求に対し、もちろんと言わんばかりに懐から濁った宝石の嵌った鍵を取り出す。それを受け取ると、サリオンは綺麗な蒼い瞳でその鍵をじっと見つめた。


「なるほど、これを集めたら良いって感じか……そこに行けばリリム様たちと合流できるかな。行こう」


 サリオンの提案に対して、反対する者はいなかった。彼の固有魔力は、物体を全て調べるもの。鍵を調べ、使う場所まで特定していたようだった。

 彼の先導に従って、アナトとテリス、リズの三人は迷宮を進んでいく。その道中は特に何もなく、強いて言えば数体のモンスターを倒しながら進んだ程度だった。その結果四人がたどり着いたのは、大きな扉のある、明るい部屋だった。

 その扉の前に、一人の竜人族(リザードマン)が立っていた。黒い仮面を被り、夜空よりも暗い、吸い込まれるような黒色の片手剣を腰に携えており、纏う魔力は何か変だった。リズが背負った棺桶を降ろし、テリスたちへと下がるように言う。彼女が魔力を解放しようとした瞬間、竜人が言葉を発した。


「止めましょう。ここは戦闘するべき場所ではありません」


 その言葉に敵意がないのは、不思議と四人ともに感じられた。


「私はアルテア。ここの門を守っている者です。この先、最下層には私の主がいらっしゃいます。そのお方の機嫌を損ね、入った方が死なぬようにここを守っているのです。貴方達を通すわけにはいきません」


 淡々と、彼はそう述べた。それと同時に、黒き片手剣に手をかける


「それって、俺たちがその主とやらよりも弱いって言いたいの?」

「はい。貴方達は私に勝てませんので、私の主になど、認められません」


 テリスの問いに対してのアルテアの言葉に、リズ以外の三人は少し不満を感じ、魔力を解放しようとする。戦ってもいないのに分かるはずがないだろうと言うかのように。


「ダメ。やめよう……本当に勝てないから」


 アルテアと自分たちの力関係を正確に理解しているのはリズだけだった。その頬に冷や汗を浮かべた表情を見て、三人はそれを理解したようで、魔力を抑えた。


「……理解していただけて何よりです。貴方達の主が来るまで、ここでゆっくり休んでいて下さい。貴方達がここを通ることができるかはその御方の強さ次第です」


 アルテアがさっきまで纏っていた堅苦しい雰囲気が消え、一気に柔らかくなる。リズは内心、かなりホッとしていた。彼女の実力の見立てでは、リズとアナト・テリス兄妹、サリオンが同時にかかっても恐らくはアルテアには勝てないという感じだった。それが故に、リリム達が合流できても大丈夫なのかといった不安が、リズに這い寄ってきていた。


「大丈夫だよ、リズさん。リズさんの大好きなリリム様は、誰よりも強いでしょ? 信じて、私たちは待とう。それしかできないから」


 彼女の不安を払ったのは、テリスのそんな言葉だった。自らの主を信じられていないリズの心に、そっと手を伸ばしていた。


「そうだよね……リリムなら、大丈夫か」


 静かに、リズはリリムを信じる事にした。


 

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