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魔王が運ぶはフェアリーレン  作者: 和水ゆわら
一章 平穏の国 パシフィスト
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二十七話 騒乱に休みなど無く

「改めて、一体何があったのか教えてください」


 フーとの短い戦闘を終えて、キャロル達は自分達がプラドーラに入ってきた路地に居た。そこで五人の耳長の妖精(エルフ)達にこの国で起きたことを尋ねていた。少し言葉を詰まらせながら。


「……信用しても良いのですか?」


 短い沈黙の後、妖精の一人が澄んだ声でそう言った。リーダーらしき少年と同じ、綺麗な銀髪を持つ少女。彼女の質問にキャロル達が答えるよりも先に、リーダーらしき少年が口を開いた。


「俺はサリオン。この耳長の妖精達のリーダーだ。貴方達を信用します。簡潔に言うと、俺達耳長の妖精は、小人(ドワーフ)に裏切られました」


 悔しそうな声だった。ただ流石に説明不足だと思ったのか、言葉を続ける。


「元々プラドーラは、耳長の妖精と小人の共存国家だったんです。稀に少し厳しい政治もありましたが……数の少ない耳長の妖精にも平等な権利があって、長い間共存していました。ただ先日、小人の国王が共存を放棄するって宣言を出して……」


 彼はそれ以降は何も言わなかった。表情が少し苦しそうだったために、キャロルはこれ以上追求するのはやめた。聞いた会話等から予測するに、続きはそれに抵抗するために内戦が始まってしまったといった感じだろう。


「信用してくれるということで。吾輩はキャロル=エガリテ。このメイドさんがディアナ=ブロッサムさんで、先程皆さんを先導してくれた方がトニクさんです。絶対この戦いを終わらせますので、安心してください」


 簡単に自分達の紹介をし終えたところで、一旦落ち着いて脳内を整理する。サリオンの言っていた言葉は恐らく全て真実だろう。嘘をついているようには見えなかった。だが、そうだとしたら不可解な点が二つあった。

 一つ目は政治に対しての言葉が『稀に少し厳しい』程度だったこと。ディアナは、プラドーラという国は酷い圧政が起きていると言っていた。辻褄が合わないのだ。二つ目は急な国王の宣言。小人は元来、共存を望む本能を持っているし、何より今まで共存できたということは、小人だけではなく耳長の妖精からの評価も高かった筈だ。彼らを追放する理由が見当たらなかった。


「ディアナさん、この国の圧政って情報源どこですか?」


 キャロルに聞かれ、彼女はハッとしたような顔をしていた。


「そう言われてみれば、心当たりがありません……そういうものだと思っていました……」


 彼女ほどの女性が、情報源のはっきりしないものを言うはずが無かった。


「失礼します」


 キャロルが少し背伸びをして、ディアナの首筋に手を触れる。瞳を閉じて、ゆっくり呼吸するように彼女に促した。何かが中から吸い出されるような感覚に、ディアナは小さく身震いする。


「よし、もう普通にしてもらって大丈夫ですよ」


 キャロルの手に、黒い蝶々が留まっていた。夜空よりも暗い羽に、小さな、そして赤い魔法陣が浮かんでいる。


「この子、黒夢蝶って言います。対象者の体に溶け込み、ある事象に対する認識を阻害するって能力を持っている精霊です。恐らく、プラドーラが圧政に対する反乱状態というのに違和感を覚える人がいないのは、この子が悪さしてるんだと思います。この子の能力の有効的な使い方は印象操作(マインドコントロール)ですので。この子達は群体で一つの精霊なので、一匹に命令すればその群れ黒夢蝶全てがその命令を共有するんです」


 僅かな情報の違和感から、黒夢蝶がいるのではないかという解答にたどり着いたキャロルのことを、ディアナは内心賞賛していた。

 彼女の指に留まったままの黒夢蝶は、羽をわずかに動かしながらじっとしていた。その羽の魔法陣に、キャロルが触れた。彼女の指先から、微かな光が漏れる。黒夢蝶の魔法陣は、くすんだ赤色から綺麗な白色へと上書きされる。それと同時に、彼女の周りに無数の黒夢蝶が集まってきた。キャロルが指を鳴らすと、蝶々の群れは一瞬で姿を消した。


「何が起きたんだ?」


 傍目からすれば、何をしているのかわからない。トニクは首を傾げながらキャロルに尋ねた。


「契約の上書きです。あの黒夢蝶の主人を吾輩に上書きしました。本来の目的は、主人の特定だったのですが……」


 少し悔しそうな顔を浮かべる彼女を見るに、どうも上手くいかなかったらしい。


「ひとまず戦略立てますか。耳長の妖精達って、貴方達以外には?」

「居るには居ます。ただ、大多数が捕まってまして、もう生きてるかどうか……」


 実質、彼らが最後の生き残りのようなものらしかった。もしも小人の全てが国王の考えに賛同していた場合ーーあまり考えたくはないがーーこの争いを終わらせるためには、数的不利が圧倒的だった。真正面から制圧するのは余りに分が悪い上に、その方法はリリムやアンジュは使わないだろう。もっと合理的な方法は? こちらも相手も最低限の犠牲で済む方法は? 彼女の思考は少しずつ深くへと沈んでいく。


「あれれ、こんな奴らにフーさん負けちゃったの?」

「お兄ちゃん、警戒しなよ。フーさんが負けたってことはこの方達結構強いよ」


 そんな声が、ディアナの思考を遮った。声の主は、耳の長い、小柄な二人組。少し筋肉質な体に、線の細い、そっくりな顔。その外見は、小人と耳長の妖精を足したような感じだった。


「まぁ、俺達の敵じゃない」

「それはそうだね」


 その兄妹は、どうも敵意を持っているようだった。幼い顔、小さな体。それに全く不釣り合いな、真っ赤に染まった片手剣を、その二人は握っていた。


「まぁ、まずは一人目」


 兄の方が、そう呟いた。その直後、ディアナの眼前に、刃が迫ってきていた。すんでのところで身を引き、距離を取る。頬の薄皮が切れ、血が少し流れていた。どうも不吉なものを、彼女は感じていた。先程まで、彼女と少年の間にはそこそこの距離があった。それなのに、少しの予備動作も無しに一瞬で距離を詰められたことが腑に落ちなかった。


「今の避けれるってマジ? 凄いなぁ」


 少年が感嘆の声を上げた時、彼とディアナの間に激しい炎の壁が作り出された。キャロルが彼女の隣に立つ。


「ディアナさん、この二人は吾輩が相手します」

「大丈夫なんですか? かなり強いですが……」


 不吉な予感が、キャロルの提案を是とすることを躊躇わせた。キャロルが強いことは、ディアナにも分かっている。テクニの工房で見せた魔力の大きさは、彼女の実力を裏付けるものだ。それでも、彼女の中では心配が勝っていた。


「大丈夫です。吾輩強いし。危なかったら逃げられますから」


 笑顔でそう言い切った彼女のことを、ディアナは信用することにした。そもそもの話、彼女はリリムという規格外の存在から、強いと評されている。心配する必要など、最初から無かったのかもしれない。


「わかりました、後で合流しましょう……無理はなさらぬよう。ご武運を」


 一度礼をし、トニクとサリオン達を連れて路地を進んだ。これから起こる、兄妹な魔力のぶつかり合いに決して振り返らないようにして。

 炎の壁の中に入り、キャロルは襲撃者の兄妹と相対していた。猫耳と、自前のスカートに開けた穴から覗く尻尾の毛を、無意識に逆立てていた。

 

「あー、話は終わった?」


 気の抜けた声で、少年はそう言った。


「吾輩を倒すのには良い機会だったのでは?」


 そう聞き返したキャロルに、兄妹は声を出して笑っていた。彼女のことを馬鹿にするような、調子に乗っている子供の、ケラケラとした笑い方で。


「そんな機会、必要無いです」


 妹が、そう言った。気がつけば、キャロルの目の前に少女は詰め寄っていた。彼女はキャロルの胸に、そっと手を触れ、不敵な笑みを浮かべていた。


「だってほら……貴女の心臓に手が届く」


 彼女の囁くような声に底知れない恐怖を感じ、反射的にキャロルは魔力を解き放った。それに引き起こされた衝撃波に、少女は煽られキャロルと距離を離される。今度はそれと入れ替わるように、兄がキャロルのすぐ後ろに立つ。全く足音はさせずに。


「もらった」


 少年が刃を振り下ろした瞬間、既にキャロルの姿は空中にあった。弓を取り出し、魔力を込める。するとそれは形を変え、フーへの反撃の際に身につけていた巨大なタンクと右腕と一体化した大砲になる。そのまま真下へと、大砲から魔力の球を放った。地面に触れた瞬間、その魔力球は爆裂する。激しい衝撃波と目を眩ませる閃光が、炎の壁の内側全域を、一瞬のうちに包み込む。土煙の舞い上がるその中心に、キャロルはふわりと舞い降りた。


「……ちょっと強いじゃん」

「それは同意。少し警戒しよっか」


 土煙の落ち着いた頃、そんな会話が聞こえてきていた。炎の壁の中は、全て更地になり、その中に三人だけが立っていた。


「俺はアナト・キロシア」

「私はテリス・キロシア」


 兄妹は、キャロルへそう告げた。先程までの、楽しんでいるような無邪気な雰囲気は、もう二人の顔には残っていない。キャロルへの認識を、『取るに足らない存在』から『警戒するべき敵』へと変更したような感じだろうか。


「貴女を殺す、私たちの名前」

「覚えて冥府に広げてくれよ?」


 キャロルの事を警戒するべき敵として認めた上で、それでもなお負けることなどあり得ないと思っているような息の揃った言葉。言葉を告げると共に高まる彼らの魔力が、その自信を裏付ける。


「ではこちらも名乗らせて頂こうかな。キャロル=エガリテ。貴方達には負けないよ?」


 尻尾の先をわずかに震わせながら、キャロルは自身の名を告げた。次の瞬間、三人の魔力が限界まで高まる。本気の戦いが、今始まろうとしていた。

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