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魔王が運ぶはフェアリーレン  作者: 和水ゆわら
一章 平穏の国 パシフィスト
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十三話 いざ出発……?

 リーディア達三人と再会した後、リリムは一旦、巨木の元へと戻った。そこにはアイネとキャロルが居て、仲良く話している様子だった。


「あ、お姉様おかえり!」


 ぱっとした笑顔で、キャロルがリリムを出迎える。トニアは彼女の頭の上にちょこんと乗っていて、意気投合している様子でリリムは安心した。


「キャロル、そっちの進捗はどう?」


 住居と食料を任せろとオベイロンは言っていた。今の時間でどのくらい進んでいるのかが気になった。


「継続的な食料確保のめどは立ったよ。ただ住居確保がね……人が居ないと進まない感じ。吾輩はお姉様が戻ってくるのを待ってたの」


 仕事が早いと思った。二つの目標のうち片方がもう終わっているとは思わなかったから。


「フィーロ、レイ。貴女たちはキャロルについて行って、手伝ってくれるかしら」


 リリムの指示を、二人が断るはずが無かった。


「それじゃあキャロル、リーディア連れてパシフィスト行ってくる」

「え、今から?」


 キャロルの指摘はもっともである。日はもうすぐ傾きだす時間帯だし、あんまり得策とは言えない。ただ、彼女が指摘したころにはもうリリムはその場に居なかった。


「……リーディアさん、大丈夫だとは思いますが、お姉様をお願いします」


 キャロルに見送られ、リーディアが慌ててリリムを追いかける。自由人だなと、見送ったキャロルは感じた。


 リーディアがリリムに追いついたのは、妖精の森(ワーグナー)の出口だった。リリムがそこで、リーディアを待っていた……というわけではなく、彼女が少し戦っていたから。もちろん、リーディアが追いついたころにはもう戦闘は終わっていたのだが。


「やっと来た」


 やっと、と言えるほど時間は経っていない。妖精の森は広いとはいえ、あの巨木からこの出口までは大した時間はかからない。それにも関わらず、リリムの足元には無数の、鉱物でできた人形のようなものが転がっていた。


「……これは一体?」


 リーディアの声は、困惑しているのがよく分かった。


魔製人形(ソリスリーゴーレム)。魔力の豊富なところに集団で現れることのあるモンスターよ。多分私たちが来たからそれに反応したんだと思うわ」


 そう言って、リリムはまたふわりと浮かび上がった。今度はリーディアを置いていくことが無いように、彼の翼にそっと手を触れる。


「それじゃ行くよ。日が沈みきる前に到着したいところ」


リリムが翼をはためかせ、急加速する。その後ろに、ピッタリとリーディアも着いて行く。リリムが彼の翼に触れた時に、なにか魔法でもかけたのだろう。二人の速度には差が無かった。パシフィストが存在するのは、エガリテの北。隣国とはいえ、二国の間には山脈を挟んで、そこそこの距離があった。リリム達はちょうど、その山脈に差し掛かった頃だった。大きく舞い上がり、山脈を越えていく。高度が上がるにつれて、風も強くなっていく。その途中で、リリムが急に止まった。後ろに着いていたリーディアが、それに反応しきれずリリムとぶつかる。


「あ、急に止まってごめん……」

「いえ……どうかなさいましたか?」


頭を抑えて、リーディアが聞く。リリムは彼の口に人差し指を当て、黙り込んだ。彼の耳に聞こえてくるのは、ごうごうと吹き荒れる風の音。それだけだった。リリムはというと、目を閉じ、静かに音を聞いていた。一体どうしたのか、とリーディアが口に出そうとした時、リリムは高度を落としていた。そびえ立つ山の八分目あたりに着陸する。


「気の所為だと良いんだけど、さっき誰かの声がしたの。少しだけ探してみましょう」


主人からの短い指示。


「魔力を探してみては?」

「もうやってみたけど、大きな魔力に塗りつぶされてよく分かんないのよ」


楽はできないらしく、大人しく二人は少しだけ、辺りを探索した。

日が傾き出した頃のことだった。


「リリム様ー!」


リーディアの呼ぶ声がして、リリムは彼の側へ向かった。そこには、ぽっかりと洞窟が口を開けていた。


「誰か居るの?」


中に向かって問いかけてみるも、答えはない。キャロルも連れてきていれば分かりやすかったのにと思いながら、洞窟の中へと足を運ぶ。警戒しながら、その後ろをリーディアが着いてきていた。真っ暗な洞窟を、ずんずん進んでいく。夜目が効くのは便利だなと思っていると、最深部にはすぐにたどり着いた。広い空間の中心に、ポツンと誰かが倒れているのが見えた。大きなカバンを背負った犬人族(コボルド)の少年が、ぴくりとも動かずに。飛び出そうとしたリーディアを、リリムが制止する。


「落ち着いてよく見なさい。貴方はこの状況、どう思うかしら?」


 言われた通りに、一旦辺りを見渡す。広い空間の壁や天井には、無数の穴が開いていて、そこから得体の知れない気配がする。さっきリリムが言っていた、大きな魔力というのはこのことだろう。


「……罠ですかね。あの犬人族を餌に、助けに行こうとした人たちを釣るつもりでしょう」

「そうね。じゃあ行くわよ」


 そう言い放ち、リリムが犬人族のすぐそばに跳んだ。さっき罠であるということを認めたうえでの行動とは思えなかった。カバンと傷だらけの犬人族を抱えて、すぐにリーディアの元へ戻る。さっきまで彼女達が居た場所に、巨大な百足が音を立てて、這い出てきた。


「リーディア、一人でやれる?」


 リリムに期待されていると感じたのか、リーディアがピンと背筋を伸ばす。


「もちろんです」


 槍を握りしめて、リーディアが飛び出した。彼のことを敵として認識したのか、耳障りの悪い鳴き声が洞窟に響く。百足って鳴くんだ、などと場違いなことを考えながら、リリムは腕の中の少年の傷を癒す。いつでも手助けはできるように気を張りながら、戦闘を見つめていた。威嚇としてか、真っ赤な液体を百足が吐き出した。リーディアの足元の岩にかかったそれは、岩を侵食してドロドロに溶かしてしまった。飛ばしてくる腐食液に当たらぬよう、飛び回りながらリーディアは機会をうかがっていた。何度か槍を突き立ててはみたものの、甲殻が硬く、うまく攻撃が通らない様子だった。その間にも、洞窟の壁はだんだんと溶かされ、形が変わっていく。


「リーディア、時間かけてると危ないわよ?」


 リリムからそんな野次が飛ぶ。みんながみんな、貴女みたいに強いんじゃないんですよと心の中でツッコミながらも、彼女が言っていることは正しいとも考えていた。腐食液がものを溶かすと同時に、強い匂いのガスも発生している。リーディアの体も、それを吸って少しずつ重みを感じていた。恐らく弱い毒素を含んでいるらしく、彼女が言う通り時間をかけるわけにはいかないのだ。リリムの方はとちらりと目を向けるも、顔色一つ変えていない。


「……リリム様、いきます」


 彼が槍を真っすぐと上に掲げると、洞窟の天井に、青く巨大な魔法陣が現れる。


「全てを浄化する母なる水よ 汚れを喰らい 大禍の渦潮として 滅亡を 厄災の水(ノア)


 リーディアが唱えると、そこから、猛烈な勢いで水が溢れ出す。水属性の究極魔法。それは百足の体を吞み込み、押し流していく。大量の水が、洞窟に流れこんでいく。それはつまり……


「こんな場所でそんな魔法使うんじゃ無いわよ!」


 リリムの叫び声が響く。それも全て、水に吞まれてしまった。リリムはだ意識の戻らない、犬人族の少年と、自分自身に呼吸ができるような魔法をかける。


「はぁ……状況を考えてから使いなさい」


 リリムに言われて、確かに、軽率だったとリーディアは反省した。しかし彼がちらりと見たリリムの顔は、怒っているよりも楽しんでいるように見えた。少しだけ水の中を泳いで、洞窟の外に出る。そのころには、もう日はすっかりと沈んでしまっていた。


「すっかり日が暮れちゃいましたね」

「そうね。でも、彼を助けることはできたし、少し楽しかったわよ?」


 濡れた服を、炎の魔法で乾かしながらリリムはそう言った。ちょうどその時、リリムに背負われた犬人族が目を覚ました。そこから飛び降り、手を地について土下座の体勢を取る。


「助けていただき、ありがとうございます! 自分、商人見習いなのですが、泊まるところを見つけられず、洞窟で夜を越そうと思ったらあんなことになってしまいまして……」


 丁寧なお礼に、リリムは気にしなくていいよと返した。


「そうね……もし貴方さえ良ければ、うちの国で商売やってみない? また復興中だから少し待って欲しいけれど、ゆくゆくは大きな国になるはずよ」


 リリムにとっては、断ってくれても構わない提案だった。今は全く国として機能はしないし、彼にとってはメリットはあまり無いはずだ。


「つまり、新しい国の商売を独占出来ると……」


 彼はそう呟いて、少し考えている様子だった。一応、彼が欲しているかはわからないが、今までエガリテに起きたことと現状も手短に伝える。すると、彼はリリムの手をとって宣言した。


「行きます。是非お手伝いさせてください!」


 真剣な彼の表情と答えに、驚いた。本当に、それで良いのかと何度も聞き返す。それでも、彼の意思は揺らがなかった。


「……私はリリムよ、よろしくね。貴方、名前はあるかしら?」

「はい、僕はマルシャンと言います、よろしくお願いします!」


 結局この日は、パシフィストに行くことは無く妖精の森に引き返した。三人をキャロルが出迎る。あの巨木に向かうと、オベイロン達も休憩している様子だった。マルシャンを新たな仲間として紹介し、この日はささやかに、雰囲気だけではあるが仲間が増えたことへの祝杯を上げた。



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