§ 1-7 白い髪の女子高生
やや寒気を帯びた風の感触でゆっくりと目が覚めると、ここは外なのだろうか、夜の帳が降りていた。目からは枯れたと思っていた涙が流れている。嫌な夢でも見ていたようだ。
地面の冷たく硬い感触から、寝ぼけた意識がはっきりしていく。
上体を起こし、自分の身体を確認してみる。貫かれたはずの胴体を触っても痛みもない。何事もなかったかのように、いつも通りの身体だ。服も破れていない。
しかし、それに安堵したのも束の間。目に入る現実。周りの古びた神殿や、草も生えてない大地に無造作に佇んでいる岩々。まばらに生えてる枯れ果てた木々。それらが、先ほどの凄惨な光景と、絶望的な恐怖と、身体が裂ける激痛を思い出させる。身体をガタガタと震えだす。腕を交差し両肩を鷲掴みし、冷や汗が溢れ出す。すぐ横に置いてある刀を見て、また震えだす。
何だったんだ! さっきの化け物たちは!
震えながら恐る恐る周りを見渡すと、殺戮が始まる前と同程度の人影が見受けられる。多少のすすり泣く声は聞こえてくるが、夜なのも相まって静かな時間が流れている。
夜空を見上げると、そこには都会では見られないような満天の星空が広がり、表面の凹凸まで見えるような強大な望月が、夜の漆黒を照らしていた。
そんな薄暗さの中、蓮はふと気がつく。月明かりに照らされ神秘的に輝く白い髪を揺らし、両の手で握られた長い槍を左手に持ち、こちらに近づいてくる人影。ゆっくり近づいてくると、赤いスカーフの黒いセーラー服で、同年代の女子だとわかる。
彼女は俺のすぐ傍らに立ち、冷たい表情で見下ろしながら口を開く。
「あなた、名前は?」
「……鳴無 蓮」
「鳴無 蓮くんね。私は、水無月 愛菜。よろしくね……」
冷淡な声で、表情を変えず、手を差し出してきた。
「……おれに何か用?」
「えぇ。だから目が覚めるのを待ってたの。お願いがあってね。ここがどんなところかも聞きたいでしょ?」
「お願い? ……とりあえず、わかった。いろいろ知りたいこともあるし、まずはそれを教えてくれないかな」
「そんなに私も知らないけど、知ってるかぎりは話すわ。それでいい?」
「……それでかまわない」
あの化け物のこと。この世界のこと。周りの人たちのこと。なぜ、いま生きているのか? 知りたいことは山積みだ。この水無月という女子とは、ちゃんと話ができそうだ。
差し出された手を握り、蓮は立ち上がった。