§ 1ー2 地獄へようこそ
暗闇に光が広がっていく。ひんやりとした感触が頬から伝わる。どこからか生臭さが漂ってくる。はっとする。
「……んぅぅ。……い、生きてる?」
しかし、おかしい。痛みがない。目を開けて確かめる。伸びきった髪が邪魔をするが、右手には擦り傷一つない。見慣れた手の後ろに、見慣れない景色が広がっていた。
「ここは? ……どこなんだ?」
広がる景色は、石でできたボロボロの建物のようだ。ゲームである古代の神殿という趣だ。
周りを見渡すために身体を起こす。問題なく身体が動く。服装も飛び降りたままの制服姿で、履き慣れた靴を履いている。
死んで解放されなかったことへの悲嘆より、この不思議な景色への疑問が先行する。
のっそり立ち上がり、周りをよく見渡すと、傷んだ石柱以外の壁はなく赤みを帯びた陽光に外は夕暮れどきなのが解かる。違うほうを見ると、石碑といくつも武器のようなものが置いてあることに気が付く。
目ぼしいものはその石碑ぐらいだ。ふらふらと無意識に近づいていく。その石碑にはなにやら日本語が書かれていることが解かる。石碑の前に辿り着き、刻まれている文章を読む。
自から命を絶った者よ。地獄へようこそ。
授けた命を自ら捨てる愚か者には、地獄で苦痛と悔恨の念に苛まれ続けるがよい。
さすれば、罪は浄化し、望み通り人ではない、何も感じない生き物に生まれ変われるだろう。
されど、罪を顧み、苦難を乗り越えれば、人として再び、肉体をいただくだろう。
さぁ、足元にある刃を選び、それを持ちて、命の価値を示すがよい。
「何を言っている? 地獄だと? やはりおれは死んだのか?」
いまいち書かれている内容にピンと来ない。苦痛やら悔恨の念とは何を言っているのだろう。生まれ変わる? 死んだら何もない無になるものと考えていた。
刃とはこれのことか? 石碑の傍らにある剣やら斧やら、アニメやゲームで見たような武器が、多種多様に置いてあった。特に意識したわけではなく、その中から刀を選ぶ。竹刀や木刀なら小・中学校で散々握ってきたのがその理由だ。
石碑のいう地獄や苦難が何を意味するのか分からないが、選んだ日本刀を片手に、虚ろに鳴無蓮は神殿の外に足を向けた。