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知らされた真実

 その後、お兄様に抱えられて屋敷を出た。


 事件解決までは皇城に滞在することになり、先行部隊とは別に用意してあったという馬車に乗る。ルークとお兄様も馬を騎士に預けて同乗してくれた。


 ちなみに、騎士によって無事解放されたソフィーは別の馬車で公爵邸へ帰ってもらった。傍にいると言ってくれたけれど、フランツが心配しているだろうと説き伏せて。



 お兄様は私の顔色を窺いつつ、攫われてからの出来事を尋ねた。マルクの件以外は何事もなかったと簡単に説明し、彼らからは私の居場所が判明した経緯を聞く。


「ローザフィア様が……?」


「ああ。フォルモント夫人の犯行の証拠となる契約書を提出してきた。ニーナ嬢の名前でサインしてあったが、筆跡鑑定をすれば一目瞭然だ。ニーナ嬢への疑いは晴れているから安心してくれ。」


「ただ、シルヴァン殿下のことは何も知らなかったみたいでね。男達は誘拐未遂で全員捕らえているのにティアが見つかっていないと聞いて驚いていたよ。」


 頬杖をつき、一挙手一投足見逃したくないというように正面から見つめてくるルークと、隣で私の存在を確かめるように抱き寄せたり頭を撫でたりしているお兄様が順に説明してくれる。



 お兄様達はローザフィア様の証言を受け、夫人の行動を調査することにした。同時に、マルクと接触していたという謎の男性についても。


 調査の結果、夫人の方にも謎の男性の関与が確認された。そこでルークは男性の特徴が私から聞いていたシルヴァン様の変装と同じであると気付き、念のためニーナにも伝達魔法で問い合わせたらしい。屋敷の場所はローザフィア様がフォルモント家の御者から聞き出したそうだ。



「もっと早く気付くべきだったよ。特殊眼保持者に犯人が見つからない時点で、他にも高魔力を有する人間がこの国に滞在していることを。」


「ああ。それとサーチ魔法に引っ掛からない理由にもな。ティアが着けられていた腕輪は魔力を遮断する魔道具だ。殆ど知られていない王国の国宝だがな。」


「えっ!あの……その腕輪、抵抗した時に外れたのだけど……もしかして私、壊しちゃったの?」


 鍵が掛かっていたのだから、本来暴れたくらいでは外れないはずだ。不可抗力とはいえ国宝を壊してしまったのかと罪の意識を感じて青褪めた。


「いいや。あの王太子は隙を見て鍵を外していたそうだ。伝えなかったのは俺達が迎えに来ることを見越していたかららしい。お姫様が動く前にナイトが助けに来ないとね、とふざけたことを抜かしていた。」


「そ、そう。」


 壊してはいないと知って胸を撫で下ろす。あのタイミングで外れたのは運がよかったのだ。


 でもどうして国宝を他国に持ち込んでいたのだろう。ふと沸いた疑問について考えを巡らせていると、だんだんと頭が重くなってきた。お兄様の撫でる手が心地良く、馬車の振動のせいだと言い訳して肩に寄りかかってしまう。


「ん?ティア、眠いの?」


 お兄様に優しく覗き込まれ、ぼんやりとした思考のまま首を横に振る。


「だいじょうぶ……まだききたいことが、ほかにも……」


 ローザフィア様はどうなったとか、ニーナは今どこにいるのかとか、――青い光についてとか。


 けれどここに来て急激に緊張が解けてしまったようで、上手く意識を保つことが出来ない。


「昨日、あまり寝てないんだろ。顔色が悪いぞ。話なら明日してやるから。」


「そうだよティア。ほら、おいで。」


 お兄様はやけに嬉しそうな声でそう言うと、力の入っていない私の体をそっと横たえた。自分の膝を枕にさせて背中をポンポンと叩かれる。この年でそれはちょっと……と思いつつも眠気には抗えず、次第に安寧な眠りの世界へと沈んでいく。



「ふふ、羨ましいですか?」


「…………いや。今は家族の方がいいだろう。」


 意識が途切れる間際、そんな会話が聞こえた気がした。




  ◇◇



 意識が覚醒した明け方、私はまた見知らぬ部屋にいた。そこは皇城らしい豪華な一室だが、全体的に柔らかい色合いで女性的な印象を受ける。婚約者候補の打診を受けた日に泊まった客室とも違うようだ。


 それにしても、あちこちにピンクゴールドが使われているような……?


 ここは城のどの辺りなのか分かるかなと、窓に近付いてカーテンの隙間から外を覗く。夏のこの時間であればもう日は出ているはずだ。しかし天気が悪いのか、暗すぎて景色なんて見えなかった。


 外は諦めて、朝の散歩感覚とちょっとした好奇心で部屋の探検を開始した。すると出入り口とバスルーム等の他に内鍵のついた扉を発見し、鍵を開けて覗いて見ると――



「~~っ!!??」


 目に入った光景が信じられず、声にならない叫び声を上げた。


 まさか扉の先が別の寝室に繋がっていて、想い人の少し幼い寝顔が見られるなんて思うわけもなく。酷く動揺した私は慌てて扉を閉め、皇城の侍女が起こしに来るまでその場に蹲り続けたのだった。




  ◇◇



「すまない。警備の都合でな。」


 身支度と朝食を済ませた頃、お兄様と共に来訪したルークに問い質すとそんな答えが返ってきた。警備上の問題と言われると反論が難しい。


 でもまさか皇太子妃の部屋だなんて。まだ候補でしかないからと遠慮すべきなのか、これは本決定も近いのではと喜んだらいいのか分からず複雑な心境だった。


 夜のうちに訪れたお父様とお母様は了承済みで、寝ている私の顔を見て帰ったらしい。安堵のあまり涙ぐんでいたと聞いて申し訳ない気持ちになった。


「僕はまだ納得していないのですけどね。寧ろこの部屋が一番危険な気がしてならなくて。ティア、内鍵は()()()かけておくように。」


 にこにこしたお兄様に強く言い含められてぎこちなく頷く。ルークは心外だと言いたげに睨んでいるが、お兄様は意に介さない。内容が内容だけに居た堪れないので、早々に話題を変えることにした。


「えっと……それで、色々と話してくれるのよね?」


「ああ。まずフォルモント家だが。公爵は蟄居、公爵夫人とローザフィア嬢は貴人牢の中だ。」


 ローザフィア様の自供を知らない夫人は、昨夜陛下の呼び出しを受けて素直に登城し、そのまま拘束されたらしい。シルヴァン様は皇城の一室で自主的な軟禁状態、マルクは一般の牢に入っている。順次、宰相直々の事情聴取が行われるそうだ。


「ニーナ嬢は帰還命令が解かれた後も、自主的にこちらへ向かっているそうだよ。ティアが心配だからって。」


「……そう。私も直接会って謝りたいわ。遊びに行けなかったどころか、巻き込んでしまったのだもの。」


 事件解決まで私は皇城から動けない。リベンジは早くとも来年の夏になるだろう。落ち込んでいると、お兄様は優しい表情で私の頭を撫でた。


「ティアは何も悪くないよ。でもそれなら今度、ニーナ嬢をうちの領地に招待しようか。子爵領ほど遠くないから、僕も休みを取って行けるしね。」


 公爵領ならば冬の休暇でも可能だし、お詫びも込めてもてなすことが出来る。

 お兄様の提案に喜んで同意し笑顔を向けると、可愛い可愛いと更に撫で回された。心配をかけたせいか、少し落ち着いていたシスコンが再発した気がする。



 お兄様が満足するまで待った後、次の質問をしようと一度深呼吸をする。緊張で鼓動が速まるにつれて指先が冷えていく。


 本当は昨日のあの瞬間まで、あまり本気にしていなかった。私にとって“この世界の特別”はニーナだから。でももう認めざるを得ない――私が知らないミーティアの秘密があることを。


 圧迫感で苦しくなる胸を抱えながら二人を見据える。彼らは確実に知っている、そんな予感があった。


「次はあの青い光について――私が持っている力が何なのかを教えてほしいの。」


 二人はその質問が来ることを分かっていたかのように揃って目を伏せる。


 僅かな沈黙のあと、口を開いたのはルークの方。



「――ティアは星の精霊の祝福を授かっている。」


 帝国の伝承に登場する“祝福の乙女”の生まれ変わりでもある、と真実を告げる声には、微かな緊張の響きが混ざっていた。



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