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好きなら触れるのか

 不正疑惑騒動は、すぐにお兄様達にも知られることとなった。

 彼らはいつも生徒会へ渡される書類で試験結果を確認しているためあの場にはいなかったそうだが、噂が回るのが早かったのか当日の放課後には黒い笑みを浮かべたウィルお兄様が図書館にいた私のところまで訪ねてきて、何も言わずに生徒会室まで連れて行かれた。何故居場所が分かったのかは聞くまでもない。


 叱られるようなことは何もしていないのに……と思いながら大人しくついて行くと、そこにはルークお兄様と何故かニーナの姿もあった。


 あの日からルークお兄様に会うのは気付かれない程度に避けていたので少し気まずい思いをしながら促されるままに座ると、お兄様達2人から思いっきり頭を撫でられた。それからテーブルに置かれた大量のスイーツを勧められ4人でお茶会をすることに。


 よくよく話を聞いてみると、2人は面倒事に巻き込まれた私達を試験結果のご褒美も兼ねて労いたかったらしい。ただあのことがあってすぐ私達がお兄様達と一緒にいると目立つので、私のところへはウィルお兄様、ニーナのところへは伝達魔法でわざと別々に生徒会室まで呼んだそうだ。


 彼らが集めた噂によると、あの出来事は変な解釈もされずそのままの状態で全生徒に伝わっているらしく殆どの人が私に同情的らしい。ローザフィア様の普段の評判のせいもあるのだろう。ルークお兄様の人望のおかげでもあるかもしれない。

 ただウィルお兄様が言うには私の初めに周りを気にした素振りや最後の謝罪が効果的で、嫉妬したローザフィア様に絡まれた被害者の認識が強まっているそうだ。


 ローザフィア様に関しては自業自得だが、彼女の方が不正を行っているのではないかという噂まで広まってしまっているらしい。そこまでいくと言い過ぎなように感じて複雑な気分になった。彼女の努力まで否定するのは違うと思ってしまうのは偽善だろうか。


 ルークお兄様の呆れた様子からはローザフィア様への嫌悪が見て取れて、このまま彼女がもっと暴走してしまえばゲームより早い段階で断罪される可能性もあるのではとふと思った。



 ◇◇



 デビュタントが近づいたある日の昼休み、たまには外でランチをしようとニーナを誘った。事前にソフィーにお願いして作ってもらったお弁当を受け取ってからニーナとの待ち合わせ場所に向かう。


 生け垣に囲まれていて気付かれにくくあまり人の来ないガゼボを選んだが、そもそも昼休みは大多数が食堂かカフェにいる。外で食べようと考える人は少ないのでそこまでしなくてもよかったかなと思っていると、先に着いていたらしいニーナの声が聞こえてきた。


「すみません、お邪魔するつもりはなかったのですが……!あの、私は」


「挨拶はいい。早く去れ。」


 ……これは。もしかしてまずい場所を選んでしまったかもしれない。確か出会いイベントは放課後別の場所でだったはずだが、こうも簡単に変わってしまうのならゲームの記憶なんて当てにならないなと遠い目をしつつ、割って入るべきか悩む。


 まだデレていない彼はとりつく島もなく追い出そうとするだろう。実際イベントでもこんな感じですぐ終わる。だがニーナは私と入れ違ったりしないかと考えて去るに去れず困るはずだ。仕方ない。彼の休憩場所だったらしいガゼボを選んだ私が悪いのだから、顔を見せて謝罪の後すぐに二人で退散しよう。


「ニーナ、お待たせ……え」


 そこにいたのはニーナとフェリクス様と……ねこ?


 白とグレーの長毛を持ったスコティッシュフォールドのような猫。あまり詳しくないので月齢などは分からないが、子猫と成猫の間くらいだろうか。くわっと欠伸をしたその子はかわいい。かわいいけど、それよりも。


 なにこの尊い空間は!!



 あのフェリクス様が、ベンチに座った状態で猫を膝に乗せて背中を撫でている。よしよししてる。

 その目の前にいるニーナは挨拶すら拒絶する彼に困惑顔だが、その伸ばしかけた手は猫の頭に向いている。



 こっそり覗き見ればよかった。


 これはもう彼はニーナにデレたも同然なのでは?(錯乱)

 どんなに冷ややかな瞳でもそっけない言葉を吐いても、猫を撫でながらであれば迫力に欠けるだろう。



 唖然とすればいいのか萌えればいいのか反応に困っていると、私に気付いたらしい二人がこちらに振り向いた。フェリクス様が軽く目を瞠って「君は」と呟いた時、彼の膝に乗っていた猫が突然立ち上がって地面に飛び降りる。その子はこちらに歩いてくると、何故だか私をじーっと見つめてきた。


「~っ!」


 そして視線が合ったまま周囲をうろうろと歩き回られる。その観察するような、警戒するような仕草に体が固まった。攻撃してくる様子はないものの、ずっと足下をぐるぐるされるのでここから一歩も踏み出せない。睨み合わない方がいいのは分かっているが、何をしてくるか予想もつかないその子から目を離せなかった。


 止まってくれない。数秒立つと固まった体はなんとか動いた。でも踏んでしまうかもと思うと怖くてその子に合わせてこちらもその場で体を回転させることしかできない。


 じっと睨み合う。ぐるぐる。

 シャー!っと威嚇される。ぐるぐる。



 どうしよう。この状態からどう脱したらいいんだろう。目が回ってきた。



「くっ……!な、なにを……くくっ、……やってるんだ、君は……くっ……」


「ふ、ふふっ!……ティっ……、ティア……~っ!!」



 わ、わらってないで助けてよ!!



 動揺しすぎて声も出せず口をぱくぱくと動かすしかない。足下の子から視線を逸らせないので二人に目で助けを求めることもできずパニックになっていると、暫くして笑い終わったらしいフェリクス様が動き続けるその子を抱き上げて私から離してくれた。解放されたことにほっとしつつもふらついている体を、今度は同じくやっと落ち着いたらしいニーナが座らせてくれる。


「……はあ~……」


 未だもとに戻らない視界を治すべく顔を覆って動かない私の背中をニーナが擦ってくれる。


「同族嫌悪か?」


 呆れを含んだその声は笑った名残なのかどこか楽しげに聞こえて恨めしい気持ちになった。だれが同族だ、だれが。私が猫っぽいのは目の形と前世の名前だけでしょう。


「いいえ、猫は大好きです。」


 首を横に振り、声が通りやすいよう口元から少し手を浮かせてから短く答えた。猫が嫌いならミーツシリーズの名前もマークも断っている。


「確かティアの伝達魔法って猫型だったよね?」


 今度は縦に振る。


「それなら何故あんなことになるんだ。」


「……」


 少しの沈黙の後、私はやっと治まってきた目から手を離して彼らを見た。二人揃って不思議そうにしているがこっちが聞きたい。好きという気持ちがあれば触れるのかと。


「好きだけど苦手なのですわ。その……得体の知れない生き物といいますか。触れたら攻撃されるかもしれない、逆にこちらが傷つけてしまう可能性もある。そう思うと怖くて、近寄られると体が固まってしまうんです。でもその子の動向が分からなくなるのも不安だから、距離を一定以上取れるまでは目も離せなくて。」


 少し離れた位置から見るのは好きだ。可愛いと思うし、撫でたくもなる。その姿をずっと眺めていられる。


 魔法の猫は魔力の固まりだと分かっているし、予測不能な行動をしない分苦手意識は全くない。おそらく意思疎通が出来ない生き物に弱いのだろう。


「……ますます動物っぽいな。」


 人間だよ。それも人生2回目の。


「ふふ、ティアは警戒心があるのかないのかよく分からない時があるよね。」


 何だか和やかに会話しているが、挨拶もさせずに去れと言っていたフェリクス様はどこへ行ったのだろうか。図らずも彼の毒を抜いてしまったらしい。ニーナのことを思えばよかったのかもしれないが、そう微笑ましそうにされると子供扱いされているようであまり嬉しくない気分だ。


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