表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/93

不正疑惑

 本校舎前の掲示板に、3日間に亘って行われた試験の結果が張り出された。


 3学年同時発表のためか私とニーナが見に来た時には既に沢山の人達で溢れていて、これは待つしかないなと思い立ち止まる。しかし私に気づいた人達がささっと横に移動し、目の前に一本道が出来てしまった。いつも以上に感じる視線に首を傾げたが、すぐにその疑問は晴れることになる。


 

 1学年総合順位表


 1位 ミーティア・レニャ・フォン・シュテルンブルーメ 800点

 2位 アルドリック・フォン・シュテルンツェルト 797点

 3位 カイ・フライハルト 784点



 なるほどこれが原因らしい。

 それなりに自信はあったが、満点を取れているとは思わなかった。色々と落ち着かない気持ちを勉強にぶつけたせいかもしれない。それに今回の試験は広い範囲の初級~中級問題が多かったので、2年前から色々なジャンルの本を読み込んだおかげもあるのだろう。ウィルお兄様に負けていない成績は素直に嬉しい。


「ティア、おめでとう!1位なんてさすがね!!」


「ふふ、ありがとう。でもニーナだって凄いわ。いきなり14位なんて。入学してからとっても頑張っていたものね。」


 高位貴族にだって負けていない成績だ。不利な条件を抱えた初試験でこれならば1年後には抜かされてしまうかもしれない。私なんて前世の知識と今世の恵まれた学習環境のおかげが大きいのだから、そう自慢できることでもない。


 2位のアルとの差はたった3点。それもきっとケアレスミスだと思う。昔はよく逃亡していたのにいつの間に勉強したんだろう。カイもこんなに頭がよかったなんて初めて知った。実は魔力量も高位貴族並に多いらしい。好きなものづくりをして商会の仕事もこなしてこの成績なのだから優秀すぎる。


 ついでにと2,3学年の結果をちらっと確認すると2年の1位がフェリクス様、2位がローザフィア様。3学年の1位がルークお兄様、2位がウィルお兄様だった。周囲の噂話を聞くに、ローザフィア様はフェリクス様に入学以来一度も勝てたことがないらしい。お兄様達は同率1位のことも多いようだ。



 これ以上邪魔にならないよう横に避けようとしたところで後ろから声をかけられる。聞き覚えのある冷ややかな声にぞっとして、私はそれが誰のものであるかを悟った。今日まで奇跡的に彼女と顔を合わせることはなかったが、もうそろそろ逃げられないみたいだ。


「ミーティア様ではありませんか。随分お久しぶりですわね。」


 覚悟を決めて振り向いた先には、艶やかな黒い髪が以前よりも強く巻かれてより一層華やかな印象になったローザフィア様がいた。同じ制服なはずなのに彼女が着ると妖艶に見えるのは何故だろう。皇后陛下の御前と同じように丁寧語を使ってはいるが、目を細めてこちらを見る彼女の瞳にはやはり敵意が宿っている。


「……ええ、ご無沙汰しておりますわ。ご機嫌よう、ローザフィア様。」


 明らかに身構えて硬い声で返事をする私に、ニーナも何かを感じ取ったようで不安げな表情をしていた。本来ならタイミングを見て彼女を紹介するところだが、そんな機会は持てるだろうか。


「1年ぶり……実際には2年前の皇城以来かしら。昨年の園遊会ではご挨拶も出来ず残念でしたわ。とはいえ初めて出席された公式行事ですもの、慣れない場でお忙しかったのも仕方がないですわよね。」


 相変わらず人前に出ないし園遊会では私に挨拶もしてこなかったわね、公の場に慣れないとマナーもなっていないのねといったところか。何も観衆のど真ん中で詳しく話し始めることはないと思う。人目がある方が直球な言葉を言われなくて済むとはいえ、こんな掲示板の近くでは結果を見に来た人達の邪魔になる。


「あの時は()()()()慌ただしくてお話できず私も残念でしたわ。それはそうと、ローザフィア様はもう試験結果をご覧になられましたか?もしお済みであればお話はあちらでなさいませんこと?」


 私はわざと周りをちらっと見渡すようにして、少し離れた人気がない方を手で示した。



 自分の汚さと向き合うと決めたのだ。皇城の時のようにいい子でいようとして言われっぱなしにはもうならない。技術がないからと言い訳するのもやめた。甘やかされてばかりと言われるのは当然だと今でも思っているが、お兄様達にならともかくローザフィア様に言われることではない。


「あら、学年1位を取られたのに注目がお嫌かしら。それにしても入学早々満点なんてさすがですわね。子爵家のご友人の案内を皇太子殿下にお願いできるほどお力がおありですもの、当然だわ。」


 笑みを浮かべて言ったその含みのある言葉に聞き耳を立てていた人達がざわめいた。まさか、ミーティア様が、そんなことなさるようには見えないが、でもご友人を殿下が案内されたのは事実だぞ、とこそこそと呟く声があちこちから聞こえてくる。


 満点は権力を使って不正を行った結果だと言いたいようだ。言いがかりにも程がある。それに人目に付く場所で話しかけたのはわざとだったか。


 焦ったニーナが「そんなこと!」と言おうとするのを手で制す。ローザフィア様に挨拶もまだな彼女がこの場で発言するのは状況が悪化する。実際ニーナの案内をルークお兄様が行ったのは周りにとって好ましいことではないのだ。言い方には気をつけないといけない。

 でも不正についてはそんな事実どこにもないのだから堂々としていればいい。わざと泣いたりして弱さを見せる気はないが、こういうときにミーティアの善良そうな顔は役に立つ。


 私は少しだけ眉を下げながら軽く首を傾け困惑顔を作ると、おっとりとした調子で告げた。


「友人を殿下に案内して頂いたのはとても感謝しております。しかし彼女、ニーナ嬢は皇后陛下にお認め頂いたネイル用品の開発に携わったご令嬢です。新作の話を聞きたいと仰ってくださった陛下のお気持ちにお応えするためにも、開発者の一人で皇族方の親戚でもある私が殿下と彼女の仲立ちをさせていただいたに過ぎません。学園案内は所用ができてしまった私の代わりに、新作の話をするついでとして引き受けてくださっただけですわ。」


 あちらがありもしない罪をでっち上げようとするのなら、こちらも証明できない嘘を織り交ぜる。


 新作の話を聞きたいと皇后陛下からお手紙が届いたのは事実だ。さすがにそこに嘘はつけない。

 ルークお兄様にニーナを直接紹介していないので仲立ちとは言えないし、ネイル用品の話を男性であるルークお兄様にするのは多少無理があるがこの空気を変えられるくらいの信憑性があればそれでいい。案内の場にはウィルお兄様もいたのだ。ミーツシリーズの話題が出たとも聞いているので何とでも言える。


 それなりに広まったと思っていたが、ニーナがネイル用品の開発者の一人であるのは初めて聞いたという人も多いらしい。特にミーツシリーズの対象でない令息達はそうだろう。


「皇后陛下がミーツシリーズに注目しているという話は聞いたことがあるな。」

「入学式の日にミーティア様とフライハルト商会のご子息がカフェにいらっしゃるのを見たわ。随分真剣に話されているご様子だったし、所用はきっとそのことね。」


 私の説明に納得していく彼らにローザフィア様は焦った顔をした。彼女の先程の言葉では学園案内のことさえ説明がつけば、不正などという言いがかりの信憑性は失われるだろう。


「で、でもそれだけではお力がないという証明にはなりませんわ。」


 権力があるのはローザフィア様も同じな気がするが、そこを突っ込むのは藪蛇か。公爵令嬢である以上力がないとは言えない。かといってそれが不正の証拠には全くならないのだけど。

 というか第二皇子よりも点数を上げられる不正方法があるなら気になるから教えてほしい。でもこの場で2位を強調してアルの名を出すのは不敬かなあ。


「797点で2位の第二皇子より点数を上げられる力ってどんなんだ?証拠があるなら教えてくれ。」


 どう返したものかと悩んでいると、心底不思議だと言いたげな声が聞こえてきた。そうそう本当にそれよ、って。今の声は。


「「「第二皇子殿下!」」」


 注目は嫌いだろうに、アルは堂々とした足取りでささっと開いた道の真ん中を歩いてきた。正直とても助かるが、最終的にフォローされるのはちょっと悔しいな。


「そ、それは。」


 ローザフィア様は身分の低い母を持つアルに対しての態度があまりよろしくないと本人から少し聞いているが、さすがにこの場では出せないのだろう。予想外の人物が現れたことでタジタジになっている。


「証拠もないのか?先程の言い方だとティアは兄上に対して力を持っていると取れるが、そもそもフォルモント公爵令嬢は、兄上が親戚に頼まれたからと不正を行うような方だと本当に思っているのか。」


 あ、これはアル激怒してるな。確かに尊敬しているお兄様を貶されたも同然だもの。後半の言葉はかなりドスが利いている。


「……とんでもありませんわ。ミーティア様はさすが優秀ですわね、と言いたかっただけですので。私はこれで失礼致します。」


 ローザフィア様は最後に私をきっと睨んだ後、アルに礼もせずさっと身を翻して足早に去ってしまった。 


 この場の収拾もせず逃げていく彼女に一度溜息を吐くと、私はアルに感謝の礼を取ってから周りを見渡してもう一度軽く頭を下げた。


「皆様、お騒がせ致しましたわ。何やら誤解があったようですわね。結果発表の場を乱してしまったことをお詫び申し上げます。」




 私は謝罪した後逃げたとは思われないようその場をゆっくりとした足取りで離れ、人気のない場所に移動した。


「えっと、二人は初対面かしら。」


 先に紹介した方がいいのか気になったので尋ねると、ニーナは首を横に振った。


「先日ご挨拶させて頂いたわ。皇太子殿下と一緒に偶然お会いしたときに。」


「ああ、確かユングフラウ嬢だったな。兄上が随分気にかけていた。」


 出会いイベントは既に終わっていたようだ。少し不機嫌そうに言ったアルの言葉に一瞬胸を針で刺されたような感覚がしたが無視する。


「……そう、なら改めてお礼を言わせて。アル、ありがとう。とても助かったわ。お兄様達に力を持っていない証明なんて出来ないもの。でもごめんね、嫌いな役をやらせてしまって。」


 アルは注目されるのも第二皇子という立場から力のある発言をするのも嫌いだ。まして尊敬するお兄様が関わる不正疑惑など聞きたくもなかっただろう。


「仮にも皇太子妃候補の癖に、兄上や皇族の親戚に変な疑惑をかける奴にむかついただけだから気にすんな。それよりティア、随分頑張ったな。2年前とは別人みたいだ。いつの間にあんな風に言い返せるようになったんだ。」


「私だって成長するのよ。アルだって、いつの間にあんなに成績を上げていたの?」


 身長が伸びていたり成績が上がっていたり皇族らしく皆の前で堂々と発言したり、変わっていくアルに置いていかれそうで少し寂しいとつい思ってしまう。


「あー幼馴染に差をつけられんのも癪だったし……っていいだろそんなこと。それよりも、次は負けないからな。」


 それでも憎まれ口を叩きながらぷいっとそっぽを向くアルはいつも通りで何だか安心する。こちらだって負けないわと笑っているとニーナも一緒に楽しそうに笑い始めた。


「アルドリック殿下はティアと幼馴染でしたのね。そうやって張り合うくらい仲良しなんて羨ましいです!ティアも他の方といる時よりも何だか幼く見えるわ。」


「……は?」

「へ?」


 お兄様達といる時よりアルと一緒にいる方が幼く見えるってこと?幼馴染の接し方より妹としての立場の方がよっぽど幼いはずだけど……??


 そう思いながら私がきょとんとした顔でニーナを見つめていると、アルが顔を真っ赤にして否定した。


「な、仲良しとかそんなんじゃない。俺は兄上に可愛がられるティアに負けるのが嫌で……ライバルみたいなものだ!」


 怒ったようにそう言うと、そのまま不機嫌そうにすたすたと歩いて行ってしまった。


 何も仲良しを否定しなくてもいいのに。とはいえ園遊会の時のこともありアルが私を嫌っているわけではないと分かっているし、去り際に見えたアルの耳は真っ赤で照れ隠しなのは明らかだったので、残された私とニーナはくすっとその場で笑い合った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ