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心境の変化と強制力と

 入学してから1週間が経った。


 これまでに聞いた学園内の噂は大きく2つ。



 1つ目は子爵令嬢であるニーナが入学式の日、皇太子殿下と公爵令息に学園を案内してもらっていたことだ。


 どうしてそうなったのかは分からないが講堂裏の出来事の後、ルークお兄様はウィルお兄様と合流し2人で案内を始めたらしい。


 それを耳にした時はポカンとした顔を引き締めることができなかった。ニーナに詳細を聞く前に聞こえてきたその噂はやはりと言うべきか、なんて図々しい、迷惑をかけすぎだという嫉妬と悪意に満ちたものだった。


 二人が今後会う度に親しく挨拶を交わすきっかけになるはずのイベントで、どうして他の攻略対象者が混ざっているの……と首を傾げたが、ウィルお兄様との出会いが違ったことで何らかの変化が生じたのかもしれない。そういうこともあるだろう、ゲームに当てはめすぎて現実を見ないのは止めた。


 それにお兄様を挟んだおかげか一部では納得する声もあった。私と彼女の友人関係も初日から広まっていたからだ。


 直接私に真偽の程を確認しにくる人もいたので、角が立たないように「一緒に回る予定だった私に所用が入ってしまったので、お兄様達が私の大事な友人である彼女の案内を引き受けてくれたのですわ」と言っておいた。嘘ではない。


 ニーナにどうだったか直接聞いてみたが、緊張したけどティアの話で盛り上がったから話題に困らなくて楽しかったと言われ微妙な気持ちになった。

 皆を繋ぐサポキャラなのだから大いに利用してくれても構わないのだけど、お互いに余計なことを話していそうでちょっと怖い。失敗談とか恥ずかしい話だったらやめてほしい。



 それと驚いたことに、3人は見学中あのカフェにも訪れていたそうだ。中を覗いただけですぐに立ち去ったようだが、私の姿はばっちり見られていた。


 入学式当日にも関わらず防音魔法まで使ってカイと話し込んでいたことでお兄様達はどことなく不機嫌そうだったらしい。それでも私達が随分真剣な様子だったので声はかけなかったと。


 よかった、あの時は気が動転していて周りの声など耳に入っていなかったから、近づかれても気付かなかったかもしれない。お兄様達が相手なら会話は聞こえてしまっただろう。




 そして2つ目はミーツシリーズについて。


 以前から私が関わっているらしいと貴族中で噂され始めているのは知っていたが、私とカイが一緒にいたことで信憑性が高まり爆発的に広まったそうだ。時間の問題だとは聞いていたので早々に諦めた。どちらにしろデビュタントでネイル用品の広告塔を務めればバレるだろうとは思っていたから。


 おかげで次の新作はとあちこちで声をかけられるので大変だけど、同時に嬉しい悲鳴でもあった。それにネイル用品が評判になればなる程あることに利用できるのだ。




 ある日のこと、私がニーナを探していると中庭の死角から声がした。


「貧乏子爵家の上に貴女自身優秀でもないくせに、調子に乗りすぎていませんこと?」

「見た目だってまるで田舎から出てきたような野暮ったさで、そのリボンなどセンスのかけらもありませんわね。」


 どうして皆似たようなことしか言わないんだろうと思いながら、偶然を装いその場に入る。


「ニーナ、ここにいたのね。あら皆様、彼女がどうかされましたか?」


 私が何でもない顔をして声をかけると、令嬢達は少し焦ったような顔をした。当然だろう、明らかに聞かれていたと分かるタイミングで割って入ったのだから。


「い、いえとんでもありませんわ。少しお話していただけですのよ。」

「そうですわ。それはそうとミーティア様、本日の髪型もとても素敵ですわね。その美しいバレッタは一体どちらで?」


 オホホッと笑う令嬢達は打って変わって愛想良く媚びを売り始める。


 元々私に対しては学園でも好意的に取り繕う人が多いが、公爵令嬢というだけでなくミーツシリーズの効果も大きかったのだと思う。機嫌を損ねたら家ごと取引を停止されて流行に乗れないと恐れているのだろう。皇后陛下が愛用しているとすら噂になっているような品々だから。


「これはフライハルト商会が扱っているものですわ。そうそう、商会といえばネイル用品は気に入っていただけたかしら。来月新作を予定しておりますのよ。」


 頬に手を当てて首を傾げながら前置きとして告げると、令嬢達は目を輝かせて食いついた。


「ええとっても!指先に艶が出るだけでこんなに違うなんて思いませんでしたわ。お化粧の新たなジャンルを作ってしまわれるなんて、ミーティア様は本当に素晴らしいです。」

「そうですわ。繊細で優美なガラス瓶もとても美しくて。新作も楽しみにしておりますわ!」


 その瞬間、かかったなと内心ニヤッとしてしまったのは自分だけの秘密だ。


「そう言って頂けて嬉しいですわ。あのガラス瓶はユングフラウ子爵領で作られた物で、ニーナがデザイン担当なんです。とってもセンスが良いでしょう?」


 無邪気を装って胸の前で手を合わせながら言うと、彼女達は分かりやすく狼狽した。やはり知らなかったらしい。


「あらごめんなさい。ガラス瓶を褒められたのが嬉しくてつい、大切な友人である彼女のことを自慢してしまいました。言わなくてももう知っていらしたわよね。ニーナとお話していたのはそのことなのでしょう?」


 センスがどうとか少し聞こえたものと笑顔で圧をかけながら言うと、真っ青な顔で「申し訳ありません!」と頭を垂れて私に謝罪した後逃げていった。そこで私に謝る時点で反省していないんだなーとしか思えないのだけれど。


 ミーティアの顔でも威圧できることが分かってちょっと嬉しかった。もう誰にでも甘い顔はしない。



 そしてそんなことを数回繰り返すうちに、ガラス瓶のことが広まったのか飽きたのかは分からないがニーナの呼び出しは徐々に落ち着いていった。


 その代わり今度は「是非次はうちの領のガラスを使ってください」と持ち掛ける人が現れたので、担当者は私じゃないからカイか商会に直接言ってくださいなと丸投げした。ごめんカイ。




 ◇◇



 週明けの放課後、私とニーナは図書館に来ていた。もうすぐ初の試験が行われるから、一緒に勉強しようということになったのだ。


 この学園の図書館は広い。独立している上に2階建て、自習スペースも沢山ある。試験前ということで人もそれなりにいるが、席が離れているから多少会話をしていても迷惑はかからない。


 本好きな私はこの空間にわくわくして本棚を一つ一つじっくり眺めたい衝動にかられた。カイにちゃんと考えろと言われたので最近は長らく封印していた恋愛小説にも手を出している。ここにもあるそうなので気にはなるが、今日は試験勉強。泣く泣く我慢して参考図書を二人で探す。


 ニーナは教養の基礎知識が少し心許ない。街の図書館に通って勉強はしていたそうだが、家事をしながらでは限界がある。入学後すぐの試験は授業の理解度を問うというよりも広い範囲で本人の知識量を確認する目的があるそうなので、彼女には不利だろう。


 全体の流れを網羅している分かりやすい歴史書を本棚の上の方に見つけたので脚立に足をかけると、ニーナが慌てた声を出し始める。


「危ないから私が上るわ!」


「大丈夫よ、屋敷でもよく使っているから。」


 身長が低いので利用頻度が高く、すっかり慣れたものだ。ソフィーがいたら任せることもあるが、蔵書室くらい一人で行く。運動神経が皆無とはいえ脚立くらいまったく問題ない。スカートということが少し気にはなるが、このエリアは他に人もいない。


 そう思って一番上の段に立ち本を取ろうとしたところで、自分でも驚くくらい唐突にバランスを崩した。


 何で!?



「ティア!!」



 ニーナが私に手を伸ばしたのが見えてふと思い出す。あ、そうだこれ出会いイベントだ。抗えない強制力ってあるんだなと考えながら悲鳴を出す間もなく落ちていく。この後はニーナが私を受け止めようとしてくれるはずだ。でも女性の力では支えきれずに二人で倒れそうになったところを彼が――



 ふわっ



「……!?」



 いきなり体が宙に浮いた。落下時とはまた違った感覚に襲われて呆然としているうちに、浮いたままの不安定な体を誰かに抱えられる。


 その腕の安定感からニーナじゃないことに驚いて顔を上げると、険しい表情をした男の人が見えた。その顔があまりにも近く思えて、次には自分の背中と足に回った腕に意識がいき、顔が沸騰したように真っ赤になるのを感じた。


 まだ何が起こったのか理解できなくて目を数度瞬きさせた後、戸惑いを隠せない声色でその男性の名を呼ぶ。


「ルークお兄様……?」


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