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不思議なお姫様 (1) ※ニーナ視点

 

「え?お父様、今なんて?」


「前から話していた行儀作法の件だけどね、シュテルンブルーメ公爵家が面倒を見てくださることになったんだよ……。」


 聞き直しても変わらなかった。私は我が家の古びた執務机の上に両肘をついて項垂れているお父様を見ながら呆然とするしかなかった。


「シュテルンブルーメ公爵家って、あの?なぜ??」


 疑問符しか浮かばない。シュテルンブルーメ公爵家といえば私でも知っている大貴族だ。何でも現当主様は元皇女様を母に持つ宰相様で、その手腕は皇族方にも一目おかれるほどだとか。そしてその子供であるご兄妹も美男美女の上に頭も良いと評判だそうだ。そのくらいしか知らない、雲の上の存在。


 我が家は子爵家だけど、貴族なんて呼べないくらい貧乏。家はそれなりに広いがそれだけで、むしろ掃除が行き届かなくて困っている。

 正直自分が貴族だという自覚はあんまりない。私の周りには家族と、街で買い物をした時におまけをくれるおじさんおばさん達やその子供達だけで、貴族令嬢なんて会ったことがないからだ。


 でもこのままではダメだってことも分かってる。将来この家を継がなくてはならない弟が苦労するのは嫌だし、立て直しを頑張っているお父様の助けにもなりたい。それを叶えるには学園で何か自分にできることを見つけるのが一番だと思ってたし、そのために行儀作法が必要なら精一杯努力するつもりだった。


 とはいえ唯一貴族のことを教えられるお父様は忙しいし、受け入れてくれる奉公先も見つからない。もし運良く雇って貰えたとしても、お母様ひとりに家事を押し付けるなんて……と躊躇していた。入学まであと1年。ここにきてやっと方法が見つかったと聞いて安堵していたのだけど。


「実は公爵様は私の学園時代の旧友なんだ。当時良くしてもらっていたんだよ。それでこの間偶然お会いした時に思わずニーナの件を話しちゃってね。そうしたらあちらのご令嬢がニーナと同い年だから友人になればいいって提案されて……。」


「友人!?公爵家のお姫様と!!?……奉公先として雇ってくれるのではなく!?」


 思わずって、何でそんなことをわざわざこの国一番の貴族の方に話しちゃったの!?はははって、笑ってる場合じゃないよ!!顔ひきつってるし。


「何かの冗談かと私も思ったのだけど、どうやら本気のようなんだよ。うちの事情を慮って下さったのか、行儀見習いではなく通いでご令嬢とお茶をしたり一緒に家庭教師の授業を受けたりして貴族社会に慣れていけばいいって仰られてね。幸いご令嬢は天使のように可愛らしくてお優しいって評判だから、悪いようにはされないと思う……けど、普通友人なんて無理だよね。ただこちらからは断れないから、ニーナには一度行ってきてもらいたいんだ。もしかしたら奉公先としてでも面倒を見てもらえるかもしれない。」


「そ、そうよね!せっかくの機会だもん。そんなお姫様に会えるだけでも素敵なんだし、せめて雇ってもらえたら作法も習えるし!」


 あまりに上手い話に若干引いていたが、そう思ったら何だかわくわくしてきた。公爵家の屋敷なんて中に入れるだけでも非日常的だ。夢を見させてもらえると思えば、それもいいのかもしれない。

 帰ったら弟にどんなだったか話してあげよう。粗相をしないかちょっと心配だけど、優しいお姫様だそうだしお父様がそういうからには大丈夫よね?


 ◇◇


 初めて会った時、本当にお姫様が本から現れたのかと思った。

 ふわふわのストロベリーブロンド、星空のように綺麗な青い瞳、華奢で天使のように可愛いご令嬢。見るからに質の良いドレスを当然のように着こなしていて、一つ一つの動作がとても美しい。女の私でも思わず見惚れちゃったくらい。これが本物の貴族のお姫様なんだ。



 私は週に2,3回の頻度でシュテルンブルーメ公爵家に通うようになった。マナー担当の家庭教師の先生が来られる日は午前、それ以外の日は午後と決まっている。午前中は教養の授業を詰め込んでいて忙しいからだそうだ。


 午後に伺った時にすることは様々だ。ティア様から貴族についてお話をひたすら聞いた日もあれば、おままごとのような実践で遊んだ日もある。彼女は意外なことにお菓子作りが趣味らしく、週に1度は厨房にお邪魔して私も一緒に作った。歌うことが好きなのだと私が言うと、じゃあ一緒にと歌い出すものだから、料理人達の歌唱自慢が厨房で繰り広げられた日もあった。ティア様はそれをカラオケと呼んでいる。


 公爵家に通っているうちに分かったのは、ティア様は貴族令嬢としては色んな意味で異質の存在だということだ。


 家庭教師の先生やお父様から聞くところによると、彼女は貴族令嬢の中で帝国一の身分。皇族の方々全員に目をかけられており、特にはとこにあたる皇太子殿下は彼女のことを妹のように可愛がっているらしい。

 多くの貴族が彼女に注目しているが、シュテルンブルーメ公爵様にも嫡男であるお兄様にも溺愛されているため、社交界に顔を出すことはまだ殆どないのだとか。


 しかしそんな正しく深窓のご令嬢であるはずのティア様は、お父様から聞いていた”貴族令嬢”に当てはまらない。

 高慢なところは全くなくて、ドレスや宝石の話など殆どしない。使用人の皆にもとても優しいし、気遣っている場面を度々見かける。驚いたことに彼女はあの数の使用人の顔と名前、それに誕生日まで全て覚えているようなのだ。敬語を使わなくても相手に敬意は払えると言っていた意味がよく分かる。


 それに見目や所作は貴族令嬢そのものなのに、言動や行動が時々どこか平民っぽい。私のような貧乏貴族でなければお菓子作りや料理なんてまずやらないし、大声で歌い出すこともしないだろう。この間は流れで家事のコツのことまで楽しそうに話してきて本気で驚いた。おまけに掃除が楽になる魔法の使い方まで教えてくれたので、日々が大分楽になった。


 自分は甘えてばかりなのだと言っていたが、なるほど確かに彼女は末っ子らしく甘え上手だ。相手を気遣いながらも時折強引になるところも可愛らしい。あの天使のような笑顔で見られると庇護欲を擽られ、全力で守ってあげたくなってしまう。


 しかし危なっかしいかと言われるとそうでもなく、彼女はしっかりしているし、どこか他人と一線を引いていると思うこともある。その割には私にとても懐いてくれているようで、警戒心がまるでない。お嬢様がここまで羽目を外されるのは珍しいですとソフィーが言っていた。


 そのアンバランスな様子から何だか気まぐれな猫のようにも思えてきて、ついつい構いたくなってしまうのだ。


 公爵家のご令嬢と友人なんてとても無理だと思っていたのに、いつの間にかティア様に会うのを心待ちにしている自分がいた。


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