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サポキャラとしての役目


 シュテルン学園入学まであと1年。


 園遊会から既に数週間が経っていた。ソフィー曰く、現在私へのお茶会招待が急増しているとのこと。


 お父様とお兄様の溺愛を理由に、私があまり外に出ないのは周知の事実。しかし今回の園遊会を皮切りに、そろそろ社交界に顔を出し始めるのではと期待されているらしい。


 それとルークお兄様との親密さや実際の私の印象が、園遊会参加者やその家族によって貴族中に知れ渡ったそうだ。

 それにより、公爵家と縁を繋ぎたい者はもちろん、皇室へのコネとして私を利用しようとする者、やっかみで貶めてやろうと画策する者等、様々な思惑を持った招待が増えている。


 私を見て利用しやすいと思われたのなら心外だけど、この幼い見た目では仕方ない。大分成長したとはいえミーティアの姿は、どうしても儚げでか弱い印象を与えてしまうらしいのだ。そのイメージを壊すには、様々なお茶会に参加するしかない。



 だけど私は今日まで、お誘いに一切応じなかった。お父様からは家を選別するなら参加していいと言われたが、もう少し後でと断った。私が活動的になることで、ヒロインとの出会いに差し障る可能性があったから。


 お父様は、お兄様がいなくて寂しがっている私の友人候補としてヒロインを連れてくる。それなのに私が屋敷にいなかったり他に友人を作ったりしては、紹介の必要なしと見なされてしまう恐れがあった。


 だから私は家で大人しく過ごしながら、その日がくるのをひたすら待っていた。




 そして学園で新学期が始まる今日。

 いつもは朝食後すぐに登城するお父様が珍しく寛いでいたので、いよいよではないかと思った。


 直接尋ねたかったけれど、午前中に家庭教師を詰め込んでいるため、私の方に時間がなく確信を持てない。そわそわして集中できていないのを悟られて先生には注意をされたが、どうしても勉強に身が入らないままだった。


 昼食を食べ終えた頃、執事長が「旦那様が書斎でお呼びです」と伝えにきた。やはりこれはと緊張と少しの不安が混じった気持ちで執事長についていき、滅多に入らないお父様の書斎の扉を潜った。


 そこには予想していた通り、お父様と見覚えのある少女がいた。挨拶し終えたばかりのようで、二人は立ったまま私に視線を移した。



 可愛い。可愛すぎる。目が合ったその子は、明るく生き生きとした表情をしていた。


 ハニーベージュの髪にオレンジ色の瞳、グラデーションの特殊眼。丸く大きな目に小さくて形の良い鼻、健康的で綺麗なピンク色の唇。くりくりとした丸い目は普通なら幼く見えるかもしれないが、彼女の持つ明るさと瞳の力強さがそれを打ち消していて、見るからに前向きで芯の強い女の子といった感じだ。


 特殊眼の中でもグラデーションは一番出現率が高いが、下位貴族では相当珍しい。基本は侯爵家以上の血筋にしか生まれない。お父様が彼女の面倒を見る気になった理由は旧友の娘だからというだけでなく、その魔力の高さにもあるのだろう。


「待っていたよ。勉強で忙しいだろうに、急に悪かったね。こちら、私の昔馴染みの娘さんだ。ティアと同い年なのだが、入学までに行儀作法を学ばせたいと相談されてね。ティアと友人になれば自然に身に付くだろうと思って、面倒を見ることにしたんだよ。」


 なんかゲームの回想シーンと台詞が少し違う気がする。ウィルお兄様がいなくなって寂しいだろう云々が入っていない。


 もしかして私が寂しがっていると思われていないのか。まあ誤差の範囲だし、こうして出会えたのだ。特に問題はないだろう。


「そういうことでしたか。でしたら是非、仲良くさせて頂きたいですわ!」


 私はこちらをキラキラした瞳で見つめる少女に近付いて、目を合わせた。こちらから挨拶をしてもいいのだけど、彼女は行儀作法を習うためにきたのだ。身分の低い者から名乗るというマナーをまず身に付けて貰いたい。


 無言で微笑むと、私の意図に気付いたらしいお父様が彼女を促した。はっとした彼女は慌てて礼をとる。ただそれはカーテシーではなく、平民がするようなお辞儀だった。


 ヒロインとミーティアの出会いシーンは回想で軽くしか描かれていなかったため知らなかった。最初は本当に貴族生活に馴染みのない子だったのだな。


 ヒロインにフォローされるミーティアがサポートキャラであることに少し違和感があったのだが、今の彼女を見ると納得した。これならば友人として一緒に過ごすことで、十分礼儀作法のサポートになるだろう。


 しかし彼女は最終的に、高位貴族や皇族にも認められる令嬢になる。それまでの努力を思うと改めて尊敬する。


「初めまして!ミーティアお嬢様。私はニーナ・フォン・ユングフラウです。宜しくお願いします!」


 笑顔が眩しい。こんな可愛い子に明るくて純粋な笑顔を向けられたら恋に落ちちゃうと思う。淑やかに小さく笑うご令嬢に見慣れている貴族にとっては特に新鮮だろう。


 こちらまで楽しい気持ちにさせる彼女にドキドキしつつ、私はカーテシーをした。

 初対面の印象は大事。作法を守って優雅に見えるように、けれど彼女が萎縮してしまわないように、出来るだけ優しい笑みを作る。


「お初にお目にかかります。シュテルンブルーメ公爵家長女、ミーティア・レニャ・フォン・シュテルンブルーメと申します。こちらこそ、これから宜しくお願いしますね。」


 親しくなりたい気持ちを込めて挨拶を返すと、彼女はうっすら頬を染めてぼーっとした様子になった。


 もしかして貴族令嬢の礼を初めて見たのかな。反応が初々しくて可愛らしい。ともかく今後のためにも、まずはお互いを知ることから始めなければ。


「お父様、ニーナ様を私の部屋に案内してもよろしいでしょうか。仲良くなるためにお話ししたいのですけれど、サロンだとニーナ様も落ち着けないかもしれませんし」


「ああ、それがいいね。すまないが私はこれから登城しなくてはならなくてね。後は頼めるかい?」


「もちろんですわ。」


 お父様の許可も貰えたので退出の挨拶をしたあと、私は彼女を連れて自室に戻ることにした。


 お父様の書斎から自室までは距離がある。廊下を誘導しながら歩いていると、彼女は何を見るのも新鮮なようで、きょろきょろと天井や壁、置かれた調度品などを眺めている。その好奇心に満ちた表情は見ていてまったく飽きない。


 自室に入り、ニーナ様をソファーに促して対面に座った。すぐに紅茶の用意をしようとしてくれるソフィーを引き止めて側に呼ぶ。


「ニーナ様、先に紹介させてください。彼女はソフィー。男爵家の三女で、私の専属侍女をしてくれていますの。基本的に私とずっと一緒にいるので、彼女とも仲良くしてくれると嬉しいですわ。」


 私が紹介を始めると、ソフィーはニーナ様に向かって一礼する。


「ミーティアお嬢様の専属侍女として仕えさせて頂いております、ソフィーと申します。今後こちらにいらっしゃる際はお世話をさせて頂きますので、遠慮なくお申し付けくださいませ。」


「と、とんでもないです!私はニーナ・フォン・ユングフラウです。宜しくお願いします、ソフィー様。」


 畏まった態度のソフィーに、ニーナ様は少し慌てながら挨拶を返す。

 使用人にお世話をされたり申し付けたりなんてことは慣れていないのだろう。今も立ったまま挨拶をしたソフィーに自分も立ち上がるべきか悩んだらしく、中途半端な体勢で止まってしまっている。


「男爵令嬢とはいえ使用人に様は必要ありませんよ、ニーナ様。ソフィーとお呼びください。敬語を使う必要もありません。」


「え、え。でも……」


 戸惑いの表情を浮かべ、困っている様子のニーナ様。

 使用人にも丁寧に接してくれるのは嬉しいが、ご令嬢方には間違いなく侮られてしまう。


 ニーナ様と仲良くなること、そして彼女のサポートが私の役目。偉そうに指導等出来る人間ではないが、これから彼女を良い方向へ導かなくてはならないのだ。遠慮している場合ではない。


「ニーナ様。貴女は子爵家のご令嬢です。男爵令嬢のソフィーに碎けて話すことに何の問題もありませんわ。まして使用人としての彼女に敬語を使っていては、貴女もソフィーも周囲から奇異の目で見られてしまうでしょう。話し方が碎けていても、相手に敬意を持って接することはできます。ソフィーのことを想ってくださるのなら、どうか彼女の言う通りにしていただけると嬉しいです。」


「な、なるほど……。分かりました!ソフィー、改めてよろしくね。」


「はい、ありがとうございます。こちらこそ宜しくお願い致します。」


 立ち上がりかけた体勢を戻して言い直すニーナ様に笑いかけたソフィーは優しい姉のようで、何となく誇らしい気持ちになった。


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