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注目を浴びるのは必至 (4)

 人気のない隅の方まで来ると、お兄様は私の腕をそっと離した。周囲からは様子を窺われている気配がするが、多少距離があるので会話が聞こえることはないだろう。お兄様は一つ溜め息を落とすと、不機嫌そうな顔で私の頭をゆっくりと撫でた。


「お、お兄様。怒っていらっしゃるのではないの?」


「いいや。軽はずみな事を言ったことにお説教したい気分ではあるけど、僕が拗ねているだけだからね。僕のお姫様に男を紹介するなんて。……それで悪い虫がついたらどう責任取ってもらおうかな。」


 お兄様、目が笑ってないです。最後の方は小さすぎて聞こえなかったが、やはり怒っているのは伝わってきた。どうやらしばらく前から会話を聞かれていたようだ。


「ごめんなさい。タイプを適当に言って広まっても困るし、恋愛なんてまだ考えてないって答えたつもりだったのだけど。考えなしだったわ、あんな流れになるとは思ってなかったの。」


「ティアは天使のように可愛いって評判なんだから、今後もこういうことは沢山あると思うよ。」


 お兄様は私の頭を撫でていた手を離し、ふふんと胸の前で腕を組みながら言う。やっぱりそれ、絶対お兄様が広めた噂でしょう。機嫌が悪かったはずなのに、どうしてそんな得意気なのか。身内の贔屓目でそんなこと広まって今後がっかりされたらどうするつもりだ。ゲームのミーティアなら無邪気で天使らしいと言えたかもしれないが、今の中身は私なのだから。


「ああいうときはね、ティア。お兄様のような方と結婚したいって言っておけばいいんだよ。公爵家嫡男に勝てると思うような男はなかなかいないだろうからね。」


 確かにそうだ。ウィルお兄様がタイプなんて言ったら理想が高いと思われて大抵の男性は引いていくだろう。実の兄なのだから変な噂が立つこともない。せいぜいブラコンだと思われるくらいで。将来恋愛結婚したい身としては、それはそれで男性と出会う機会もなくなって困りそうだが、今は別にかまわない。


 お兄様に都合が良いように言いくるめられている気がしないでもないけど、今後はその手を使おう。それに嘘というわけでもなく、お兄様のような優しい男性と結婚するのは幸せなことだと思う。ヒロインにもウィルフリードルートをお勧めしたいくらいに。


「分かったわ。実際、お兄様は優しくて素敵な理想の男性ですもの。」


「そうか、そう思ってくれているんだね。すごく嬉しいよ。」


 照れたようにはにかむお兄様はちょっと可愛いと思えてしまう。そしてそんなお兄様を見て今日何度目かの黄色い叫び声が聞こえてくる。話し声は届かないまでも今までのやり取りすべて見られていたことに気づき、少し焦った気持ちになる。お兄様をこのまま独占していたら皆に恨まれそうだ。


「お兄様、そろそろ皆様と交流なさいませんと。お兄様とお話できて嬉しいですが、特別ゲストがこんなところで妹と油を売っていてはいけませんわ。」


「……それもそうだね。仕方ない、行ってくるよ。でも何かあったらすぐに呼んでね。」


 名残惜しそうにはしていたが状況は分かっていたらしく、私に念を押した後すぐに中央の方へと戻っていった。その瞬間、わっと沢山のご令嬢がお兄様の周りを囲み始める。その中にはユリア様の姿もあった。いつの間にか硬直から復活していたらしい。お兄様は穏やかな笑顔で彼女達に接している。あれでは誰も女性嫌いなんて思わないだろう。私だってゲームで知らなければ今も気付かないままだ。


 そういえばローザフィア様はどこにいるのだろう。ウィルお兄様に気がある彼女はお兄様が女性に囲まれたこの状態を快く思わないかもしれない。今更だが昨年のデビュタントではお話できたのだろうか。お兄様に聞いても何もなかったとしか言わないのでそれ以上は聞けなかったのだが。


 彼女の黒髪と赤のドレスを目印にして何気なく探すと、一際大きい集団の内側にいるのが隙間からチラリと見えた。どうやらルークお兄様の傍で他のご令嬢を牽制しているようだ。ローザフィア様のルークお兄様への気持ちが恋なのか皇太子妃への執着なのかは私には分からないが、そうやって積極的に行動できる姿はすごいなと思ってしまう。そんな気持ちは彼女に失礼だと分かっていても。その行動がゲームのように間違った方へいかなければいいのだが。


 何だか色々あって疲れてきてしまった。今は皆特別ゲストに夢中のようだし、少し休憩して糖分補給をしていても問題ないだろう。ずっと挨拶に回っていて何も食べられていないのだ。目立たないよう端の方のテーブルに移動し、どんなスイーツがあるかを眺めていると。


「ん。」


 目の前にいきなりお皿が差し出された。そこにはいくつかのスイーツが載せられていて、しかもそれらは私の好きなものばかりだった。お皿からそれを持つ手、腕、肩と順に視線を上げていくと、そこには私から顔を軽く背けているアルの姿があった。背けてはいるが、仏頂面ながらもやや赤くなった頬は隠しきれていない。その素直じゃない優しさに、疲労で強張っていた顔が緩んでいくのを感じた。


「アル、ありがとう。」


「別に。おまえ不器用だから、開始からろくに休憩できてないんだろうと思っただけだ。」


「不器用は余計よ。でも休めていなかったのは本当だから嬉しいわ。」


 一瞬むっとしそうになったが、間違いなく事実なのでそれ以上追及はしない。

 おそらく彼らがゲストとして来なければ会話から抜けるタイミングも掴めず、令嬢方も初参加の私から他へ興味を移すこともなくずっとあのままだっただろう。適度に会話して上手く抜け出しているお兄様やアルとは大違いだ。

 こんなだからこうやって初の社交界の場でも二人に甘やかされてしまうのだろうな。少し落ち込みそうになるが、思い詰めるのはやめたのだ。素直に気遣いを受け取るのも大事。次こそ上手くやろう。


 気を取り直してお皿の中から最初に食べるものを選び、ひとくち口に含む。絶妙な甘さによる癒し成分が全身に広がったような気がして笑みを浮かべていると、それを見ていたアルがぽつりと呟いた。


「……なんかおまえ、変わったな。」


「え?」


「昔は俺の軽口にむっとするか傷ついた顔をするかだったろ。それなのに今はよく笑うしお礼言うし、なんか……調子狂う。」


 眉を寄せて視線を合わせようとしないアルを見つつ、私はそうだったかなと記憶を辿る。言われてみれば確かに前世を思い出すまで、アルの捻くれた物言いの裏に隠れた優しさに気付けないことが多かった。こんなにも分かりやすいのに、人の意地悪に慣れていないミーティアはアルの表面だけを見て毎回傷ついていたのだ。もちろん幼馴染だし仲が悪かったわけではないが、喧嘩も珍しくはなかった。全てルークお兄様の取りなしで丸く収まってはいたが。


「アルは優しいって気付いたのだもの。憎まれ口ばかりだけど、気に食わないはずの私をいつもこうやって見ていてくれるでしょう。」


 私はアルに手渡されたお皿を掲げる。こんなに私の好物ばかり選んでくれているのだから、意地悪なだけなはずがない。

 ゲームでは心を許した兄とヒロインには懐き、甘えながらも世話をやこうとするわんこタイプ。でも今私の前にいるのは、兄2人に甘えてばかりで快く思わない幼馴染にさえこうして細やかに気遣ってくれる、温かくて心優しい現実のアルだ。


 それに以前だって皇城で助けてくれた。根は素直なのに、私を気遣ってくれるときには素直になれずぶっきらぼうになってしまうアルだって可愛くて大好きだ。そんな幼馴染がいて幸せだと思う。

 そう伝えるとアルは沸騰したかのように真っ赤になってしまった。「な……、はっ?」と何やら言葉になっていない声を発している。


「~~~っ!!おまえを気に食わないなんて言ってないだろ!!!」


 しばらく目をうろうろさせた後やっと言葉を発したかと思ったら、そんなことを叫んで会場外のどこかに走って行ってしまった。……今、園遊会中なのだけど。


 別にアルが本気で私を嫌っていると思っているわけではないが、アルの尊敬するルークお兄様に度々迷惑をかけている私を気に食わないことも多いからこその反発した態度なのでは……って意味だったのだけれど。誤解させてしまったかな。


 結局最後までアルは会場に戻って来ず、それを不思議に思ったルークお兄様とウィルお兄様に事情を知っているか聞かれたので答えたら、何やら頭を抱えてしまった。一緒に聞いていたレオン様は苦笑しながら遠い目で同情したような顔をしている。


 何かまずいことを言ったかと青ざめて聞いたがティアは気にしなくていいと優しく一蹴されてしまい、アルにも会わないまま下城するしかなかった。


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