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転生しちゃった (2)

 転生って、本当にあるらしい。


 この世界は前世でプレイした乙女ゲーム『シュテルン学園 ~星の加護で愛を守る~』に酷似している。


 当時19歳だった私は過保護な兄のいる実家を高校卒業と同時に抜け出して、慣れない一人暮らしを始めて1年半。製菓専門学校に通いながら自分の世間知らずぶりを痛感させられつつ、周りに馴染めるよう努力してきた。


 その甲斐あってか仲の良い友人もでき、頻繁にカフェやお互いの家で趣味やお菓子作りの工夫なんかを話す中で、お勧めされたのが先述の乙女ゲームだ。



 舞台はシュテルンツェルト帝国。


 頑張り屋で明るいヒロインは、没落寸前の子爵令嬢。平民に近い暮らしをしており、家族を手伝い日々家事に明け暮れていた。


 しかし彼女が13歳の時、貴族子女や優秀な平民が通うシュテルン学園が突然全寮制へと移行。このままでは娘が辛い目に合うかもしれないと子爵は苦悩する。

 だが貴族の作法を学ばせたくても家庭教師を雇う余裕がなく、平民出身の妻と駆け落ち覚悟で結婚した過去を持つ子爵は頼めそうな親戚もいなかった。


 思い余った結果、学園時代親しくしていたシュテルンブルーメ公爵に胸の内を打ち明けてしまう。


 息子の入学で娘が寂しく過ごしていることを心配していた公爵は、うちの娘と友人になれば自然と身に付くだろうと、週に数度公爵邸に招くことを提案する。



 そこで出会うのが公爵令嬢ミーティアであり、所謂サポキャラだ。皇太子の妹的存在で、攻略対象者の実妹。


 ミーティアは箱入り娘で危なっかしいところがあり、ヒロインがフォローすることで攻略対象者に気に入られ仲が深まっていく。


 それを気に入らない悪役令嬢によってミーティア共々幾度か危険な目に合うが、ヒロインの努力と他者を想う心を認めた伝説の存在<星の精霊>に加護を与えられ、悪役令嬢は断罪され攻略対象者と婚約し幸せになるという物語だ。



 ちなみにこの世界には魔法もある。貴族であれば魔力は必ず持っているものだが、平民でも稀に魔力持ちが現れる。魔力持ちは平民であっても必ず学園に入学し、魔法の使い方を学ばなければならない。


 ただシュテルンツェルト帝国は平和な国のため、生活を豊かにする魔法研究を主としている。ゲーム内で戦いのシーンはほとんどない。



 攻略対象者は皇太子、第二皇子、公爵令息、皇太子の護衛騎士で騎士団長子息、魔法士長子息、隣国王太子の6名。


 ちなみにミーティアは最終的に皇太子、公爵令息、ヒロインが選んだキャラ以外の攻略対象者とランダムで婚約するというサポキャラ兼準ヒロインのような扱いだった。


 いくつか思い出せないルートやイベントがあるので、おそらく読み飛ばしたのだろう。そして成人を待たず、全クリする前に人生を終えてしまったのだと思う。死因は覚えていないが、知りたいとは思わない。




 前世やゲーム設定を思い出している間、私は3日間熱を出して寝込んでしまったらしい。


 ふと目を開けると、見慣れた自室の天井が見える。何度か瞬きをして体を起こそうとすると、傍についていてくれたらしいソフィーが飛び込んできた。


「お嬢様!目を覚まされたのですね。あぁ、よかった。3日間ずっと寝込んでいらしたのですよ。ご無理はなさらないでください。今お医者様とご当主様方をお呼びします。」


 ソフィーは私の背中に手を添えて体を起こすのを介助すると、水が入ったグラスを手渡した。私がそれを飲み干すのを確認してから、部屋を出ていく。その表情は陰りを帯びていて、どうやらとても心配をかけてしまったようだ。



 彼女が部屋を出たのを確認し、私はふらふらしながらもベッドから姿見の前まで移動した。


 淡いストロベリーブロンドでロングウェーブの髪。透き通ったコーンフラワーブルーの瞳には、星空のように光の粒がいくつも瞬いている。


 ぱっちりしているけどやや猫目でふんわりとした上向き睫毛、すっと通った小さくて形の良い鼻、艶のある桜色の小さな唇。平均より低い身長で華奢な13歳の女の子。


 お人形にも見えるその姿は、ゲームの回想シーンに出てくるミーティアそのもの。



 私はその場で崩れ落ちた。なぜ、なぜミーティアなんだろう。


 シュテルンブルーメ公爵家は代々宰相を務める家柄であり、その歴史は古い。皇女が降嫁することも多いため、皇族に近い帝国一の貴族と言われている。現にミーティアの亡き祖母は前皇帝の妹にあたるお姫様だ。


 甘やかされて育った妹キャラ。臆病だが純粋で無邪気。身内には少し我が儘ではあるが、高慢なところはなくお礼を忘れないため、誰からも愛される令嬢。


 皇室とシュテルンブルーメ公爵家のみに顕れる星空のような瞳は星眼と呼ばれていて、高い魔力を秘めることで有名だ。公爵家では通常嫡男にしか受け継がれない。しかしミーティアは第二子でありながら星眼を持って生まれたため、それがより箱入りに拍車をかけている。



 見目もきつく誤解されやすい悪役令嬢転生で断罪を心配するより何倍もましかもしれないが、私は前世の18歳までの自分を変えたいと思っていたのだ。


 幸い今世の記憶もしっかりあるし、世間知らずな妹という点で似ているので違和感なく人格が融合しているようだが、このままでは過去の自分に逆戻りだ。恵まれた地位にいる分なお悪い。あっという間に堕落してしまう。



 それに前世の私の推しは2人いるが、ミーティアでは問題がある。



 1人はメインヒーローである皇太子ルーカス・ヴィルヘルム・フォン・シュテルンツェルト。


 現皇帝と皇后の第一子。ロイヤルブルーのストレート髪に、スターサファイアのグラデーションの瞳で星眼。切れ長の目に男らしい綺麗系イケメン。


 特殊眼と呼ばれる星眼、グラデーション、オッドアイは高い魔力を秘めている。そのうち2つを持つ皇太子は当然桁違いに魔力が高い。成績優秀で文武両道。懐に入れた相手には面倒見が良く、決して見捨てない。皇太子に必要な冷静かつ冷徹な一面も兼ね備えており、ヒロインには強引なややSタイプ。


 そしてミーティアはどのルートでも皇太子と結ばれることはない。なぜかというと、皇太子にとってミーティアは妹だからだ。もちろんゲームのミーティアも皇太子に恋愛感情は持っておらず、ヒロインを純粋に応援する。


 皇太子のはとこにあたるミーティアは、血筋や家格でいえば婚約者に選ばれてもおかしくはない。

 しかしその性格ゆえ皇太子妃には向かないと思われており、高位貴族として恥ずかしくない程度の教育しかされていない。大事な娘に苦労をさせたくない公爵の意向も汲まれ、皇室は婚約者候補を優秀な悪役令嬢ひとりに定めている。ほぼ内定状態だ。


 皇太子と出会う前に前世を思い出していれば可能性はあったかもしれないが、残念ながら13歳現在、既に完全な妹扱いを受けている。ここからの挽回は恋愛初心者の私には不可能に近いと思うので、できれば皇太子に恋をしたくない。


 それに皇太子妃になりたくない理由はもうひとつある。このまま妹として接することができれば、恋人でなくても特別な存在にはなれるだろう。



 もう1人は学園入学後でないと出会えないので今は省略するが、その人物はミーティアのことが初めから嫌いだ。


 その身分故、ゲーム内でミーティアにあからさまな嫌悪を向けてくる人物は悪役令嬢と、この攻略対象者だけ。甘やかされ皆に庇護されるばかりのミーティアが疎ましいのだ。


 ヒロインのことも最初は嫌いだが、努力を怠らず前向きに成長していき、ミーティアのこともフォローする姿勢を見て段々と絆されていく。


 出会う前から嫌われていて、しかもその理由が甘やかされたミーティアだからとなれば、好かれるのは難しい。残念ではあるが、嫌いだと思われている人に近づいて不快な気持ちにさせたくはない。こちらは皇太子とは違い、最低限の交流に留めるのがいいだろう。


 そうはいってもやはり“甘やかされて守られるだけのミーティア”のイメージを少しでも払拭したいという気持ちはある。万人に好かれるなんてあり得ないが、嫌われるのは本意ではない。



 しかし、私はヒロインのことが大好きなのだ。逆境に立ち向かえる強さを持った明るい女の子。私の憧れ。


 あまり原作から離れた行動を取ると、ヒロインが好きな人と結ばれないなんてこともあるかもしれない。それは嫌だ。あまり派手な行動はできない。イベントの邪魔はしないのは鉄則だ。円滑に進めるようさりげなくフォローしていきたい。


 今世では私自身も恋愛したいけど、ミーティアは一部の攻略対象者とランダムで婚約することになる準ヒロイン。ヒロインの恋がはっきりするまではきっと行動しない方がいい。


 そもそもミーティアの後日談としてさらっと流されるだけなので、おそらく攻略対象者である必要はないから焦る必要はない。お父様も恋愛結婚だ。私に政略結婚を押しつけることはしないはず。



 このまま動かなくてもミーティアでいればきっと幸せになれる。でも私は私として、ゲームでなく現実の中で自分で掴み取る幸せが欲しい。


 怪しまれないようベッドに戻りながら、甘やかされたミーティアを変えていくことを決意した。


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