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こんな発破のかけ方はいらない

 案内されたのは謁見室や執務室、行政区画があるエリアとは別の場所にある皇族専用の庭園だった。おそらくプライベートのものではなく、皇族の方が招待客とお茶をするための場所だろう。


 薔薇のアーチをくぐり抜けると、まるで童話の世界に入ったかのようだった。各々が異彩を放つ春の花は、香りまで計算されつくした優美な姿で中央のテーブルセットを囲っている。



「待っていましたよ、ミーティア。」


「お待たせしてしまい申し訳ありません、皇后陛下。お茶会にご招待いただきありがとうございます。」


 すっと立ち上がって迎えてくれたのは、皇后エーデル・フォン・シュテルンツェルト陛下。


 光沢のあるブロンド髪をハーフアップにした彼女は、切れ長の目、意志の強そうなローズレッドの瞳、グラデーションの特殊眼を持つきりっとした美人だ。身長が高くすらっとしていて、シルバーのスレンダーラインのドレスがよく似合っている。


 現皇帝陛下が皇太子だった頃、公爵家には令嬢がいなかった。そのため侯爵家の中から特殊眼を持ち魔力が高く、成績優秀だった彼女が政略結婚の相手に選ばれたのだ。



「ミーティア、この場ではいつも通り呼んでちょうだいな。こちらへいらっしゃい。まあ、ますます可憐な女性になったわね。そのシフォンドレス素敵よ。」


「ありがとうございます、エーデル叔母様。叔母様のドレスもとても素敵でお似合いですわ。私もそのような美しいドレスが着られればいいのですけれど。」


「何を言うの。将来いくらでも着られるわ。女の子らしいドレスが着られるのは今だけなのよ。あまり早く大人になると、公爵もウィルフリードも寂しがるわよ。」


 皇后陛下と私は血縁関係にないが、会う度にウィルお兄様共々優しく接してくださる。公務も与えられた仕事以上にきっちりこなし、国内だけでなく外交にまで目を光らせることができるやり手の女性だ。貴族女性とのお茶会も頻繁に開き、流行にも敏感で活動的だと聞いている。



 皇后陛下は一度私をぎゅっと抱き締めると、斜め向かいの席へ座らせた。来たときから気になっていたのだが、席もお茶も3人分の用意がされている。誰かまだ招待客がいるのだろうか。全身に少し緊張が走る。私はまだ身内と皇族方以外とお茶会をしたことがない。マナーの勉強は全力で受け直したが大丈夫だろうか。


「貴女は苺が好きだとルークから聞いているから、苺を使った春らしいスイーツを用意したわ。それともう1人招待している子に合わせてローズティーを。大丈夫だったかしら。」


「ええ、とても嬉しいですわ。ありがとうございます叔母様。それで、あの……招待している方というのは……?」


 ローズティー。招待している子……。嫌な予感がする。もしかして噂をすればだろうか。自分自身に発破をかけるためにって、そういう火種はいらないのだけれど。


「貴女はまだ会ったことないわよね。私の姪なのだけど、今日は皇太子妃教育があるから終わったら来てねって呼んであるのよ。多分もうすぐ……あ、ちょうど来たみたいね。」


 当たっていた予想とその言葉にびくっと肩が思いっきり跳ねてしまったが、皇后陛下は私の後ろへ視線をずらしていたためどうやら気付かれなかったようだ。正直両陛下より怖いが、恐れるわけにはいかない。



「皇后陛下。ご招待いただき光栄にございます。」


 まさに型通り、といった美しいカーテシーをした彼女はローザフィア・ブルーナ・フォン・フォルモント公爵令嬢。


 艶やかなストレートロングの黒髪を毛先だけ巻き、前髪は緩く横に流している。悪役令嬢らしいつり上がったきつい目つきに、皇后陛下と同じローズレッドの瞳にグラデーションの特殊眼持ち。高くすっと通った鼻筋に、ぼってりとした真っ赤な唇。身長が高く14歳ながらもうすでに成長しているらしい豊満な胸元を強調するかのようなオフショルの赤いドレス。


 フォルモント公爵家はシュテルンブルーメ公爵家程古い家柄ではないが、現公爵をはじめ、歴代多くの外務大臣を輩出している。現皇后の姉が嫁いだこともあり、今代とても勢いがある公爵家だ。ミーティアがいくら令嬢の中では帝国一の身分とはいっても、フォルモント公爵家のご令嬢で皇太子の従妹、そして婚約者候補である彼女は同列の立場かそれより上だろう。



「いらっしゃいローザフィア。いきなり呼んで悪かったわね。今日お茶会に呼んだのは、この子を紹介するためよ。彼女はミーティア嬢。宰相のご令嬢よ。」


 彼女の目が私に向けられたので、なるべく優雅に見えるように立ち上がり丁寧にカーテシーをする。ゲーム開始時16歳の彼女も今は学園入学前の14歳。もしかしたらゲーム程の苛烈さはまだないかもしれない。先入観で決めつけるのは失礼だ。


「お初にお目にかかります。シュテルンブルーメ公爵家長女、ミーティア・レニャ・フォン・シュテルンブルーメと申します。よろしくお願い致しますわ、フォルモント様。」


 その刹那、憎悪と敵意が籠もった瞳で見つめられたのは気のせいだと思いたい。


「……ええ、こちらこそ。私はフォルモント公爵家長女、ローザフィア・ブルーナ・フォン・フォルモントですわ。ローザフィアで結構です、ミーティア様。」

 

 うん、気のせいではないな。声がかなり冷たいぞ。



 挨拶後席に着くと、皇后付き侍女がお茶の支度をして下がっていった。


「ローザフィアはそれなりに社交の場にも出ているけれど、ミーティアはまだでしょう?次代を担うのは貴女達公爵令嬢2人なのだし、それぞれ私の親戚でもあるから一度紹介しておきたかったのよ。今までは宰相の許可が下りなくて。」


 悪戯っぽく笑った皇后陛下だが、全く笑えない。おそらくお父様はローザフィア様を警戒していたのだろう。こうしてお茶会が叶っているのはやっと許可が下りたということか。最近の私を見て大丈夫だと思ってくださったのなら嬉しい。


 皇后陛下もおそらく悪意はない。いや、やり手の彼女のことだ。自分の前で出会わせて動向を確認しようということかもしれない。


「父は私をまだ人前に出せないと判断されてのことでしょう。このような場を設けてくださり感謝致します。」


「宰相は貴女を心配していただけなのよ。貴女が悪いわけではないわ。それにあれはきっとウィルフリードに強く止められていたんでしょうね。今回は入学後だから叶ったのかもしれないわ。」


 ふふっと面白そうに笑う皇后陛下。皇帝陛下に続いてここでもウィルお兄様か!夫婦揃って同じ反応をするのはやめてほしい。



「ミーティア様は宰相様やウィルフリード様にとても大切にされているのね、羨ましいわ。そうそう、ルーカス殿下にも妹のように可愛がられているとか。でしたらわたくしにとっても妹のようなもの。今後社交の場で困り事がありましたらわたくしがフォローしてさしあげますわ。皇太子妃教育で多少心得がありますの。」


 ……これは。普通に聞けばものすごく優しい言葉ではある。額面通りに受け取りたいが、彼女の笑っていない目線とうっすら感じる含みのある言い方がそれを許さない。


 ご家族に信用されてないのね、可哀想に。貴女は殿下の妹で、皇太子妃になるのは私なのだから能力のない子は調子に乗らないでってことかな。いや、さすがに悪く解釈しすぎだよね。今まさに困っているのだけど、フォローしてくださいませんか。


 言われっぱなしも辛いが、嫌味を嫌味で返したくはない。貴族にはよくあるマウント合戦だと分かってはいるが、決して気持ちの良いものではないのだ。ここは気づかなかったことにしよう。手を出されたりしない限りは怯えなくてもいいだろう。


「ありがとうございます、ローザフィア様。まだこのような場に慣れていないので、とても心強いですわ。ローザフィア様になるべくご迷惑をかけないように頑張りますね。」


 訳:ありがたいが貴女の邪魔はしないから放っておいて。


 ただ、ヒロインが皇太子ルートを進む場合は結果的に邪魔をすることになるのかもしれない。他のルートの場合は彼女の自滅だが。


 先のことは分からないが、穏便に進めばいいなと思っている。しかしヒロインを応援する予定の私が言うのは身勝手だと分かっているので、正直ローザフィア様については今のところ私から何かするつもりはない。自分のことで精一杯の私に、ゲームストーリーを変える力まであるとは思えないのだ。



 その後も決して和やかとは言えない時間が続くも、無事にお茶会が終わりローザフィア様とふたり揃って退出することになった。


 別れ際、叔母様からこっそり耳打ちされた言葉に脱力する。


「見事なスルーっぷりが面白かったわ。」


 やはり叔母様は気づいていて楽しんでいたのだ。叔母様にとってはこのくらいの応酬、日常茶飯事で問題視するようなことでもないのだろう。苦笑いで返しつつ、挨拶をした後退出した。



 さあ、ふたりで一緒に退出したのだ。皇后陛下の御前ではなくなったこれからが本番だろう。


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