五話 僕だけ強制じゃん...
お悩み解決編
波乱の部活動見学の初日が終わり、二日目が訪れようとしていた。
僕は、昨日のような失態を起こさない為にはどういう行動をとるべきか、一日中考えていた。しかし、考えれば考える程、苦し紛れな作戦しか思い付かない。
「きょ、今日は、どこ見学する?俺、実は行きたいことあるんだけど。」
結局は、一番始めに思い付いた作戦を実行していた。頼む雅弘、乗ってくれ。
「なに言ってんだよ、昨日小野寺さんが明日も宜しくって言ってたじゃんか。今日も青春研究部行くんだろ?」
「…………」
こんなにもあっさりと返されると、逆に清々しい。「ほら行くぞ」と、僕の手を引っ張る雅弘に身を任せて、席を立つ。
「あー、行くかー。」
伸びをしながら、あからさまにめんどくさそうな顔をする僕。それを見た雅弘は、不思議そうに首をかしげる。
「あの部活、そんなに嫌?」
「え?」
「いや、なんかめんどくさそうな顔してるなって思ったからさ。さっきも、他の部活に行こうとしてたし。」
そこまで、読まれてたんだ。雅弘は、僕にだけ勘が鋭いような気がする。
「俺は良いと思うんだけどな。だって、あの部活めっちゃ楽そうだし、凄く先輩達優しいし、それに…」
「椎名先輩が可愛いからだろ?」
「なんで分かった!?」
「昨日、目がハートになってたぞ。」
雅弘は「まじかー」と言いつつ、頬を掻く。
「そうだよ。てか椎名さんな?また戸村さんに言われるぞ。」
戸村さんは本当に怖い。そう言えば、名前も覚えられているので、違うところへ行ったら、何されるか分からない恐怖もある事も忘れていた。
「結局、なんで行きたくないの?」
「…………」
すぐに言おうとして、言葉につまる。あれ?そう言えば何故僕は、行きたくないと感じるのだろう。
理由は沢山ある。活動内容が僕に合ってないから。あの部活の人達に馴染めなさそうだから。戸村さんが怖いから。しかし、そのどれもがしっくり来る理由にはならなかった。
「まあ、斗真が本当に嫌なら、別に違う部活見学しても良いよ?」
「うーん。そんなに嫌って訳ではないけどさ…」
僕は答えに困って、目線を下げてごにょごにょと、小さく呟く。
「じゃあ、どうするか決めるためにも今日は行ってみようぜ?」
雅弘の提案に、一瞬考えてから「そうするわ」と、返事をする。
「よっしゃー!じゃあ今日は、今日は椎名さんの連絡先を聞いてやるぞー!」
今日も、椎名さんに会える喜びで、雅弘は大胆で大きな宣言をする。そのせいで、クラスの人達の視線が、一気に僕らに集中した。僕は慌てて雅弘に、小声で止めに入る。
「雅弘!登校二日目でそんなに、大きな声で凄いこと言っちゃうと、目立つから辞めて。それに、椎名さんに彼氏が居る線もちゃんと考えてるのか?」
雅弘は、さっきの宣言の時に掲げていた腕を、がくんと落とす。
「うーわ…確かに。」
そして一人でぶつぶつ、「そうじゃん…」とか、「まじかよー」とか言ってので、僕はなんとなく頃合いをみて、先に行こうとする。
予想通り雅弘は、ぶつぶつ言いながら僕についてくるのが、声で分かった。
僕らが第二理科室へ入ると、昨日の五人に加えて一人の女子が、椎名さんと向かい合って話し合っていた。
一瞬、新しい部活動見学の子かなと思ったけれど、運動部のオリジナルTシャツのようなものを着ていることから、先輩だと言うことがすぐに分かった。
僕らは、挨拶を小声で済ませ、なんとなくそこから離れた席に着く。
「椎名ー。どうしよー。これじゃあ、部員集まらないよー…」
「うーんそうだね…でもまだ一日目でしょ?」
「運動部は、一日目が勝負だったんだよ…」
なるほど、部活動見学で中々人が集まらないから、ここに相談しにきたのか。
それにしても、昨日までは正直、相談の話が来ることなんてほとんどないだろうと思っていたが、本当に椎名さんが対応しているので、そこにびっくりする。
「そう言えば、ここには一年生誰か来た?」
「来たよ。ほらあそこの四人。」
そう言いながら椎名さんは、僕らの方と一年女子達の方を見る。相談に来た先輩も「へー」と言いながら、興味深そうに見た。
二人が興味深そうにこちらを見ているので、なんとなく視線を逸らしたくて、戸村さんと小野寺さんの方を見る。すると、急に立ち上がった戸村さんが、二人の方へ向かっていった。
「ねーねー。こうするのはどう?」
後ろから急に話し掛けられたその先輩が、びっくりして立ち上がる。椎名さんもこちらを見ていたので、突然の戸村さんの登場に目を丸くする。しかし、戸村さんはそんな事お構い無しかのように、にこにこしながらその話に割り込んだ。
「要するに、見学してくれれば楽しさ分かってくれるのに、見学してもらえなくて困ってるんでしょ?」
「うん。」
その先輩は、戸村さんに話掛けられて、少し戸惑いながら頷く。
「じゃあ誰かが見学して、その見学している姿を他の一年生が見たら、自然と人が集まるんじゃない?」
確かに、誰も入ってないと、入るのにも少し勇気がいる。しかし、誰かが入っていれば、その部活の見学内容も見れるし、入る時にも、すんなり入れるだろう。でも…
「でも、翼?それだと結局、誰か入らないと始まらないよね?てことは、今のこの状況から変わってなくない?」
椎名さんは、僕の思っていたことと、同じことを口にする。しかし戸村さんは、いたずらを思い付いたような笑顔のまま続ける。
「見学してれば誰でも良いんでしょ?一年生なら。ならさ、この部活の一年生達に、見学のふりをして貰えば?そうすれば、自然と人が集まるんでしょ?」
なるほど、一年生が居れば他の一年生達も…
ん?
「それ良いじゃん、そうしようよ!翼、ナイスアイデア!」
椎名さんもその先輩も、その戸村さんの作戦に賛同していた。隣を見ると、あからさまに目が死んでいる運動の出来ない男が、ため息をついている。今回は、自分より雅弘の方がピンチなので、なんとも言えない気持ちだった。
「じゃあ、どうする?最低何人なら足りる?」
椎名さんが、こっちの了解もなしに話を進める。普段だったら、絶対に口出しをしているであろう雅弘も、椎名さんが進めていたので、何も言えない。
「うーん、最低二人かな。そうだねー、あの子とあの子かな?」
そう言って指を指した先に、何故か僕と入学式寝ていた子が居た。あれ、確か橋本さんだったような。
そんなことは、どうでも良い。隣で、さっきまで絶望寸前だった運動の出来ない男が、憎たらしい笑顔で僕を嘲笑う。なんて、調子の良いやろうなんだと思いつつ、何故僕ら何だろうかと、疑問に思う。雅弘や橋本さんの隣の子(確か、鈴木さん)の方が、運動出来そうなのに。
「何で、あの二人なの?」
戸村さんが、面白そうに僕を見ながら、その先輩に質問する。
「だって、運動出来そうな子より、運動出来なそうな子の方が、練習風景を見てて、親しみやすいでしょ?」
一瞬だけ、なるほど!と思ったが、馬鹿にされているのに気づいた。無意識なのが一番達が悪い。
僕は、さっきからにやにやしながら見ている雅弘と戸村さんを、あえて無視して橋本さんの様子を確認する。すると、向こうもこちらを見ていたのか、目が合ってしまった。しかも、どちらも目を離すタイミングを失ってしまい、石化したみたいに、どうすることも出来なくなってしまう。
橋本さんがにこっと笑って首をかしげる。僕は、呪いが解けたみたいに、目線を下に移す。こんなにも女子と目が合ったのは、いつぶりだろうか。僕は、急に恥ずかしくなって頭を掻く。
隣ではまだ、雅弘がにやにやしていたので、あまりに一瞬の出来事だったのだろうと、実感する。
「静香を一人にさせたくないので、私も参加して良いですか?」
鈴木さんがいきなり立ち上がって、そう訴える。その時、一瞬だけ僕を見た…と言うより、睨んだような気がする。
「まあ、多いに越したことはないし、良いんじゃない?」
椎名さんは、鈴木さんの訴えに、軽々しく承諾する。
じゃあ、僕が抜けて、その二人で良いのでは?と思ったときに、戸村さんがあまりにも余計な提案をする。
「じゃあ、もう四人全員で参加しちゃえば?」
案の定雅弘は、驚きのあまり口をポカンと開けて、呆然としていた。
僕はその顔の変わりようと、部活前の連絡先の話を思い出して、思わず他人事のように鼻で笑ってしまった。戸村さんも、よりいっそう笑顔で雅弘を見る。
「ちょっと待ってくれ!さっきから、勝手に話を決めてるけど、一年生がまだ鈴木しかやるって言ってないぞ。一年生、皆がやりたくなかったら、言って良いんだぞ?」
さっきまでずっと傍観を決め込んでいた小野寺さんが、一年生に助け船を渡す。
「茜が一緒なら、わたしはやります。」
橋本さんは、鈴木さんの腕に巻き付きながらすぐに言う。
「じゃあ、雅弘は?」
「え、あ…」
考える時間もないうちに、椎名さんにどうするかを聞かれた雅弘は、困惑と焦りで変な声が出る。名前呼びも含めて、これは完全に誘惑だが、運動が苦手な雅弘はどうするのだろうか。期待と不安が一気に雅弘に委ねられる。
「え…は、はい。俺も参加します。」
おい。
「本当に!?ありがとうね!」
椎名さんが、嬉しそう目をキラキラさせている。それを見て雅弘は、自分の不甲斐なさからか、あるいは椎名さんの喜んでいる姿からか、愛想笑いを浮かべていた。僕も、少なからず自分も断る線が薄くなって、落胆した。
「よしまあ、一年生も大丈夫らしいから、後は頼んだよ。」
「本当に一年生の皆も翼君も、椎名もありがとう!じゃあ、私に着いてきて!」
雅弘には申し訳ないが、僕は参加しないぞ…
ん?
あれ?もしかして僕、忘れられている?
小野寺さんとその先輩は、嬉しそうに一年生を見ていて、全く気づいている素振りがない。それどころか、意味深に笑っている戸村さん以外皆、僕がまだ聞かれてないことに気づいていないようだった。怒りではなく、虚しさが込み上がってくる。
僕は大きなため息をついて、わざわざ言うのもめんどくさくなり、なにも考えずついていく事にした。
次回、運動部に仮入部する四人。一体何故、部活に人が入らないのか...
少しづつ、見てもらえる数が増えていっているので、とても嬉しいです!
良ければ、コメントや感想も頂けると、ありがたいです。
もっと文章を上手く書けるように、頑張ります!