四話 メタい、メタいよ!
続きです。
「はぁ…」
先ほどまでの、地獄のよう展開からここまでの会話は、あまりにもひどい内容だった上に、僕が押し負けてしまう流れであったので割愛する。最後の一手が凄く大きかったせいで、小野寺先輩までもが僕を説得し始めたところで、僕は静かに降参した。
結局僕は始めての活動とやらで、円を描くように椅子を並べて、座っている。ここに来てまだ、この部活に入るかもしれない現実に向き合うことが出来ない僕。隣では、僕を陥れた張本人が、ウキウキした様子で周りをきょろきょろ見ていた。
なんたって今日は、こいつのせいでここまで不運に見舞われているのだから、ちょっとは僕を気遣う姿勢を見せて欲しい。そう思いながら、ため息をつく。
「どうした、元気ないぞ?…まあ斗真の気持ちは分かるけど、ここそんなに悪いところじゃないと思うぜ?活動も楽って言ってたし、それに…」
雅弘は、言いながら椎名先輩の方を見てにやにやしていた。こいつ絶対俺の気持ちなんか分かってないだろ。と思いながら、それでも雅弘を憎めないでいる僕に、心の中でもう一度ため息をついた。
「よし、準備完了。じゃあ、最初の活動始めるぞー!」
小野寺先輩が最後に座って、最初の活動が始まった。小野寺先輩は手に何かを持っている。何あれ?マイクのおもちゃ?
「最初の活動は、自己紹介。と言っても、俺ら先輩達は皆の名前知ってるけど、改めて自己紹介をしてもらうよ。えーと、名前と、好きなもの、かな?一人一人考えてもらって発表してもらいます。まあ一応このマイクを使って発表するって形で良いよね?」
小野寺先輩は、おもちゃのマイクを持って皆に見せる。マイクを持って発表する必要はあるのかと疑問に思ったが、流石に言わなかった。
「…………」
「誰から発表するの?優斗。」
「ああ、そっか。じゃあまずは、部長の俺から…」
椎名先輩に言われて、小野寺先輩は慌てて立ち上がる。
先輩達の自己紹介は、以前にされたのでこれも割愛する。
小野寺優斗、好きな食べ物 肉。
椎名千夏、好きなもの 恋愛。
戸村翼、好きなもの 可愛い子。
大体予想通りな先輩達の自己紹介は、答える数も少なかったのか、すぐに終わった。一つあるとしたら、戸村先輩が笑顔で可愛い子などと言うので、一年女子の一人が若干引いてるように見えた。
「じゃあ次は席の順番的に、茜ちゃんだね。頑張って。」
「はい!」
椎名先輩に言われて、さっき戸村先輩の発言に引いていた、一年女子が立ち上がる。そして一度周りを見回してから、一礼をして話し始めた。
「鈴木茜です。好きな食べ物は、いちごです。これから、よろしくお願いします。」
鈴木茜というその子もまた、運動部に入ってそうな見た目だった。ポニーテールで、少し目付きが悪く、凄く姿勢良い。美人と言うわけではないが、男子と仲良くなるような女子に見える。
つまり、僕の苦手なタイプに見えるのだ。完全に偏見ではあるが、こういう時、意外にも当たっている可能性が高い。今考えてみるとこの部活、太陽系の人達が多い気がする。月系の、僕を除いて。まあ、青春研究部なんて名前の部活なんだから当たり前か。
「じゃあ次。静香ちゃんだね。頑張って。」
そんな、訳の分からないことを思っていると、もう一人の一年女子が立ち上がった。
あれ、この子どっかで見たことあるな…
「橋本静香です。えーと、好きな事は、寝る事。よろしくおねがいします…」
思い出した!入学式の時に寝てた子だ。入学式の時は、焦ってよく顔が見えなかったので、すぐには分からなかったが、小さい背と、ボブの髪型、そして寝る事が好きな人なんてこの人しかいない。良く見ると顔が小さくて、目がとろんとしていて、男子が好きそうな美人で可愛い子だった。
「じゃあ次は、三浦君だね。ファイト。」
雅弘は、椎名先輩に言われて「はい!」と、勢いよく立ち上がる。次は僕の出番かと、好きなものについて考え始めようとしたとき、雅弘がとんでもない事を言い始めた。
「三浦雅弘です。好きな友達は、隣に居る斗真君です。よろしくお願いします。」
僕は、雅弘を思わず二度見をしてしまった。雅弘は、見られたのに気づいたのか、にやにやしている。さっきのような、悪気のない仕打ちと違って、今度は確実に分かっててやっているのが、顔を見て分かる。他の人達も、僕と同じように驚いていた。
「へー、そうなんだ。じゃあ雅弘くん、次の斗真君の好きな友達が気になるね。」
「はい!」
戸村先輩の余計な一言に、雅弘は勢いよく返事をする。この二人、なんか似てるとこあるなと思いながら、僕は雅弘を睨みつける。雅弘は、にやにやしながら、目線を逸らした。
「じゃあ最後は、小林君。凄く楽しみ。ファイト。」
あーもう、やれば良いんでしょ、やれば。
僕は、ほとんどやけくそで自己紹介を始める。
「小林斗真です。好きな友達は…雅弘、くんです。よろしくお願いします。」
その場の全員が、「おー」と言いながら、謎の拍手を送っている。何が「おー」だ。歓声を受けながら座った僕は、雅弘が隣でこちらを見てにやにやしているのに気づいたため、それを無視してやった。
「これで全員だね。じゃあ、今日は早いけどこれで終わりにし」
「ちょっと待って。」
またもや戸村先輩が、小野寺先輩の締めの話を遮る。あからさまに嫌な顔をしながら、今度はどうした?と、戸村先輩に問いかける。戸村先輩は、笑顔のままこんな提案をしてきた。
「どうせだったら、僕らのあだ名とか、呼び方を決めようよ。」
「呼び方はともかくとして、あだ名はすぐには決められないでしょ。」
椎名先輩が、至極当たり前の事を言う。
「確かに、じゃあ呼び方だけでも決めようよ。まず、僕ら先輩だけど、先輩って呼ぶのは辞めよう。せめて、名字でさんをつけるか、名前でさんをつけるかどっちかにしよう。」
「それは良いわね。」
「でしょ?後は、僕たちも君とかちゃんとか、あまりつけないようにしよう。おっけー?優斗。」
「わ、分かった。」
戸村先輩はそれらを言いきった後、最後に僕を指差して言った。
「特に斗真は気をつけて。なんたって、めちゃめちゃ先輩って言ってるから。」
あれ、そんなに僕、言ってたっけ。
「言ってるよ、ほらさっきだって僕の事、戸村先輩って言ってたじゃん。読む人にとっては、先輩は漢字だから読みづらいでしょ?ごちゃごちゃしないように気をつけてよ?」
あれ?今戸村先ぱ…さん、僕の心の中と会話してなかった?て言うか、読む人って何?
「そうそう、その調子。これからも頑張ってね。」
戸村さんの最後の独り言に、僕含め全員が不思議な目でみていた。さらに言うなら、僕は少しの恐怖も感じていた。
「ま、まあ良いや。じゃあ今日はおしまい、お疲れ様、皆。明日も一応、部活あるから是非来てね。」
小野寺さんは、戸村さんとの付き合い方に手慣れているのか、勝手に部活を終わりにする。
僕は、終わりと同時に、全身の疲労が一気に溢れてくるのが分かった。そして、初日からこんな様子だったら、これからどうなってしまうのだろうかと、途方もない不安に襲われた。
出会い編が一応終わりました。
まだまだ拙い文章ですが、これからも頑張っていきますので、応援お願いします。