二話 先輩達のレベルが高い。
続きです。
三階建ての理科棟の三階、階段を登って一番奥にあるその部屋は、「第二理科室」と書かれている。この場所は、今日僕らが体験する部活動の活動場所らしい。普段からあまり授業で使われていないのか、教室の外には物が置いてあってなかなかに入りづらい。
しかし入りづらいのは、きっと物が置かれているからだけではないのだろう。僕は「ふう」と息を吐いて、後ろにいる雅弘の方を見る。すると雅弘は僕に見せるような腹立つ顔で、目を合わせてきた。いらっときた僕は、いたって平然とした顔でこう言ってやる。
「なーお前、さっきからずっとにやにやしてるけど、どうした?もしかして、これから可愛い女の子に出会えるかも知れないから、にやにやしてんのか?w」
雅弘がにやにやしている本当の理由は、分かっている。しかし、さっきから…と言うより、昨日の深夜からずっとこいつに負けてばかりなので、からかってやりたかった。それなのに僕を見た雅弘は、何でもなさそうに笑いながら言う。
「ははっ、それもあるけど、一番は斗真がこれから可愛い女の子を前にしてどうなのかなって想像してたの。てか斗真こそ、可愛い女の子ににやにやすんじゃねーぞw」
「はっ!?しないし!!」
僕が全力で否定すると、雅弘は口を覆って腹立つ顔をしながら「ぷぷっ」と笑った。本当にむかつく。
「てか、さっきから何でこんな所で、立ち止まってんの?早く入ろうぜ?」
「…………」
今やっと気づいた。物が置かれているせいで、後ろにいる雅弘が、僕の逃げ道を完全に無くしている。つまり、ただでさえ[青春研究部]とか言う、僕に合わなそうな部活なのに、僕がこの部屋を開けて、始めに挨拶をしなければならない。
僕は、ここまで計算に入れて行動している雅弘に、既に逆らう事は出来なくなってしまったので、意を決してドアを開ける。
部屋の中には、一年生と思われる女子二人と、部活内容を教えている先輩と思われる女子、そして、何故か理科の先生が来ているような白衣を着て、何かの実験をしている男子がいた。
あれ?そう言えば、青春の方に気を取られていたけど、その後に研究部と書かれていたから、もしかしたら理科系の部活かもしれない。青春を研究に費やす的な、そんな意図で作られた部活。それなら、ここが活動場所だと言うのも、理解できる。それに、思っていたよりかなり女子が…人数が少ないし。
「あれ、どうしたの?部活動体験?」
「あっ、はいそうです。一年の小林斗真です。」
さっき見えなかった、顔の良い男子が、隣から声をかけてくきたので、返事をする。すると後ろから雅弘も、同じ様に返事をした。そして僕らはその、先輩と人に言われて、二人の女子と反対の席に座る。
「初めまして、俺は二年の小野寺優斗。一応ここの部長やってるから、これからよろしくな!」
僕らが席に座ると、小野先輩は椅子の背もたれに腕を置き、またがるように僕らの向かいに座ってこう言い放った。向かい合ってみると、より顔立ちのよさが目立つ。顔が小さく、爽やかな笑顔は、男が見ても格好いいと思える程素敵だった。
雅弘と同じように、運動部が似合う顔をしているのに何故、ここの部長なのだろう。そんなことは、口に出せないので、僕らは控えめによろしくお願いしますと返した。
「えっとまずは、部活内容だね。まあ、何をやるかと言われたら何とも言えないけど、とりあえず研究系の部活とかではなくて…」
「え!?」
僕は、予想外の一言に思わず声が出てしまう。やっぱり研究系の部活じゃないの?
「お前、本当にここを研究系か何かかと思ってたのか?」
隣で雅弘が、自分は知ってましたよ見たいな顔をして、あきれたように僕に言ってきた。
え、じゃあ今も白衣を着ながらフラスコを揺らして、ただの水にしか見えない液体を眺めているあの人は何?何者なの?
ちょうどその時、僕が不思議そうに白衣の人を見ているとその人と目が合った。そして何故か、急に僕を見て笑顔で近づいてくる。
「もしかして、僕の事見て、ここは研究系の何かかと思ってた?」
絶対にさっきまでの会話が聞こえない距離だったのにも関わらず、白衣の人はそう聞いてきた。嘘をつく理由もないので、素直に答える。
「…はい」
「やっぱり!?僕も誰か騙せるかなって思って、ずっと白衣着て、ただの水を見つめて、それっぽい行動取ってたんだよね。本当に騙せるなんて思ってなかった。ごめんね?あ、後僕は二年の戸村翼。以後お見知りおきをー」
そう言って、白衣を脱ぎ始める戸村先輩。完全にこの人に騙された。今日は本当についてないのかもしれない。それにしても、戸村先輩も凄く格好いい。小野先輩と同じように、笑顔が素敵で、とても女子にモテそうだ。小野先輩が、運動神経抜群そうなイケイケ男子なら、戸村先輩は、何でもさくっとこなしてしまうような、クール男子の感じがした。
「本当にごめんな?翼も悪い奴じゃないんだ、許してやってくれ。」
それとさっきから、ずっとニコニコしながら僕らを見ている戸村先輩は、腹に黒い何かがあるような気がしてならない。僕は、騙された腹いせにそう思った。
「まあ、そんなことはどうでもよくて、えっと部活内容は」
「おー、ちゃんと男子も入ってきたね!」
小野先輩がまた話し始めようとした時に、今度は、さっきまで隣で女子の一年生と向かい合って、何かを教えていた先輩がこちらに話しかけてきた。
「私は、二年の椎名千夏。一年生だよね?お名前は?」
僕らは素直に答える。椎名先輩もこれまた、顔が良い。ストレートの茶髪に、大きな瞳がとても綺麗で、年上のお姉さんのような感じだ。椎名先輩も同じように、素敵な笑顔でこちらに話しかけてくる。
「小林君に、三浦君ね。よし覚えた。じゃあ二人とも早速だけど、活動始めてもらうからこっちに来て。」
「おい、ちょっと待ってくれ。俺まだ後輩に活動内容教えて無いから…」
「あれ?早くしてよー、何してたの?」
「お前らが、邪魔してきたんだよ。」
早く活動内容を聞いて帰りたいのに、と思いながらふと隣を見る。すると雅弘は、とてもキラキラした目で、先輩達を見ていた。嫌な予感がする。まだ活動内容も分かってないのに、何でそんな顔が出来るのかと聞きたくなるほど、その雅弘の顔は好奇心に溢れていた。
それにさっきから、先輩達の話も妙に引っ掛かる。僕は、取り返しのつかないような展開になる予感がして、急に不安になった。
まだまだ拙い文章ですが、よろしくお願いします。