カースメイカーさんとその師匠さん。
リハビリ第二弾です。
カースメイカー。
主に呪いや攻撃力ダウンや、魔法耐性を下げたりする、所謂デバフと言われる能力を付加する職業である。
そんなカースメイカーの一人である小柄な女性、いや、少女が冒険者ギルド併設の酒場でオレンジジュースを自棄飲みしていた。
黒髪黒目の低身長ながら、出るとこは出ている体型、そして、彼女は美少女だった。
「プハっ、何でこんなことに・・・。 そしてソロで活動してるのに、なんで今度から勇者となんかパーティに・・・。 王命だから仕方ないのかも知れないけどさ・・・。」
普段はクリっとした目を不機嫌そうに細めている少女、名はリリエンティーヌ、愛称リリスは、今日の事を思考から外そうと、先日のクエストを思い出していた。
ある日の事。
私は冒険者ギルドで依頼書が貼られているボードを眺めていた。
依頼 ポッポ村に暴風竜が現れて、暴れているんだワン! 誰か暴風竜を退治して欲しいワン!
報酬 10000ゼニー、ポッポ村温泉宿二泊宿泊券。
「温泉宿二泊! これは承けるしかない!」
私は王都ヤキソバンの冒険者ギルドの依頼を見て、その依頼を承ける事にしたのだ。
だけど、「おっと、この依頼をお嬢ちゃんみたいなチビっ子が承けるもんじゃ無いな~。」私の後ろに居た剣士らしきオジサンが私の手から依頼書を掠め取る。
「オジサン、それは私の依頼書よ!」
私の温泉宿二泊宿泊券が!
私は剣士のオジサンから依頼書を取り返そうとするが、奴は依頼書を持った手を高々と上げ、私の手が届かないようにする。
周りの冒険者達もニヤニヤしてるだけで何もしない。
くっ、私の身長が低いからって、馬鹿にして~。
オジサンは更に、私の頭を手で押さえ付ける。
完全に舐められている。
冒険者ギルドでは、依頼書のやりとりは自由で、依頼書を手に取り、受付カウンターに居る受付嬢ないし、係員に受注印を捺して貰えば受付完了となり、クエストに挑む事になる。
つまり、早い者勝ちなのだ。
「お嬢ちゃんが暴風竜の討伐? 無理無理!」
お嬢ちゃんはコボルトや、スライムでも相手してな!
この剣士・・・。
「高々ギルドランク4のクセに・・・。」
私は頭に置いている剣士の手を乱暴に払い、ボソリと言う。
「なっ!」
「その依頼はギルドランク6のクエストよ! あんたなんかダイオウガザミでも倒してなさいよ!」
そう、私はソロでギルドランク6になった実力者なんだから!
私は白金のギルドカードをオジサンに見せる。
ギルドカードのランクは、石から、青銅、銅、銀、金、白金、魔銀、幻石、神石迄の九つのランクに分かれていて、ランク4は中級下位になる。
私は中級上位だ。
「確かにギルドランク6の依頼でも中級なら承けられるけど、失敗すると罰則がキツイわよ?」
冒険者ギルドでは、中級なら中級上位までの依頼を承ける事が出来る。
けど、自分の実力が足らないのに、分不相応な依頼を承けて達成しなかった場合、罰則がキツくなる。
ギルドランクは落ちないけど、街中の奉仕活動1ヶ月とか、ギルドマスター(脳筋ゴリラ)との楽しい訓練の日々とか・・・。
「で、ポッポ村のワンワーン族の為にも、この依頼は失敗出来ないの。 ワンワーン温泉が使えなくなったらどうするのよ!」
私は温泉大好きなんだから!
温泉の為なら命を賭けられるわ!
「貴方には絶対にこのクエストはクリア出来ないわ。 それともそんなに脳筋ゴリラ(ギルドマスター)と楽しい訓練でもしたいのかしら?」
ドMなの?
私の言葉に、オジサンはたじろいでいる。
でも、何故か私の後ろに目を向けているような・・・。
「リリスちゃん、誰が脳筋ゴリラなのかしら?」
私の頭を手で掴む誰か。
「ははっ、だ、誰でしょうね? い、痛いです。 ギルドマスター(脳筋ゴリラめ!)。」
あ、頭がギリギリと締まるような・・・、痛いです!
私の頭はスイカじゃないです!
「リリスちゃん、ギルドマスター室で少しお話しようね?」
微笑む筋肉質のおねいさん。
おネエのギルドマスター、ラフレシアさん。 本名ゴードンさんの脇に抱えられる私。
「い、嫌だ~! わ、私は悪くないも~ん!」
私は脳筋ゴリラに拐われてしまった。
「私の頭を破壊する気ですか!」
ふしゃ~! 威嚇する私。
「大丈夫よ。 加減したから。」
顔だけ笑うギルドマスター。
「私は被害者です! あのオジサンが依頼を横取りしようとしたから抗議していただけです!」
私はプンスカ怒る。
「まあ、あの剣士は自分より弱そうな子を見付けると嫌がらせをする困った奴だから・・・。」
でも、身体は好みなのよね・・・。
身体をクネクネさせるゴリラ。
「ギルマスの趣味にとやかく言わないわ。 私はポッポ村のクエストさえ承けられたら良いのよ!」
だから、依頼書を返してもらって受理して欲しい。
温泉も気になるけど、ワンワーン族をモフモフしたいし・・・。
私は失敗しないわよ!
私の言葉に、「そうね。 この依頼は貴女に承けて欲しいわね。」ギルマスは先程取られた依頼書をヒラヒラさせている。
「いつの間に?」
驚く私に、「ワタシの特殊能力『ザワー〇ド』で時を・・・。」「わかったから! それ以上は危険よ!」ギルマスが言うのを遮るように叫ぶ。
「これね。 ワタシ好みのイケメンの唇を奪うのに便利なのよん。」
とんでもない事を暴露するゴリラ。
「王都警備隊の皆さん! 此処に変態がいますよ~!」
神よ、何故こんな変態ゴリラにヤバイ能力を与えたのですか?
そして、イケメン達がこの事実を永久に知りませんように・・・。
私は知らない間に唇を奪われたイケメンに対して合掌した。
私にはこのゴリラを止める事等出来ないし・・・。
喋ったら時間止められている内に殺られそうだしね・・・。
何とかギルマスに依頼書を受理して貰い、私はポッポ村に旅立った。
ポッポ村。
この村はワンワーン族が拓いた雪深い温泉郷で、その温泉の効能は万病に効くとされ、湯治客に人気の場所になっている。
そこに三日掛けて到着した私は、夜になっていたので依頼は朝になってからにしようと温泉宿『ワンダフル』に宿泊する事にした。
「はあぁ~、気持ちいい~。」
温泉に浸かる私。
暴風竜騒ぎで、お客さんがあまり居ないらしく、私以外の利用客はまばらだ。
そんな中、私は邪な視線を感じた。
「『カースドブライン』!」
私は視力を低下させる呪いを放つ。
「ぎゃあっ! 目が~っ!」
男湯と女湯を隔てる塀の上から、此方を覗こうとした男に呪いが掛かったみたいだ。
カースドブラインは、対象の目に、レモンの絞り汁と同様の物質を叩き込む呪いだ。
しかも時間経過でしか取れない為、実物のレモン汁のように、目を洗ったり、涙で流れる事は無い。
「ふん、警備に突き出されるよりマシでしょう。」
私は悠々と温泉から出た。
私は夕飯を頂き、軽く内風呂に入り、幸せな気分で就寝した。
次の日。
「お姉さんが暴風竜を退治してくれるワン?」
そう聞いてきたのは、依頼主のワンワーン族のハスキーさんだ。
年中寒いポッポ村では、ダブルコートと呼ばれる毛の厚いワンワーン族が大多数を占めている。
ハスキーさんもその一人だ。
「暴風竜は、ポッポ村の裏山、ポッポ山に巣を作ろうとしているみたいなんだワン。」
裏山には源泉があるから、暴風竜が居るとメンテナンスが出来ないワン。
源泉を定期的にお手入れしないと、何処かで温泉が詰まり、お湯が供給されなくなり、温泉が利用出来なくなるらしい。
「困ったワン。」
ハスキーさんもだけど、この温泉郷全体の問題でもある。
「私に任せてください。」
私は暴風竜の居るポッポ山に向かう事にした。
「はっはっは! 来たな巨乳美少女!」
雪山で頭に猪の頭部をモチーフにした被り物をし、後は褌一枚で佇む変態が私に声を掛けてくる。
コイツ、昨日の覗き魔だな。
私は確信した。
「お前一人では暴風竜には勝てないだろう。 我が手助けして・・・。」「『破壊神』・・・。」私は呪いを発動した。
「はうっ!」
変態はその場でいきなり倒れてしまった。
カースド『破壊神』。
私の師匠曰く、二つの玉を見えない妖精さんが《妖精さんは、ブライアントと言うらしい》がバットでフルスイングして場外ホームランするみたいな事を言っていた。
何だか分からないけど、ナニかが飛ぶんだね。
師匠も変態には沢山ご縁があったらしく、この呪いは重宝したようだ。
私は生まれたての小鹿のようにピクピクしている変態を放置し、先を急ぐ事にした。
ポッポ山には別の魔物も居るから、目的の暴風竜に会うまでになるべく消耗は避けたいのに、無駄な魔力を使ってしまったわ。
暫くポッポ山を登っていく。
雪山で気を付けないといけないのは、吹雪いた時だ。
一面雪で視界が真っ白になると、自分が何処に居るか分からなくなる。
暴風竜は、強い風を起こすので、ポッポ山で雪に降られると視界が悪い中での戦闘を余儀なくされる。
そして今、雪が降り始めていた。
「雪が降り始めてきたし、風が強くなってきた。 しかも強い魔力を感じる。」
暴風竜が近くに居る。
私は師匠から貰った魔道具『視界良好ゴーグル』を装着する。
これで貴女は何時でも視界良好!今から30分以内にお電話頂けると、なんともう1つプレゼント!なんてね・・・。
因みにポッポ山に入る前に、『雪山ブーツ白兎ちゃん』を装備している。
これを装備すると、雪に沈まないのだ。
白兎ちゃんが無いと、私は背が低いから、直ぐに雪に埋もれてしまうと思う。
魔道具って便利だわ。
そんな事を思っている内に、暴風竜『ブラスティート』の姿が見えた。
全長は20メートル程、全身が黒銀に輝き、四足で陸竜に翼を足したような外見に風の魔力を身体に纏わせている。
「てか、まんまクシャル・・・。」
「ゴガァァァッ!」
暴風竜は、私を補足している。
殺る気マンマンだ。
さて、初手は此方からいこうかしら。
私はカーススキルを発動しようとし、「ハハハハハッ! 巨乳美少女よ! 助けに来たぞ! 我のボールは行方不明から帰還したぞ!」駆除した筈の変態がまた現れた。
てか、後ろ! 後ろよ!
私に顔を向けて親指立てているけど、暴風竜になんで背を向けているのよ! 馬鹿なの? 某ハンターゲームで後ろにディガが居るのに、回復薬Gを飲んでガッツポーズ決めてる内に岩が直撃みたいな感じになるわよ!
「ガアァッ!」
暴風竜が纏わせていた魔力の風を、正面に集め放つ。
ほら、来た!
「ハハハハハッ! 我の美ボディをまともに見れないからって、照れ隠しに潰すなんてやり過ぎだぞ・・・ぐわぁ!」
なんか気持ち悪い事を言っていたけど、見事に直撃する暴風竜の魔力の風。
極低温の雪を纏わせた風は受けた者に『氷』の状態異常を引き起こす。
これにより、変態の身体が凍り付いた。
まあ、アレは放置だ。
私は前衛職では無い。
それでもソロでやれているのは、師匠がスパルタだったお陰だ。
「先ずは自由に動けなくする! カースドグラビティ!」
私は暴風竜に重量倍加の呪いを放つ。
「ギャ!?」
変態を氷漬けにし、空に浮き、此方に突撃しようとしていた暴風竜はバランスを崩し雪の上に倒れ込むが、私に向けて魔力の風を放つ事を忘れない。
「くっ!」
私は風を受けないように横っ飛びし、「眠りなさい! カースドスリープ!」お返しに眠りの呪いを発動する。
「ギャ・・・。」
三分程眠らせる呪いを受けた暴風竜は、その場に倒れ込む。
「これで次は、ど」「ハハハハハッ! 我、復活!」
変態が復活した。
そして、「我の美C肉体に傷を付けるとは、許さんぞ! このトカゲめ!」折角眠らせた暴風竜を殴る変態。
勿論起きる暴風竜。
「ちょっと! 邪魔しないでよ!」
カースドスリープは、一度効いたら暫く効かないんだから!
折角無防備の暴風竜に猛毒を付与出来た筈なのに!
「邪魔とか言いながら、本当は我の力を借りられて嬉しいのだろう?」
「んな訳あるか! 本当に邪魔しないで!」
なんなのよ! もう!
暴風竜はまた自分に背を向けている馬鹿を前足で凪ぎ払い、更に、尻尾で追撃する。
良し、もっとやれ、暴風竜!
私は少しスカッとした。
暴風竜は、変態が雪にめり込んで動かなくなると、ふわりと浮かび、私に突撃してくる。
私のような後衛職は、物理に弱い。
だから、貴方の行動は正しい対処だ。
「でも、私は特別よ。」
だって、あの師匠の弟子だもの・・・。
私はニヤリと笑うと、ミスリル製の杖を突進してきた暴風竜の頭に降り下ろした。
ズガン!
私の降り下ろした杖は、カウンター気味に暴風竜の頭に直撃した。
私はその反動を利用して距離を取る。
今の一撃で暴風竜は、魔力の発動体である二本の角を折られ、風を纏えなくなった。
暴風竜は、頭に強烈な打撃を受け、ピヨッているようだ。
「チャンス! カーススキル『カースドデス』!」
私は杖から黒い光を打ち出す。
カースドデス。
麻痺や混乱、脳震盪等で普通の状態では無い敵に死をもたらすスキルだ。
黒い光は暴風竜の身体に入り、心臓に達する。
そして、心臓を一気に凍りつかせるのだ。
ビクン!
暴風竜は、身体を少しだけ震わせると、パタリと倒れ付した。
「ふう、敵の強さによっては、麻痺、毒、睡眠のアンハッピーセットを付与しないといけないから、楽だったわね。」
私は暴風竜をアイテムボックスに収納した。
「なんか嫌だけど、もう付きまとわないでね。」
気絶している変態に向かって回復薬上を投げ付ける。
起きてきたら嫌だし、関わりたくない。
私はポッポ村に向かうため、下山する事にした。
暫くして元暴風竜の棲みかで変態が復活を遂げていた。
「フハハハハッ! 我、再びふっかーつ!」
やかましい男である。
「ふしゅー、ふしゅー。 我が目を付けた獲物は確実にモノにする! 待っていろ! 黒髪美少女よ!」
大きな声で笑うから、軽い雪崩が起きて男は呑まれる。
「はあ、はあ、あの黒髪美少女の身体を味わうまでは我は死なん!」
「いえ、死んでくださいませ。」
涼やかな声。
「貴方のようなゴミクズが私のリリスに近寄るだけで害ですわ。」
彼の前には白金の髪に同じ色の瞳をした美少女が佇んでいた。
「私は愛の女神を守護する者。 星の女神エスタノール。」
彼から見るに、女神だと言う彼女も黒髪美少女と遜色無い背丈と、それ以上のたわわを持っているようだ。
「極上の身体がもう1つ・・・。」
彼の一部がアレする。
「我のセンサーがビンビンキテいるぞ! 星の女神とやら! 我のランスに貫かれるとよいわ!」
更にグイングインする変態。
「その汚ないモノを振るのを止めなさい、変態め。」
彼女は本当にゴミを見るような目を彼に向ける。
「その穢らわしいモノごと私が浄化して差し上げますわ。」
彼女はたゆんとした胸元から、武器を取り出す。
それは巨大なモーニングスターだった。
「いやいや、大きさが合わないだろう!」
狼狽える変態。
アレも少しシュンとなる。
確かにあの胸元から出てくるには大きすぎだが、「女神には秘密が一杯ありましてよ。」そんな事は気にしないのだ。
「さあ、このゴッデスモーニングスター『おやすみママン』はどんな睡眠耐性が有ろうとも一発で安らかな眠りを提供できますわよ。」
ブオン、ブオン!
直径一メートル程の刺々しい鉄球が激しく振り回されている。
「死になさい!」
巨大な鉄球が変態を襲う。
「うひゃあ!」
ドカン!
回りにある雪を全て吹き飛ばし、地面にクレーターを作る凄まじい威力に、ガタガタ震える変態の姿があった。
「チッ、避けないで下さる? 人が折角気持ちよく眠らせて差し上げようとしてますのに・・・。」
鉄球が自動で戻り、またブオン、ブオン!と唸りを上げる。
「今、「死になさい!」って、言ったよな?」
「聞き間違いでは? 私、安らかな眠りを提供させて頂いているだけですわよ?」
可愛く首を傾げながら、その目は獲物を捉えて放さない。
「では、おやすみなさい(死になさい)ゴミクズ。」
とても良い笑顔を向けながら、鉄球を叩き付ける女神を自称する美少女。
叩き下ろされるなら、先に飛び上がり避ければ良い!
変態は跳んだ。
だが、あの恐ろしい威力を誇る鉄球は、地面に炸裂したが、何故かもう1つの鉄球が彼を捉えていた。
そして彼は地面に激突した。
「2つあって良かったですわ。」
嬉しそうにもう1つのモーニングスターを見詰める女神。
「同じお値段でもう1つなんてお徳ですわね。」
通販恐るべしである。
「チッ、まだ生きているのですか。 しぶといですわね・・・。」
こんなザコに時間を取られたら、『リリスちゃん観察日記』が書けないではありませんか。
リリスラブなエスタノールは隠れてリリスちゃんの観察をしているらしい。
「生かしておくのは危険な感じがしますし、先ずは余罪の鑑定をしてみますか・・・。」
「これは、強姦、誘拐、痴漢に、下着泥棒に、ストーカー殺人まで・・・。 有罪ですわね・・・。」
エスタノールは憤る。
「この者は魂すら消してしまった方が良さそうですわね。 ならば・・・、来なさい『神の拳』!」
女神の声に従い、現れたのは、両手の部分に赤いグローブを着けた二メートル程のゴーレムだった。
「オヨビデスカ? カイチョー。」
別にエスタノールは会長では無い。
何故かこの真面目そうなゴーレムには、そう呼ばれるのだ。
エスタノールは空中に男を浮かべると、
「神の拳よ。 貴方に命じます。 星の女神エスタノールの名に於いて、この世界の害悪を魂すら粉砕しなさい!」
そう命じた。
「ワカリマシタ、カイチョー。」
ゴーレムの両目がキラリと光る。
そして、ゴーレムは両手を顔の辺りにまで上げると、上体を八の字を描くように動かしながら男に近付いていく。
振り子のようなリズムから、上下左右の拳の弾幕が男に降り注いだ。
その拳の弾幕は、如何にモーニングスターの直撃を耐えた男の身体でもあっという間に塵に変え、精神体である筈の魂すら粉砕してみせた。
「流石です。 神の拳よ。」
エスタノールはゴーレムに称賛の声を掛ける。
「アリガトウゴサイマス、カイチョー。 デハ。」
エスタノールに一礼して帰還するゴーレム。
とても礼儀正しいゴーレムである。
「さて、ゴミの駆除をしましたし、私もリリスの泊まる温泉宿でゆっくりいたしましょう。」
エスタノールは別人に変身すると、リリスの泊まる温泉宿に向かっていった。
「ハスキーさん、暴風竜を退治して来たよ。」
私はハスキーさんに暴風竜の討伐の完了を報告した。
「本当だワン?」
ハスキーさんに信じて貰うために、暴風竜の頭だけをアイテムボックスから出して見せた。
「ワ、ワン! 本当に暴風竜だワン! リリスさん、ありがとうだワン!」
私はハスキーさんに連れられてポッポ村の広場で今度は暴風竜の全身をアイテムボックスから出して皆に見せた。
この日は、ポッポ村はお祭り騒ぎだった。
でも、良いことしたので、私は気分よく温泉に浸かり、何だかんだで三日間の滞在をして王都に帰還した。
で、今現在、私は王都にある冒険者ギルド併設の酒場でオレンジジュースを飲みながら、勇者とやらを待っていた。
「勇者なんて来なければ良いのに・・・。」
「でも、王命じゃあ仕方ないわよ。」
私の愚痴にギルマスのゴードンさんが返す。
「私、ポッポ村から帰る途中で山賊に襲われたんですよ。」
なんで私って、盗賊だの、山賊だの、変態だの、ロリコンの冒険者達に襲われるのかしら?
私は魔物より男の人が怖い。
「はあ、師匠のエルちゃんに会いたいよう。」
綺麗で、優しくて、強くて、良い匂いがして、胸をジロジロ見ない大好きなエルちゃん。
「うう、エルちゃんに会いたいよ~。」
そんな私の耳に聞きたかったエルちゃんの声が聞こえた。
「あらあら、リリスちゃんは、私の事が大好きなのですね。」
私はテーブルに突っ伏していた顔を上げた。
「エルちゃん!」
「はい、エルちゃんですわよ。」
優しい声。
私は彼女に抱き付く。
花の香りのようなエルちゃんの匂い。
「エルちゃん、私、勇者パーティなんかに入りたく無いよ~。」
私は噂に聞く勇者パーティに入りたく無いとエルちゃんに訴える。
「そう、リリスちゃんはそんなに勇者パーティに入りたくないんですの?」
「入りたくないよ。 だって、勇者パーティは勇者に夜伽しないといけないって、勇者パーティを追い出された聖女ちゃんが言っていたもの。」
怖いよ。
好きでも無い人となんか無理だよ。
私は震える。
聖女ちゃんみたいに、逃げれば良いのかな?
そうしたら、誰かが勇者の餌食になるし・・・。
「そもそも、何故勇者パーティなんて結成されているんですの?」
エルちゃんが私を抱き締めたまま、ゴードンさんに聞いている。
「何だか魔王討伐を目的なんだとか・・・、でもおかしいわよね。 勇者パーティなるものが三年も前に結成されているのに、何の実績も挙げていない処か、この王都からも出ていないし、勇者パーティの勇者だけの悪評が広がっている・・・。」
ゴードンさんもおかしいと感じている。
「そもそも、今の魔王は10才程の少女の筈ですわよ? それの3年前、当時7才の少女を倒しに行こうとしていたのでしょうか?」
首を傾げるエルちゃん。
「まあ、疑問は尽きないけど、先ずは勇者の人となりを確認しましょう。」
ゴードンさんがそう提案する。
私達は、それまで私の成敗した山賊の話をした。
「数が多いので、カーススキルの『足が大惨事』を使用して、山賊達の足を止めたんです。」
このスキルは、足がとても痒くなるか、足の中で何発か小さな爆発が起こる呪いです。
「大体七割が水虫の酷い奴に掛かって、残りは痛みでのたうち回っていましたよ。」
「恐ろしいスキルね・・・。」
ゴードンさんが引いている。
「それで山賊の群れその一が壊滅しました。」
「その一?」
「はい、その一です。」
「まあ、リリスちゃんなら、山賊さん達に大人気ですものね。」
エルちゃんは当たり前みたいに言う。
「で、山賊さん達その二が狭い山道で襲って来たんで、カーススキル『お前はもう、自分で歩けない。(ピプー)』を使ったら、全員谷間に落ちてお亡くなりに・・・。」
ピプーは、長時間正座してると足が痺れて立ち上がれない状況が二時間程続く呪いです。
何だか居たたまれなくなりましたが、山賊に捕らわれていた方々が居たので、まあ、結果オーライですよね?
「あの痺れが二時間・・・、走っている所に掛けられたら、それはね・・・。」
ゴードンさん、呪いを掛けた私もそう思うよ。
「で、山賊その三が。」
「その三?!」
「はい、これで最後なんですけど、規模が多くてですね・・・。」
「王都周辺治安悪いですわね・・・。」
「で、『山賊団 サンゾック』とか言う200人程の集団でした・・・。 最後に何でこんな人数がって、思いましたよ・・・。」
「先ずは足止めとして、『蜘蛛の巣』を全体に掛けてからの、『小さな花』と、『破壊神』のコンボを使いました。」
蜘蛛の巣は、顔全体に蜘蛛の巣が絡む呪いで、破壊神は、ボールが飛んでくらしいんですけど、小さな花は肛門にダメージを与える透明な板が刺さる?みたいな呪いです。
「顔に蜘蛛の巣が絡むのはイヤですわね・・・。」
「更に無防備の下半身を完全破壊ね・・・。」
ゴードンさんの腰が引けている。
で、ピプーの一日バージョンを山賊さん達に掛けて、そのままほったらかしにして、王都に行って、警備隊の皆さんを引き連れて捕縛しましたよ。
大変だったんですよー。
そんな私を抱き締め、頭を撫でるエルちゃん。
何だか幸せ。
夜も更けてきた。
「来ないね・・・。」
もう夕食も食べて、ぐた~ってしている。
「ゴードンさん、勇者来ないよ?」
もう今日は帰りたい。
「そうね。 今日は解散しましょうか・・・。」
ゴードンさんの一言で私とエルちゃんは宿屋に向かった。
その途中、
「勇者ってどんな格好しているのかな?」
「さあ、勇者ですから、きらびやかな鎧とか着けていたり?」
私達は、宿に泊まった。
やっぱり私はエルちゃんが大好き!
翌朝。
「ねえ、ゴードン。」
「リリスちゃん、何かしら?」
「勇者ってどんな格好してるの?」
私の質問に、彼はこう語る。
「確か、ランス使いで、頭はイノシンの被り物みたいなのを被っていて、身体は、裸に何か『ファ〇通』って書いてある白い褌を着けていた感じよ。」
ゴードンさんは、紙に精密なスケッチを書いてくれた。
「「あっ、この人!」」
私とエルちゃんが同時に驚く。
だって、「「犯罪者だと思って成敗しちゃった。」しまいましたわ!」
どうやら、勇者はこの世界には居ないらしい。
そして、勇者が居なくても王都は平和だ。
「でも、何で王様は何もしないのかな?」
「第二王子の方が有能で、第一王子の母親である正妃様が行方不明になったみたいですわよ。」
エルちゃんが私に微笑む。
今日は二人で王都を見て回る事にした。
そして、彼女達に絡んだ男達は、『恋人はお婆ちゃん。(ハイペタジーニー)』の呪いを掛けられ、自分より遥歳上の異性しか愛せない呪いを掛けられたのであった。
カースメイカー。
使い方によっては恐ろしいスキルを駆使する職業である。
お読み頂き、ありがとうございます。