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親睦宴会後編 / 二匹の獅子、前編




「あ、あわわ……」


 白状しましょう。


 脳内であんだけ複数人格会議を開いているが、現実の私はただひたすらアワアワすることしかできなくて、

 あろうことか、人生の中今まで見た一番の超絶イケメンに接近を許してしまう。


 何たる不覚。


 立ち去るならまだ間に合う。

 しかし敵前逃亡は一生の恥。

 ならば取るべき手段は一つしかない――殺ってしまおう。

 手刀でシュッと……今のは断じてダジャレではありません。


 覚悟を決めた私はキッと奴をきつく睨み、全身の気力を振り絞って岩をも断つ手刀をヤツの首筋に繰り出そうとした――瞬間――

 ――奴は人懐っこい笑顔で手を伸ばし、そぉっと私の耳を覆っていた髪を退かした。


 この刹那、さながら達人の読み合い、一瞬にしては永遠。

 その一秒にも満たない時間の中、無数とも言える分岐が生まれ、両者が互いの力量を感じ取――んなわけあるかぁっっっ!


 ――奴め、なんて熟練な動き。

 この私の岩山をも砕き、古代竜の胴体を一刀両断した光速にも匹敵する手刀を、私の思考の一瞬のスキを突いて、後の先で対応してきた。


 繰り出すは必中、狙いは必殺。

 だがその手刀は敵に到達する前に先にヤツの攻撃によって制されていた。


 何たる失態。


 かくなる上は、ヤツの背後に回り込み――瞬歩で移動しようとした矢先に、


 イケメンはささやくような音量で、


「秘密の花園に舞い降りた君はまさしく花の妖精を統べる女王。こうなることを私は予見していました。ですが自分自身の衝動を抑えられそうにありません。お許しを――」


 ――私の右手の甲にチューをした。


 ……ああ、なんかもう死んでもいいや。というか今、心拍数が200に達して死にそうなんだけど。


 いや、だってね?

 見ず知らずのイケメンに手の甲に口付けをされましたですわよ?


 そりゃもうくぁwせdrftgyふじこlpですよ。


 もう色々ツッコミ以前に、思考が正常に働かないの。ティエラちゃん五歳ヤッター。お菓子頂戴ー。


「どうぞこちらへ。宴の用意ができております。魔法が解けるまでの間、私は高貴なる姫君の従順なる下僕でございます」


 ヤツはそのまま私の手を引き、庭園の一角にあるテーブルに導こうとしている。

 が、


「……だめじゃないか、俺の傍を離れたら。会場はこっちだよ、ティエラ」


 突如、私の背後から声がして、もう片方の手はその声の主に掴まれ、強引に引っ張られていく。痛いっ。

 だが、その痛みのおかげで私は我に返り、状況を認識することができた。


 危ない。これが噂に聞くイケメンヴォイスというやつか。のこのこついていくとこだったわ。誰かは知りませんが、助け舟ありがとうございま、あぁあぁあ――!?


 振り返った私の視界に映ったのは、

 ついさっき別れたばかり男爵令息のエリック・カイザーだった。





 ポルソの第二王子は性格悪い。

 なんてのはただの噂ではなく、真実そのものだ。


 そう、私は自他共に認め、性格の悪さで有名だった。


 その日、国王命令で仕方なく親睦宴会に出席していたポルソ第二王子――カタストロフ・ポルソは、こっそり抜け出して自分の庭でサボっていた。


 あくびを噛み殺して、遠くに設置された会場を眺める。


 ――親睦なんて言われてもね? それで手を取り合って、世界平和とは行かないだろう。ま、自分には関係のない話だ。戦争なんて興味ないし、親睦宴会も興味ない。何より面白くない。


「やっぱ、人間は殺し合ってるときが一番楽しいよね」


 冗談のように聞こえるその言葉は、ポツリと彼の口から呟かれた。


 ポルソの第二王子は性格悪い。

 その噂を体現するが如く、カタストロフに近づいたものは例外なく、ひどい目に遭っている。これまで泣かされた女の数は数え切れない。


 現国王――父上は後少しで退位。

 第一王子は軍の指揮においては、バカみてぇにうまいが、内政はてんでだめだ。

 だから第三王子の弟はそのまま後を継ぐ。

 自分? 継承権の話、性格悪い奴のとこに来るわけ無いだろうバーカ。


 国は安泰だ。戦争中だけど。


「ふあぁあぁあ……」


 再びあくびを噛み殺し、カタストロフは空を見上げる。


「――平和な世の中だね、俺が一番嫌いものだ。つまらない。あーあぁ、なにか面白いこと、起きないかな……ん?」


 視線を下に下ろすと、遠くには貴族の令嬢が一人、ここに向かって小走りで近づいてきている。


 ――カタストロフの口元は瞬時、邪悪に釣り上がっていた。





 エリック・カイザーは、正体不明の焦燥感に悩まされていた。


 おもちゃの彼女をからかって遊ぶために後を追ったのだが、目に飛び込んでくる光景――ティエラが、見ず知らずの男に手を引かれている――にひどい不快感を覚える。

 だがこの時点で、エリックはただ不快に感じていただけで、その感情の正体についてはよくわかっていない。


 おもちゃが別の奴にいきなり取り上げられた、だからだろう。

 と、エリックはそう結論付ける。


 ――ならば取り返さないと。奴が誰であろうが関係ない。あれは俺のおもちゃだ。

 そう思い、


「……だめじゃないか、俺の傍を離れたら。会場はこっちだよ、ティエラ」


 彼女の手を強引に引っ張ったのが良かったのか悪かったのか、この時点で、エリックはまだわからない。


 一つ予想外のことがあるとすれば――それは驚いて振り返った彼女の顔が、すごく可憐で儚げで、激しく保護欲を刺激される。


 内心の動揺を隠すように、彼女の手を再び引くが、反対側からも引っ張られているため、ティエラの口から小さな悲鳴が漏れた。


 エリックは、反射的に彼女の手を掴んでいる男の顔を、睨むように視線を向けた。


 端正な顔立ち、それが気に入らない。

 上品な仕草、まるでお前は下賤の出と言っているようで気に入らない。

 上質な服に上位貴族の紋様、見るまでもなく高貴な血筋の人だとわかる。それがまた気に入らない。


 エリックは直感的にわかる。コイツとは相容れない。


「……離してくれないかな。俺は彼女と一緒に宴会を楽しみたいんだ。ほら、ティエラちゃんが嫌がってるじゃないか……ところで、お前、誰?」


「これは失礼。ですが、強引に彼女を連れ去ろうとする暴徒に告げる名前は生憎、持ち合わせておりませぬ」


 挑発するように男に向かってそう言い放つと、相手は軽く鼻で笑い、挑発を返してきた。

 それがまた頭にきて、エリックはティエラを抱き寄せ、男に、


「暴徒はお前だろう、彼女を暴徒から守るのは彼氏の役目だ」


 そう強く言い放った。が、


「はいいぃぃいいぃ?」


 なぜか、懐に抱き寄せていたティエラが素っ頓狂な声を上げていた。




一癖も二癖もあるイケメンたち。

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― 新着の感想 ―
[一言] 癖のあるイケメンというか見た目だけイケメンの中身ロクデナシ···
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