ぶっ飛んでるくせに妙に論理的
「さて、そろそろ決めようか」
唐突にカタストロフは足を止め、そう言い出した。
いや、唐突とは言えないかもしれない。
彼は私をゆっくりと降ろし、窓の外に目を向ける。
釣られるように、私も視線を外に向けた。
先まで城下町に上がっていた悲鳴と戦闘の音は、城門に迫っていた。
「――ゼェ、ハァ――ゼェ、ハァ……き、決めるって…………な、何を……だよ……っ?」
鎧を着た騎士団長ファライは肩を上下させ、激しい呼吸を繰り返しながら質問する。
王子に置いていかれないように必死に走り、疲れが溜まっているからか、途中からタメ口になっている。
……その鎧は、少なく見積もっても40キロはありそうだけど、大丈夫?
というか、私一人抱えてあれだけ走って、汗がほとんどないカタストロフって相当だと思う。対比があってよく分かるわ。
「貴女に、選ばせる」
カタストロフはファライの質問には直接答えず、代わりに私に向き直り、そう言った。
……えぇ、だいたい察したわ。
「何を、でしょうか?」
それでも私はあえて尋ねる。
「脱出か、残るか、どっち?」
案の定、カタストロフは予想通りのことを言ってきた。
そして親指で窓の外をくいっと差し、言葉を続ける。
「この有様だ。逃げるなら今が最後のチャンス。これ以上は安全に逃げられるとは限らねぇ。貴女はこの件で言えば部外者。無理に付き合うこともないだろう」
逆に言えば、今はまだ安全に脱出できると彼は考えているのだろう。
「これ以上命の保証はできない、どうする?」
確認を取るように尋ねてきた第二王子に、私は聞き返した。
「殿下達は? まさか私一人に逃げなさいと?」
「察しが良いな、そのまさかだよ」
「だめです! 逃げるなら一緒に……」
「それはできないな」
「……どうしてですか」
「ああ、勘違いするなよ? 別に愛国心とか国と一緒に死にたいとか、そういうのは一切ない。純粋に――残ったほうが面白いからだ」
カタストロフは説明しながら、何かを企んでいる表情を浮かべる。
だが話を聞いていた騎士が抗議の声を上げる。
「――待った。殿下は今、なんと? 疲れているせいなのか、耳がおかしくなったような気が……」
「残ると言ったんだが?」
「……前々から頭おかしいと思いましたが、ここまでとは。――死にますよ?」
「はぁ、幼少期からの付き合いだ、ファライ。俺は面白い方を選ぶ快楽主義者であっても、自殺志願者じゃないことぐらいわかってるだろう。だいたい、死んだら面白いこと楽しめないじゃねぇか」
「……ぶっ飛んでるくせに妙に論理的なのがまたムカつく」
諦めの境地に入りつつある騎士団長を王子は無視し、もう一度私の方へと振り向き、
「さあ、どっち?」
と尋ねた。
私は――
「――残るわ」
もう一回の投稿は少し遅くなります。




