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一瞬の思考の空白




「――おい、アイツは……騎士団長のファライ!」

「構うこたぁねぇ! こっちは六人だぁ!」


 六人の兵士はファライの顔を視認すると、一瞬怯んだが、数の有利を活かし、強気の姿勢を見せる。

 私とカタストロフを逃がそうと、ファライは剣を構えた。が――


「殿下、ここは私に任せてお逃げくださ――ぐわぁ!?」


 突然背後にいるカタストロフから足払いされて、バランスを崩し床に尻餅をついた。

 

「「「「「「え?」」」」」」


 味方のはずのカタストロフに不意打ちされる騎士団長ファライ。

 騎士団長が守るべき者からの攻撃を受ける――――という光景に、六人の兵士の思考はショートする。

 しかも、大勢の敵がすぐ目の前に来ているという状況下での行動。

 正常な人間なら、意味を理解するにはそこそこの時間を要するだろう。――――もっとも、理解できれば、の話だがな。


 カタストロフに正常人の常識は通用しない。

 兵士達は知らない。普段第二王子に関する印象といえば、大半の者は建国以来の大うつけ者だ――――というのが大まかな認識。

 それは正解であり、同時に誤りでもある。


 カタストロフと対面する時、彼らはそれを理解するだろう。

 ――まさか人数不利な状況下に、自分を守ろうとする味方を自ら不意打ちするとは。

 故に、この場にいるポルソの兵士は誰一人カタストロフの行動を理解できない。不意打ちされ、転ばされた長年の友人ファライでさえも、理解できていない。


 一瞬の思考の空白。

 時間に換算しては三秒未満。

 だがそれで十分。


 カタストロフは転ぶファライの前に飛び出し、

 ファライが手放し――床に落ちる前の剣を空中で掴み、

 左手は懐からダガーを取り出し、

 一陣の風のように六人の兵士へと躊躇なく突っ込んだ。


「「――ッ!?」」


 声を上げることもなく――声を上げさせないまま、先頭の二人の喉を切り裂いた。


 後続の四人は反応しようとしたが、カタストロフはそれを許さない。次の二人に肉薄し、喉に刃が一閃。


「――ひぃ!?」

「っく――コイツ……」


 残りの二人は武器を弾き飛ばされ、手首を切られ、抵抗する手段と能力を失った。


「情報源ゲット」


 剣を二人に向け、勝ち誇る笑顔を浮かべるカタストロフ。


「……殿下ぁぁ!!」




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