時、既に遅し。
「……なんだぁ、てめえ」
捕まっていたならず者達は、忌々しげに私を見上げる。
その視線は、『誰? この小娘』と言いたげだ。
……まぁ、普通の反応かな。
若い女だから、なめているのだろうね。
……まずは、情報を引き出そう。
「……手荒な真似して申し訳ありません。非礼をお詫びします。どうかお許しを」
「……あぁぁ?」
いきなり謝られ、ならず者は威嚇と困惑が混ざりあった声を漏らす。
それもそうだ。
騎士団に襲撃され、縄で拘束された。
これからならず者の自分達を待っているのは、牢屋と処刑台。頭の中では察しているはずだ。……まぁ間違ってないけどね。
「いくつかお尋ねしたいことがありまして――」
「引っ込んでろ女ァ! ションベン臭せぇガキはお呼びじゃねぇんだよッ!」
男は悪態をつき、彼の仲間も一斉に『ギャハハ』と大笑い。
……我慢、我慢。
「お尋ねしてもよろし――」
「聞こえてねぇのか? 引っ込んでろッ! 俺様は上品なメスが嫌いでね」
我慢、我慢。
「ハッッ! 男の(ピー)も見たことねぇくせによ。『キャーコワイ』つってな」
我慢、ガッ……。
「おめえみてぇなお上品で高く止まってる女はなぁ、どうせ一生処女のまま終わって――」
ガマッ――プチっ。
「誰も要らねぇ行き遅れのババアになるに決まってらぁ! ガハハ! ――――アガァア!?」
瞬間。残影もなく、視認不可能のボディブローは男の胴体に炸裂した。
その一撃をモロに受けた男は口から泡を吹いて、体は軟体動物のようにぐにゃぐにゃにねじり、不思議な方向に曲がっている。
「「「「「ヒィーーーーーー!?」」」」」
仲間達は男の惨状を認識すると、口々に悲鳴を漏らしていた。
「誰が、一生処女で誰も要らない生き遅れですって? …………あっ」
ヤバい事態に気が付いた時、既に遅し。
これ、死んでます? いや、生きてます?
「ランツェアイル様!? ご無事ですか!? すごい音しましたけど」
一旦表に出て部下を指揮していたファライが、慌てて中に飛び込んでくる。
「…………なんですか、これ」
しかしグニャグニャにねじり、生きているか死んでいるかもわからない男の様子を見ると、困った表情を浮かべる。
「……彼、転んだの」
「……転んだ?」
「うん」
有無を言わさぬ笑顔できっぱり告げると、ファライは軽くため息を吐き、剣を抜いた。
何する気なの? と私が見ていると、ファライは男の前で止まり、躊躇いもなくその首に振り下ろし、両断した。
「これで牢屋に一人分の空間が増えた」
「「「「「ヒィーーーーーー!?」」」」」
剣の血を拭い、ならず者達を見ながら不気味に笑うファライ。
プチっと切れて思わずボディブローを食らわせた私も私なんだが、やる前に言ってよ、心臓に悪い。
というか、転んだについてのツッコミはなし?
「さあ、何があったかは知らないが、さっさと喋らないと――」
ファライは、また不気味に笑い――
「喋りますッ!!! 何なりとお聞きくださいッ!」
効果てきめんね。
一部のならず者達は私を見ながら怯えているのは気の所為でしょうか。




