若き騎士団長の受難
「こんなものしか用意できなくて、すまんな」
「いえいえ、急な来訪でごめんなさい。ありがとうございます」
コトンと、カタストロフはテーブルに二杯の紅茶を置いた。
一杯は私の前、もう一杯は自分の前に。
そして私に――どこか楽しそうな、柔らかいいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「用件を尋ねてもいいかな?」
「…………その前に……なんか殿下は最初の時と印象、随分変わりましたね」
ニコリと尋ねる彼に、招待された時のことと、先のファライとのやり取りを思い出しながら、私は少し踏み込んだ質問を投げる。
「――変わってないよ。俺は仲良くなった友人の前では本性を出す人さ」
しかし、カタストロフはフッと一笑し、あっさり否定する。
「…………できればその本性は永遠にご自身の懐にしまっておいていただきたいですね。友人 ――――主に私がいつもひどい目に合わされます」
突如、私とカタストロフの会話を聞いていた――というより、耳に入った――床を掃除中のファライはぼそっと、怨嗟を込めた低い声でつぶやいた。
……かわいそうに。主のカタストロフに床の掃除と部屋の後片付けを命じられ、理不尽に丸投げされた青年騎士団長、ご愁傷さまです。
一応、私は手伝おうとしたが、
「とんでもない! ランツェアイル様の手を煩わせる訳には……! 特にこのバカの後片付けは……」
ファライは私に感謝の意を言い、同時にチラチラっと横のカタストロフを睨む。
その目は私に『手伝ったら、コイツ、調子に乗りますよ?』と伝えながら、主君に『お前も手伝え!』と訴えている。
チラチラっと目を向けられ、青年騎士団長の熱い視線に気づいたカタストロフは、ニコッと笑い――
「どうした、俺をチラチラ見て。早く掃除始めろ」
――――届きませんでした。騎士団長の熱い視線は。
まあ、届く訳ないというか、届いてはいるけど無視されている。
流石にブチ切れたのか、ファライは低い声で――
「殿下もやれ!」
「嫌だよ」
「ブチ切れますよ?」
ファライの額に浮かび上がっている血管から、プチッという音が聞こえた。
既にブチ切れているけど? と私は内心でツッコミを入れる。
これ以上刺激してはいけない。今のファライは爆発寸前の火山状態で、噴火を待ち望んでいる。
煮え滾ったマグマが臨界点を超え降り注ぐ溶岩となるか、それとも鎮静化して冷え切る死灰となるかは――
「既にブチ切れているじゃん」
カタストロフの無神経な――あるいはわざと――私が思っていても口には出さなかった一言で、爆発した。
……まあ、切れたところで、悲しき青年騎士ファライは邪悪なる主君には勝てなかった。結局。
勝てたなら、最初からオモチャにされてなかっただろう。
という訳で、冒頭に戻る。
「それにしても、その服も似合うな」
「えっ? ……あ、ありがとうございます」
カタストロフは紅茶を一口すすり、私の変装を褒めた。……少し照れるというか、恥ずかしい。
「――さて、犯罪組織のアジトの話だったね」
「あ、はい」
変装中の私の服に視線を向けながら、カタストロフは薄く笑い――。
「色々聞きたいことはあるが、まあ今は良い。――教えるよ、アジトの場所、全部」
そして一拍を置いて――
「――だって、面白そうじゃん」
忙しい時は、日曜日に投稿します。




