ダイナミック入室
ファライは私の先頭に立ち、長い廊下をゆっくりと歩く。
向かうのは、ポルソ王宮にある第二王子カタストロフの自室。
夜の六時を迎え、王子の部屋へと続く廊下は私達以外人がなく、静まり返っている。
まるで初めから人がいないような静けさに疑問を感じた私は、ファライに尋ねる。
「……使用人の姿は見当たりませんね」
「はい。最近は皆さん、第三王子の即位式を準備しています。こちらにはあまり来ません」
「……それにしても静かすぎるのでは?」
「……あはは。…………お恥ずかしい話ですが、国王様は第二王子殿下と仲が良いとは言えません。その影響かと思います。……お察しください」
ファライズは苦笑を浮かべ、曖昧に濁した。
しかし、それで十分に伝わった。
どうやら公には言えないが、カタストロフは家族にかなり疎まれている。
それも警備する衛兵すら派遣されてないぐらい、嫌われている。
一体何をやらかしたんだろう、彼?
機会があれば、尋ねてみよう。
と、カタストロフの自室に着いたファライは足を止め、扉をコンコンとノックする。
「騎士団長ファライです。殿下のお友達兼おもちゃのファライです。今よろしいですか? どうせ暇でしょう?」
が、数秒経っても返事はない。
「……殿下?」
扉の前でかしこまったファライは眉をひそめ、中の様子をうかがおうと耳を近づけたが、物音一つしない。
「殿下?」
もう一度、声を張り上げるファライ。
が、返事はなく、周辺は静寂に包まれている。
「殿下!? カタストロフ殿下!?」
焦った声でファライは扉をドンと叩くが、同じ。
「――くっ。ランツェアイル様、下がって」
「え? あ、はい」
ファライは私が下がったのを確認すると剣を抜いて、扉に向かって構えた。
「――失礼します。殿下、お許しを――!」
扉を、切り裂いた。
そして、目に入った光景見て思わず固まる。
中は、一面血の海だった。




