むしろ喜ぶと思いますけど?
「あ、いや……昔、殿下も似たようなことを言っていたから……他意はありません」
「……カタストロフ殿下が、ですか?」
似たようなこと、と言われたので少し興味を惹かれ、なんとなく尋ねてみる。
「はい、あの時は何を思いましたか、あのバっ――コホン、殿下は突然、国内の犯罪組織全部をリストアップしろと言ってきて、理由を尋ねたら……」
「理由を尋ねたら?」
「……なんとあのバカ、暇だから潰そうかな――って言われました。……えぇ、わかっていましたとも! 最初から! あのバカは退屈を嫌う、だからそれもただの娯楽に過ぎないということは、最初からちゃんとわかっていましたッ!」
苦い記憶を思い出したファライは、憤慨しながら顔をしかめる。
……完全にあのバカとか言っちゃってるけど、大丈夫? ……まぁ、聞いているのが私だから、大丈夫だろう。
「……コホン、取り乱してしまい、申し訳ありませんでした。ランツェアイル様に言われた瞬間、苦い記憶が一気に蘇りました」
「あ、うん。大丈夫。……それで主な犯罪組織の場所ですが……」
「……ランツェアイル様? 今の私の話、ちゃんと聞いてました!? そのような危ない場所、貴女様に教えるわけには行きませんよ」
しれっと何事もなかったかのように尋ねる私に、ファライは声のトーンをやや強めた。
……彼の話を聞くと、苦労人だということはわかる。それについては同情する。
けれど、私の件は別。
私の安全を案じてくれている気遣いと優しさは嬉しいが、一方融通効かない頭デッカチ騎士の側面も同時に浮き彫りになった。
だって、私の一生に関わる緊急事態ですよ?
やり直しても幸せになれないなんて、そんなの嫌ですわ。
でも、この場でいくらファライに尋ねても、素直に教えてくれるとは思えない。
先のやり取りで彼の性格を把握した私は、そう判断した。
故に変化球を投げなくてはならない。――直球勝負がだめなら。
「――カタストロフ殿下は暇かしら?」
「……え? ……え、ええ……おそらく最近は暇だと思います。どうされました?」
突然風向きが変わった質問に、ファライは面食らったような反応になり、戸惑いながらも返答してくれた。
「ファライは先にこう言いました。殿下は退屈を嫌う――ですよね?」
「……えぇ」
私はいたずらっぽく笑い、ウインクをする。
そんな様子と雰囲気に嫌な予感がしたのか、ファライは不安そうな表情でうなずいた。
「――では今から友人の彼に会いに行きましょう。さあ、護衛をよろしくお願いします」
「え? え? ……えぇえええ!? ……ダメッ! ダメダメ! いくらランツェアイル様でも、仮にも一国の王子に、突然の来訪は……」
「私の知っている殿下はそんなこと気にしないお方だと思いますが?」
「うっ……! それは……確かにそうだけど……」
「むしろ私の来訪を喜ぶと思いますけど?」
「……うっ……くっ……! ……喜ぶでしょうね……大喜び間違いないですね……はぁ……面白ければ、楽しければ良いヤツだからなぁ」
「――決まりね。行こう、お腹ペコペコだわ」




