全部教えて下さい(ニコッ
「……やはり見間違いではありません。どうしたんですか、ランツェアイル様、なぜこんなところに……? その服、一体……? 殿下にまた招待されたんですか? でもそういう話は一切聞いて――」
私だとわかった途端、矢継ぎ早に言葉を吐き出すファライに、私は淡々と彼を制し――
「……ファライ」
「はい、何でしょう?」
「……質問の前にまずは兜を脱ぎなさい。本当にファライかどうかもよくわかりませんわ」
「――あ、これはとんだ失礼を。申し訳ありません」
指摘されて、ファライは慌てて兜を脱いだ。
その下に――私が知っている人良さそうな顔はニコリと笑みを浮かべていて、解放された金色の髪は夕焼けに照らされてキラキラと輝く。
うん、ファライだ、間違いなく。
顔を確認できて、ようやく安心した。
「……それにしても、すごい質問攻めでしたわね」
「……あ、あはは。……申し訳ありません。今になって反省はしています。……しかし、当然の反応だと思います。だって、ランツェアイル様……その服はなんなんですか」
ファライは私の格好に視線を向け、若干苦笑した。
「あ、これ? 似合うでしょ?」
「……そういうことではありません。私がお尋ねしているのは、なぜ平民のような格好を――ということです。……まさかとは思いますが、殿下のいつものおフザケ? ……いい? ランツェアイル様、別に付き合わなくていいですよ? 誰も困りません。困るのは殿下だけです」
くるりと一回転し、村娘の格好でお茶目に振る舞う私に、ポルソの騎士団長は盛大に苦笑を浮かべる。
そして警戒するように周囲をうかがい、声を潜めてヒソヒソと私に耳打ちしてきた。
「大丈夫、カタストロフ殿下は関係ありませんわ……今のところね」
「……すんごく嫌ぁな予感がしますね。その言葉を聞いただけで」
苦虫を噛み潰したような表情になったファライに、私は真似するように先の彼と同じく声を潜めて尋ねる。
「……ファライは例の件について、何か聞かされてませんこと?」
「……例の件ってなんなんですか。そんなさも暗黙の了解のように尋ねられましても。……ランツェアイル様、殿下と友人になって以来、悪い癖ウツってません?」
あら? この反応……本当に知らないのね。
てっきりポルソ上層部の人間は私の冤罪誘拐事件について、かなり情報を得ていると思っていたが、違ったようだ。
もちろんファライが知らされていない、もしくは嘘をついている可能性もあるけど……。表情と反応を見る限り、嘘はないかな。
「……騎士団長様は、ポルソ王都の犯罪組織に詳しいですの?」
「ヘ? ……なんでそんなことを? 詳しくは……まぁ、大体は知っているですかね」
「では、アジトの場所、全部教えて下さい」
「……はい? ……聞き間違い……ですよね?」
「ううん? できれば王都以外にも、ポルソ国内有名な犯罪組織のアジト、その場所を教えて頂けると嬉しいですわ。……あの、どうされました?」
「……頭が痛い」
ファライは頭を抱え、私を見つめながらゆっくりと口を開き、
「ランツェアイル様があのバカみたいなことを言い出した。どうしよう」
絶望に満ちた顔で呟いた。……失礼な、どういう意味よ。




