時間が経てば経つほど
……日が落ちて、夜になっているにも関わらず屋敷は騒がしいまま。
外の広い庭では、時折衛兵のグループが巡回し、怪しい人影はいないかと目を光らせている。
中では、使用人の皆は悲しい顔でうつむいていた。
――お嬢様がさらわれた。
王の直属騎士団の調査結果によると、そういう結論になった。
先日の暗殺者の侵入。
警備が厳重にも関わらずいなくなっている。
直前に残した意味不明のメモ。
何故か地下牢で捕まっている男爵令息の証言。
そのすべてを総合的に見て、騎士団は公爵令嬢をさらった犯人グループは相当な手練と判断した。
公爵令嬢ティエラが行方不明になってもうすぐ一日。
未だに犯人から連絡がない。
それが意味することは、事態は好転するどころか、時間が経つに連れますます悪化していく。
――というのが現在の状況。
侍女達のすすり泣く声を聞きながら、屋根裏に潜んでいる私は腕を組み、策を考える。
全盛期の力を保っている私にとって、更に厳重になったとはいえ、警備をかいくぐること自体は容易い。
……でも、誤解を解くことは難しい。
そもそもさらわれてないからね、私。
こうなってしまった以上、今更のこのこ出ていくこともできない。
かと言って、時間が経てば経つほど、大事になっていく。
というかなんでこういう事になったの?
私、別にメモでヘルプミー! って書いてないでしょう?
さらわれた助けてなんて一言も言ってませんけど?
……策自体は簡単に思いつくけれど、その後が面倒なのよ。
例えば、さらわれたことになっているというのであれば、どこかの人さらい組織にわざと捕まり、騎士団に救出してもらう。
ここまではいいとして、問題はその後、私の身辺警護は更に厳重になるのは目に見えている。
……それはダメだわ。今以上に婚期がピンチになる。
となると、色々面倒だけど、最適なのはやはりあの策か。
そう決めた私は、準備に取り掛かる――のだけれど、この時はまだ知る由もなかった。まさか存在しないはずの犯人が現れるとは――。




