そぉっとしまっておこう。
「申し訳ありません、妹が説明不足で……」
「ごめんなさぁいー!」
兄妹揃ってペコリと頭を下げる。
「いえいえ、こちらこそ早とちりしてしまい、申し訳ありません」
私もペコリと返す。
「……朝食ですね? こちらが当店オススメメニューのビーフシチューとトマトスープ。このような寒い朝には特に美味しく感じますよ?」
ウェイトレスを務めている妹のレイミに代わり、コック担当の兄がオススメしてくる。
ビーフシチューとトマトスープかぁ……。
それと、寒い朝を強調している辺り、客の需要を見抜いて的確にオススメしている感じがすごい。
いいよ、それで。
私がうなずくと、レイミの兄はニコリと柔らかい笑みを残し、エプロン姿で厨房に向かった。
「トマトスープとビーフシチューかぁ…………レイミもビーフシチュー好きよね……ナイスチョイス! 特に今日は寒いからねっ」
しかし、なぜか妹のレイミは相変わらず私のテーブルに残り、頬をほころばせて幸せそうな表情を浮かべている。
「……仕事しなくていいの?」
疑問を口に出すと、
「えっ? レイミ仕事してるよ?」
と、逆に怪訝そうな顔をされた。
「……あぁ、接客ね。なるほど」
「お兄ちゃんの料理は全部好きだけど、寒い日のビーフシチューとトマトスープは別格よ」
立ちっぱなしは疲れたのか、答えながらそのまま私の隣の椅子に腰を下ろすレイミ。
るんるん気分で鼻歌を歌いながら、私と一緒に料理を待つ。
……ウェイトレスなら他にも仕事あるんじゃないの? というツッコミはそぉっと内心にしまっておこう。
それよりせっかくの機会だし、色々聞いてみよう。
「レイミ……でいいよね? 先の男の人は?」
「お兄ちゃんだよ?」
「……この食堂は家族で経営していますの?」
「――うーん、家族と言えば家族だけど……レイミとお兄ちゃんの二人だけ!」
「……両親は王都にいませんの?」
「パパとママはもういないよ?」
……会話に真っ先に兄が出てくる辺り、なんとなくそんな気はしていた。
これ以上暗い話は避けよう。と私はさり気なく話題を変える。
――楽しく一時を過ごしているこの時の私はまだ知らない。私がいないことに気づいた屋敷は大騒ぎになっているなんて。




