表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/59

幕間6 返り討ちにして差し上げますわ。…………あれ?




 暖かい日が東から登る。

 ……真夜中にも関わらず、敷かれた厳重な警備をかいくぐり、屋敷と敷地から脱出したまではいいが、宿の営業時間を過ぎていたため、結局夜が明けるまで王都をフラフラ彷徨うことになっていた。……寒い。


 本格的に冬になろうとしているこの時期に、路上で一夜を明かすのは得策ではない。……とにかく寒かった。


 雪降らなくてよかったわ。


 朝日と共に、住民のみんなが活動を始め、王都は活力と熱気を取り戻していく。


 そんな朝の風景を眺めながら――


「――クシュン」


 小さくくしゃみをした。……寒い。





 朝食はどうしようかな、とフラフラ歩いていると、鼻をくすぐる香ばしい匂いが漂ってきて、そちらに吸い寄せられてしまう。


 匂いをそのままたどっていくと、大通りから少し離れた路地に、奥まったところに食堂らしき建物があった。


 中を覗くと、営業は始まっているけれど、まだ来客は誰もいない貸し切り状態。

 ……もっとも、お客さんどころか、店員もいない。


「……おはようございます?」


 恐る恐る入ると、私の声を聞いたのか、奥から――


「はわわ、お待ち下さい~! 行き、行きますからぁ! 今すぐ! あわわ、あぎゃあぁあ!? いったぁ……!、足の小指をぶつけたぁっ! きゃあ!? あ……落ちる! 落ちる! 割れる! きゃあああ!」


 悲痛な悲鳴が店内に響き渡る。

 ……他の店行こうかな。

 なんて思った途端、そんな私の思考を読み取ったかの如く――


「行かないでぇ! 行きますからぁ! 行かないでくださいお願いします! 一生のお願いですから!」


 また店の奥から、何かが割れた音――何かにぶつけた音――何かが破裂した音――色々の音が奏でる合唱の中に混じり、少女の悲鳴が聞こえてきた。

 




「大変、お待たせしてしまいました」


 ペコリと謝る少女の頭から、割れた皿の破片が雨粒のように落ちる。


「……大、大丈夫?」


 少女の安否を気遣う。

 小さな体のあちこちに傷を作り、ウェイトレスの服に赤と黄色と、ありとあらゆる色の調味料がついている。

 正直、戦争激戦区から生き残った軍人でも、これほどひどくはならない。


「はいっ! ありがとうございます! いつものことですので……」


 照れながら笑う少女。


「……っと、お客様を待たせちゃだめですね! ご注文は? 朝食ですよね? 朝食ですよね!?」

「……え、えぇ。朝食ですわ」

「やったあぁ!!!」


 全力でガッツポーズをする少女。……朝食にそんな喜ぶ要素があった?


「はい! ではご注文は!?」

「……おすすめはあるのかしら?」


 王都で食べたことがないので、聞いてみる。

 しかし、少女の口から返ってきた答えは予想を遥かに超えるものだった。


「――全部」

「――ヘ?……カツアゲ? ボッタクリ?」


 変な声を漏らし、思わず耳を疑った。

 全部と言われて、アコレヤバイミセダって思った。今はドレス着てないから、わからなかったのかな? 公爵令嬢をぼったくろうなんていい度胸ですわ。


「あ、いいえ! 違うんです! 全部というのは――全部美味しいから全部オススメという意味なんです! ぜひ全部試してくださいっ」


 慌てて説明するウェイトレスの少女。

 ……意味は変わってないと思うのは気の所為? 買い占めろと?


 これはあれだな、次の瞬間、厨房からコワイ兄さんが出てきて、「お客さん? 座ったなら注文はするんだよな!?」って脅してくるヤツだ、私知ってる。

 甘いですね、腕っぷしで私に勝てるとでも? 返り討ちにして差し上げますわ。

 さあ、かかってきなさい!


「レイミ、どうしたの? トラブル?」


 ほら、出てきた。厨房から――超絶美男子が。…………あれ?




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ