限りなく正解に近い
開け放たれた窓から、夜の冷たい風が流れ込み、髪をそっと撫でる。
膝の上に置いた本のページを、指でゆっくりめくっていく。
今夜は夜空が綺麗で、思わず眺めながら本を読みたくなってしまうわ。
最近は色々あったし、たまにはこういう時間も必要よね。
静まり返った廊下から伝わってくる静寂は、屋敷全体が徐々に眠りについていることを告げる。
指で静かにページをまた一つめくり、文字を追う。
同時に思う。
こんな時間、ダニエラはまだ起きているのかしら? と。
お嬢様が就寝するまで寝ません。
なんて侍女の鑑みたいなこと言ってないで、早く寝なさいと何度も言ったけど、一向に聞く気配ないわ。
ページをめくりながら、そのやり取りを思い出してクスっと笑いを漏らす。
……と、今日はこれくらいにしようかしら……ん?
栞をはさみ、本を閉じて、何気なしに窓の方へと目を向けた私は――おかしなものを見た。
最初は、それが何なのかわからなかった。
自室の窓の外、すぐそこの木の枝の上に、複雑な形をした影がこちら――室内を覗き込んできている気配を感じた。あまりに絡み合っているせいで、それが何か認識できず数秒の間じーっと凝視した。
木の枝の影かな? と一瞬思ったが、太さからしてありえない。
それに、普通の人間では無理だけれど、前世の全盛期の力を維持している私だからこそ気づけた事がある。……息遣い。
影から息遣いを感じ、直感的にあれは生物だとわかった。
はて? 我が国にこんな――まるで複数の人間が重なり合っているような――シルエットの生物はいましたっけ?
んん? と、目を細めながらじーっとしばらく見つめると、影がもぞもぞと蠢き出し、破裂したように分裂し、シュシュっと窓を飛び越えて部屋の中に入ってくる。
そこで初めて、影の正体に気づく。
人間だった。
しかも一人ではなく、複数人。
正確に言うと、三人。
更に言うと、全員殿方である。
……ハへ? どういう状況?
目をパチクリさせ、何度も確認する。
消えない。存在感ある。幻ではない。幻覚でもない。
だからこそ、混乱する。
時刻は深夜に近い十一時。
そんな時間に、私の部屋に三人の殿方が?
「気づかれたならしょうがねえな」
三人の中の一人がわずかに前へと進み、いやらしい笑みを浮かべながら私の全身を舐め回すような視線で見つめてくる。
少し気持ち悪く感じるが、未曾有の状況に理解が追いつかない。
というか今の私はドレスなど着ておらず、かなりラフな部屋着で、できれば見られたくないんだけれど。
(……本当にこれ、どういうことだろう)
あれこれ考えたが、結局答えは出てこない。
経験したことのない状況に、脳がフル稼働する。
「……まあ、一応聞いとくか。てめえがランツェアイル公爵家の令嬢ティエラで間違いねえよな?」
「……えぇ、まあ。そうですわ。あなた達は?」
聞かれたのでとりあえず答える。
キョトンとしたまま三人を見つめていると、三人は何やらヒソヒソと耳打ちをし始める。
「間違いねえよ。あん時見たのと同一人物だ」
「ドレスは着てねえが、コイツだ」
「そうか。――どうする? 殺る? 連れ出す? 顔はバレてねえが見られたし、騒ぎになると面倒だ」
……?
なんの話でしょうか?
ヤル? ツレダス?
「あの……?」
恐る恐ると声をかけるが、三人は私のことなど眼中になく話を続けていく。
「見たところ、俺たちどころか男すら見慣れてねえ。ちょっと脅せばビクビクと子猫のようについてくるぜ」
「処女は面倒臭ぇな。殺る前楽しみたかったのに」
い、一体何の話……?
三人は、まるで私がいないかのように相談を続ける。
うーん……話がさっぱり見えてきませんね。
仕方ない、これまで耳に入った三人の断片的なキーワードを組み合わせてみるしかないわ。
ヤル……ヤる?
ツレダス……連れ出す?
騒ぎになると面倒……?
男見慣れてない……?
子猫……?
ビクビク……?
処女……?
面倒臭い……?
楽しみたい……?
頭の中でキーワードを並べていくと、一つの結論に行き着いた。
だけど――その可能性はあまりにも低く、非現実的だから否定しようとした瞬間。
「おい女、黙って俺たちについてこい。わかったか? 大丈夫だ、痛くはしないさ。クックック……」
男が発した言葉と、隠しきれないいやらしい笑みは私の推測は的中したと無情に告げる。
(あわわあ、まさか本当にそうだったなんて。どうしよう、この状況――って)
――まさか推測が本当に合っていたとは。
つまりこれが俗に言う、ヨ・バ・イ……!? しかも一気に三人!?
あわわ、ど、どうしよう……!?!?!?
言うの遅れましたが、本作のコンセプトはIQ1800のバカです。(平均IQは地球と変わりませんのでご安心を)
知能身体ともに最強ですが、男に慣れてないせいで男性が絡むとティエラちゃんはポンコツになります。




