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幕間3 蠢く影




「申し訳ありません」


 暗い一室の中に、一人の男が頭を下げていた。

 男の背後には、二人の男が手を後ろに組んで、リーダーと同じくわずかに頭を下げている。

 蝋燭の火に照らされて、黒い服を着た三人の影は揺らぐ。


「……」


 対し、テーブルの前に座っている男は不機嫌そうに鼻を鳴らしながら三人を睨んでいた。

 ――失敗した暗殺の報告を聞いて、喜ぶヤツなどおらんのだ。


 この国の第二王子は評判が良くない。いや、それどころか、殺したいほど悪い。

 幸いなことに、現国王は第三王子を後継者に指名している。つくづく良かったと思う。あんなろくでなしが国王にならなくて。あまりに悪い評判が災いしたのだ。


 だがそれですべてよしというわけではない。


 あまりに評判が悪く、奇行が多い第二王子は後継者候補競争から早々に見放されて、有力な貴族がついておらん。だが目障りな存在ということに変わりはない。

 加えて国王は第三王子を後継者だと名言したが、もともと第一王子を支持していた貴族たちは当然それで納得するはずがない。――このままでは権力を失う可能性がある。と思っているのだろうな。


 ――それは第三王子派閥の自分達にも言えること。


 第二王子カタストロフの素行があまりにもひどい故に、これまで第一王子と第三王子の仲は注目を浴びることほとんどなかったが、継承が決まって以来、二人の対立は目にすることが多くなった。


 ただ注目されてなかっただけで、決して仲良い関係ではない。

 第二王子という共通の敵が消え、それまでの対立がさらに悪化した。


 戦バカの第一王子は力による支配を声高に主張し、停戦などバカバカしいと憤慨する。

 内政優先の第三王子は無論、停戦を良しとし、異を唱えた。


 これまでならば、それも問題はなかったのだろう。なぜなら二人は等しく王位継承者だから。

 しかし、後継者が決まった今では、通っていた自分の主張は通らなくなっていく。――と第一王子は危機感を覚えた。


 ……それだけなら問題はないのだがな。

 あろうことか、失墜を恐れた第一王子派閥の貴族達は、彼にいらぬ提案を囁いた。


 ”――我々はあなたにつく。軍を掌握しているあなたこそ、この国の王にふさわしい”


 と、悪魔の甘美な囁きに心を動かされた第一王子は貴族の案に乗り、国を乗っ取ることを計画している。実に嘆かわしい。


 それを知ったからには、阻止せねばならん。国を軍事による支配を企む蛮族に任せておけん。


 だがここで第二王子が問題になってくる。

 なぜ、暗殺は第一王子ではなく、第二王子に向けていたのかというと、第一王子を殺したら、刺客を差し向けた第三王子派閥の我々、ひいては第三王子の継承権が剥奪されるかもしれない。


 早々に競争から脱落したカタストロフは、継承に興味ないと公言している。

 なのに決まった途端に暗殺は流石に無理がありすぎる。しかも殺したのは継承が決まった第三王子ではなく、同じく脱落者の第一王子。

 誰の目から見ても怪しい。


 それに、第一王子がなくなったら安心というわけではない。

 信じがたいことに、昔の軍事模擬戦の時、カタストロフは戦バカの第一王子と引き分けになっていた。

 王族授業をしょっちゅう抜け出しているあのカタストロフが。


 幸い、カタストロフを支持している貴族は皆無で、評判も悪く、国王からひどく嫌われている。殺したって、大して注目は浴びない。

 ……それと、底知れぬ不気味さを放っているから早めに始末しておきたいのが本音だ。


 しかしなかなか隙がない。

 

 そして刺客からもたらされた新たな情報。ヤツは他国の公爵令嬢と候爵令嬢を客人として招いていた。

 これでは手が出せない。

 何より――背後に有力な貴族がついてない前提が覆される恐れが出てくる。


 逡巡の後に、男――ポルソ四大公の一人、ディカルラは命令を出した。


「……ティエラ・ド・ランツェアイルを調べよ」




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