美人だから多分問題ありません。
声の方に振り向くと、白い上級貴族の服を着て、優しそうな雰囲気を漂わせている青年が、こちらに手を振りながら歩いてくるのが見えた。
「遅刻ではないが、相変わらずのんびりだなお前は」
カタストロフは青年に苦笑を向け、挨拶する。
「今日は天気いいから――あ、どうも、はじめまして、私はエルミナファ・ファブロックと言います。気軽にエルとでも呼んでください」
青年――エルミナファはニコッと、カタストロフに負けず劣らずの人懐っこい笑顔を浮かべる。
「あ、はじめまして、ティエラ・ド・ランツェアイルです……ッ」
その整った美貌にやや赤面し、隠すようにペコっと一礼する。
私に続き、隣りにいるダリアンは――
「……ダリアン・ファイブライズです」
と、何故か不機嫌そうに頬を膨らませ、短く済ませた。……えーと、ダリアン?
そんな親友の変化に、カタストロフは鋭く察したが、ニコニコ笑って何も言わない。
対して同席している騎士団長のファライは、察したはいいが、どうしようか困っている表情だった。
最後―――おそらく何も察していないエルミナファは笑顔のままマイペースに着席した。
五人の間に、沈黙が舞い降りる。誰も口を開かない。
うーん、困った。
いきなり機嫌悪くなった親友にかけるべき言葉が見つからず、場の成り行きを見守ることしかできない。
と、沈黙に耐えきれなくなったのか、ファライはわざとらしい朗らかな声で、
「いやぁ、殿下、早く着替えてきてください。客人の前でその格好、あまりにも失礼ではありませんか。あっはっはー……」
カタストロフに着替えを促す。当然、その表情は引きつっていた。
「なんで?」
「いや、なんでって、お前……そりゃあ……」
しれっと聞き返すカタストロフに、ファライが更に困った顔で、ちらっとダリアンを窺ってから――空気読めよこのバカ! と言いたげな顔でカタストロフを睨む。
だが睨まれても、カタストロフは涼しい顔で受け止める。
……なんとなくファライから苦労人の気配を感じる。
「似合ってるよ、侍女服」
と、何を思ったのか、エルミナファが唐突にカタストロフを褒める。
「そうかそうか、似合ってるのか――お前はいつも唐突だな。少しは脈絡というものを学べ」
褒められたカタストロフはというと、あははと笑った後、苦笑した。
「うーん? 私はただ、思ったことを言っただけよ? ファライも、美人だと思うでしょ」
「えっ? 美人……ですか? このバカが?……確かに黙っていれば……いや、座っていれば――いや、死んでいれば――美人と、いや、そもそも美人――」
「美人って男を褒めるのに使わないだろう」
ファライの後半の本音ダダ漏れは聞こえていたがあえて反応しないのか、それとも単に聞こえなかっただけか、カタストロフは華麗にツッコんだ。
「うーん、じゃあどう褒めればいいの?」
「エル様、褒めなくてよろしいかと」
「さり気なく俺をディスるな、お前。このまま座っていい?」
「だめに決まってますッ! 着替えてきてください! また変な噂、増えますよ」
「俺は気にしない」
「私が気にします! とにかく着替えてきてください!」
「わがままだな、ファライは。わかったよ」
渋々と言った様子で、カタストロフは離れるが――
「待て、殿下はこのまま行く気……ですか?」
「うん? 何か問題でも?」
「大アリです! 誰かに見られたら……」
「俺は気にしない」
「私が気にします! しかし、困ったな……どうしよう」
「それなら安心しろ、ファライ」
「え?」
「実を言うと――」
「実を言うと――?」
「ティエラ達が来る前、朝から五時間ほど、すでに城内をこの格好で思う存分うろちょろしていたのさ! HAHAHA! 目撃者はバッチリ」
「――もうヤダ、この人」




