友人の前では
「……何してるんですか、殿下」
ファライは呆れた顔で、もう一度尋ねた。
「何って、給侍だぞ?」
「そんなの見ればわかります。私が言いたいのは――コホン、ランツェアイル様、失礼」
呆れた声色に少し怒りが混じり、ファライは私に頭を下げてから、カタストロフに向き直り――
「私が言いたいのは、どうして殿下自ら侍女の服で給侍などなさっておられるのかをな!」
「客人をもてなすのが主人の義務であろう。そうしたまでだ」
問い詰めたが、侍女の格好のカタストロフは悪びれることもなく堂々と答える。
あまりの真っ直ぐさに、一瞬ファライだけではなく、私とダリアンまでも言葉を失ってしまっていた。
――いや、ツッコミどころいっぱいあるんだけどね!
『客人をもてなすのが主人の義務であろう。そうしたまでだ』
確かに言葉の意味では、何らおかしくはない。
この場合、私は来賓で、招待された客。カタストロフは主人で、招待した人。
……おかしくはないんだけれど……それが一国の王子が使用人の服で自ら給侍とは結びつかないでしょう。しかも女性の服で。
……いや、似合ってるんだけどね。
もとからイケメン偏差値が高いせいか、美人に見えていて、それと洗練された動きも相まって、様になっている。
弱点と言えば、声ぐらい。実際黙っていれば私でさえ気づかなかった。
「どう? いい出来でしょう。これ自作だが、徹夜した甲斐があったと思わない?」
自慢気に披露するカタストロフ。
裁縫チャンピオンの私から見ても、確かにいい線いってる。この男、意外と高スペック?
「……その努力は別の方向に使ってほしいです。飾らずにありのままの自分をさらけ出すのはやめてもらえませんかな、殿下」
頭痛そうに抱えるファライ。
「何を言う。友人の前で自分を偽るなどできぬぞ、俺は。そこまで器用な男ではない」
「ああ、そうでしたな! 忘れておりましたな、殿下は友人の前だとそのままの自分をさらけ出す人でしたな! 殿下の友人は大幸せ者ですな、幸せ過ぎて私、胃に穴が空きそうですな」
半ばやけくそに叫ぶファライの声も、カタストロフは爽やかな笑顔で、
「HAHAHA。そんなに俺のことが好きか、ファライは。お前の喜ぶ顔を見て、俺も楽しいぞ」
残酷にかき消した。
一方、二人のやり取りを見て、私は思わず、
「――クスッ」
と、笑いを漏らしていた。
「……ランツェアイル様?」
その笑い声につられ、ファライが若干眉をひそめながら、私の方へと顔を向けてくる。
「ごめん、ごめん。お二人の仲がいいなって、そう思いました」
クスクス笑いながら、説明する。
同時に、自分がカタストロフの前でも恥ずかしがらずに会話できていることに気づき、驚く。
(――あれ? 私……そういえば……)
あれだけイケメンすぎて失神するとは思っていたのに、平気だった。
怪訝に思いながらも、ちらっとカタストロフ(侍女ヴァージョン)に目を向けて窺う。
(彼のおかげ?……まさか?)
思えば、彼の荒唐無稽な意表をついた行動によって、私は緊張することも忘れていた。
その行動は、私の緊張を解くため?
しかし、もし本当にそうだとしたら、いよいよ彼の意図がわからなくなる。
考えすぎ、かな……。
そう思った次の瞬間――
「――姫君を楽しませたところで、宴会の準備を始めよう。そろそろアイツも来る頃合いだろう」
カタストロフの言葉に、ドキッとした。
まさか、ねぇ……?
だが冷静に落ち着く暇もなく、頭にすぐ次の疑問が浮かぶ。アイツって?
そんな私の疑問を答えるかのように、
「やあ、私は宴会に遅れたかい? カタストロフ。……おや、ファライもいる?」




