意外なとこに
「到着いたしました、お嬢様」
御者の声で、まどろみから目覚める。
馬車の中で軽く伸びをし、関節をほぐす。
毎度のことながら、やはり長旅は退屈だわ……。何より長時間の馬車の移動は体に良くない。
……今回はポルソの第二王子に友達として招待される形で、彼の国を訪問する。
当然、国のしがらみや政治の思惑は一切なく、単純に友達の付き合いという範囲内で、私は招待に承諾したのだけれど……。
しかし、そのことを快く思っていない者は多くいる。
これまで口を挟んで来なかった第三国――ついでに言うと、今自分達と戦争している国の同盟国――そこの公爵が少し前、唐突に親睦宴会を主催した。
続いてその令嬢が訪問するというのは、いらぬ誤解と深読みを招いてしまっても仕方がない。
(……それわかっていて招待したのかしら? 第二王子は)
馬車から降り、周りを軽く見回す。
ここはポルソ王城……の庭園だろうか?
整然とした庭の中、侍女達は整列し、指示を待っている。
その遠くに、通路や扉を警備する兵士の姿が見える。
……それだけ。
ここは貴族達がよく開く宴会とは違い、華美な装飾が無ければ、豪華な料理もない。
――それがかえって私的にポイント高かった。
友人として招待される私は、みんなが地位や財産を誇示するかのような宴会より、こういうほうが楽しめる。彼なりの気遣いかもしれない。
などと感心していると――
「……ティエラちゃん、油断してはいけません。ここは敵地、今も虎視眈々と私達の命を狙う兵士がどこかにいますわ」
――警戒心を最大にした横にいるダリアンが耳打ちしてきた。
今回の宴会を快く思っていない人はポルソの者だけ――ではなく――こんなところにもいた。
「……何回も確認したけれど……ダリアンは招待されてませんわよね?」
何回見ても、招待状は私の名前しか書かれていない。
「うん。だけど、私、ティエラちゃんのことが心配で心配で……」
だからついてきたと?
ダリアンは泣きそうにしながら、上目遣いに見てくる。
……それ言われると弱い。
ため息を心の中で一つついて、苦笑する。
「お待ちしておりました」
庭の向こうから、親睦宴の時の騎士がやってきて、頭を下げて挨拶をする。
名前は確か……ファライだっけ?
軽く頭を下げ、一礼を返す。
横のダリアンも私に続いて、一礼する。
こういうとこを見ると実感する、あの二人の前以外では、いつものおとなしい子なんだよな……。
「殿下はお忙しいのかしら?」
「うちの馬鹿ですか? いいえ、今朝は早く起きてはしゃいでおりました……どうか、気分を害さないでください」
挨拶も交わし、着席したのはいいものの、遅々として現れないカタストロフの姿を探しながら、ファライに尋ねる。
「ケイス様は……殿下とは親しい仲のようですね」
「ファライで結構ですよ、ランツェアイル様。はい、不幸なことに、あのバカとは幼い頃からの友人でして……」
「ふふ、ファライは面白い人ですね。仲が良くて羨ましいですわ」
「えぇ、日頃常にそう思っております。面白いから不幸にもあのバカに気に入られましたってね」
カップが空になったのを見て、控えていた侍女がゆっくりと近づいてきて、またミルクティーを注いだ。
それを一口すすり、味を楽しむ。
「殿下はどういうお方か……お尋ねしてもよろしいのかしら?」
私の質問に、同席していたダリアンがビクッと小さく反応した。
「……うちのバカについて、ですか?……そうですね、一言では言い表せない人でして……強いて言えば――」
――強いて言えば?――ファライの次の言葉待っていると、
「――強いて言えば、何だ?」
意外にも、私の背後に控えていた侍女が口を開き、聞き返すように声を発した。
私達は驚き、振り返ると――そこには、
「……何しているんですか……殿下」
ファライが苦虫を噛み潰したような表情で、侍女の服で控えているカタストロフに尋ねた。




