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運命って美味しいのかしら?




 『貴女の力を、全盛期のまま』。

 それを理解すると同時に、私は頭を抱えた。


 メモを読む限り、ファルヴァライア様は純粋な善意でこうしたのが分かる……が、それが逆にまずいのよ。

 まさに女神の悪戯とでも言いましょうか、あいにく私、前世? ではあまりに強すぎたため、殿方に避けられてきたんです。


 それを悟るのに、六十年以上もかかったわ。


 ”殿方は自分より強い女性を好まない”――当たり前と言えば当たり前ですが、私はただただ守りたい一心で、その事を失念していたわ。


 でも、こうなるのはある意味必然かもしれない。


 私は貴族、貴族であれば、誰だって暗殺される恐れがある。時には敵国から、時には身内から。故に護身術はほぼ必須で、子供の頃から父様にずっと言い聞かされていた。――もっとも、父様もここまで強くなれとは言ってなかったし、ここまで強くなれるとは思ってもみなかったんでしょうね。


 何しろあの勇者をワンパンで沈めたんですから。


 そのせいで、みんなにゴリラゴリラって言われるわ、からかわれるわ、殿方に怪力女って避けられるわ、もう散々。せっかく女神様の善意? でやり直しの機会を与えられたのに、このままじゃ失敗するのは目に見えている。


 何か、策を考えねば――。

 と考えていると、叫びを聞いた侍女長のダニエラが慌てて駆け寄ってくる。


「お嬢様、どうしました!?」

「あら、ダニエラ、貴女、若いわね」

「へ?」

「いえいえ、何でもありませんわ、おほほ」


 危ない、前世? の記憶のせいで、つい。

 私の反応を見て、困惑な表情を浮かべて見つめてくるダニエラ。その顔を、私は懐かしむように眺める。


 前の時は、彼女は最後まで我がランツェアイル家に勤めていた。ランツェアイルが徐々に没落していく中で、各々の理由でみんな屋敷から去っていったが、彼女だけが、給料は出ないのにも関わらず、最後まで私の傍に居てくれた。


 うん、今私は十五歳に戻されたのよね? じゃあダニエラは今、確か二十歳よね。


「ダニエラ」

「はい、何でしょうか、お嬢様――それより、お怪我はありませんか? 盛大に転んだようなので」

「貴女を絶対に幸せにするわ」

「はあ……?」

「とりあえず、明日から給料四倍ね」

「……クスクス、お嬢様、冗談がお上手ですわ。えぇ、期待しておりますよ」


 最初は困惑気味で相槌を打っていたダニエラだったが、突然クスクスと笑い出した。その反応を見て、少しムっとなり、反論しようとしたら――。


(――そういえば、給料は当主が決めることだわ。今十五歳に戻っているから、まだ当主じゃないということを忘れていたわ)


 ついつい前の基準に引っ張られる。


「クスクス……その様子だと、どうやらお怪我はありませんね」

「えぇ、心配してくれて、ありがとうね。それより、ダニエラ、聞きたいことがあるわ」

「あら、何かしら?」

「そ、その……殿方を、……ッ……殿方と、お近づきになりたいわ。どうすればいいのかしら?」


 流石に殿方を落としたいは言えなかった。七十歳まで生きていても、恥ずかしいことは恥ずかしい。


 私の言葉を聞いて、最初は真面目な表情で対応していたダニエラだが、突然堪えきれなくなり、クスクスとまた笑い出す。


「あら、あらあら。クスクス。もうお嬢様、気が早いですわ。焦らなくてもそのうちに――」


 ――そのうちに、父様からパーティーの参加許可が出ると言いたいのでしょうね。えぇ、前世はちょうどこの後社交界デビューだから、よく覚えているわ。でもそれじゃ駄目なの、遅いの。何もかもが手遅れなの!


「それでは間に合わな――ではなくて、淑女として、自ら行動しようと思う」


 孤独なまま、女の喜びも幸せも手に入れられないまま死んでいくのは、もうゴメンだ。


「お嬢様?」


 ただならぬ私の反応を見て、察したのだろうか、ダニエラはしばらく考え込んだ後――


「――お嬢様はこのまま待っていれば、きっと素敵な殿方と巡り会えますわ」


 ニコリ笑顔で言った。

 こりゃ駄目だ、私の腹心(前世)は頼りにならないわ。


「もういい、自分でなんとかするわ」

「あら、お嬢様? どこへ?」

「部屋」


 ダニエラは善意で言ったんだろうけど、今速やかになんとかしないと後に大変なことになる。私、恋がしたい。


 キョトンとした表情を浮かべるダニエラに背を向け、自室へ急いだ。





 ――なんとかするって言ったはいいが、どうやって?


 部屋に戻った私は、腕を組み、じっくり考える


 そもそも七十年の人生経験があり、かつ全盛期の力そのまま保っていると言っても、中身は私、つまり恋に対して幼い少女と何ら変わらない。

 そんなレベル1のウブな初心者が、殿方とお近づきになりたいって言ったところで、策なんて考えても出てくるはずなかった。


 唯一頼りになりそうで実は一番頼りにならないダニエラは、焦らなくていいと言う。他の侍女や執事に聞くのもありかもしれないが、一番仲良いダニエラであれだからな、全く同じもしくは似た反応が返ってくることは容易に予想できる。

 ――つまり何も有益な情報は得られないということ。


 まあ、無理もない話だが。普通に考えて、十五歳で結婚というのは、貴族の中でもやや早い。しかしそれはあくまで一般論。私の場合は何もしなければ生涯独身決定なので、それは避けなければならない。普通に恋がしたい、結婚したい、愛されたい!


「となると、次のパーティーで、緊張しなければいい話?」


 元を辿れば、最初の社交界デビューで失敗したのが原因かもしれません。あの時は大勢の殿方がいる場で緊張してしまい、うまく喋れなかった。

 しかし、七十年の人生経験がある今の私ならば、初対面の男相手でもペラペラと……言ってて悲しくなるわ。七十歳というキーワード、封印ね。

 だが、これで希望の光が見えた。デビューパーティーで婚約相手を見つけられれば……!


「――さあ、反撃の狼煙を上げるチャンスが来たわ。今度こそ、幸せになるのよ」


 拳を握り、勝利を確信し、デビューパーティーに挑もうと意気込む私。……この時の私はまだ、知らない。人生は一筋縄では行かなく、そんなに甘くないのよ。


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