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『ティエラちゃん、今すぐ助けるからな。どけ、ティエラちゃんは俺に会いたがっている、邪魔するな。さてはお前ら、アイツに買収されたな、汚い手使いやがって……ッ。彼女を部屋に閉じ込めるなんて許せんッ!』




 ……うーん、エレガント。エクセレント!


 え、なんのことですって?


 こんな清々しい気持ちで朝を迎えられる喜びを表現しただけですわ。


 ズズー、と一口紅茶を啜る。


 朝。自室。朝食前のこの穏やかな時間。

 人間関係という柵から解放されたことがこんなに素晴らしいなんて、前世では決して思いませんでしたわ。

 どこぞの学習能力ゼロのお猿さんと、謎深きイケメン王子がいないだけで、こんなにも穏やかな気持になれるなんて、ああ、素晴らしいですわッ。


「お嬢様、ポルソ第二王子殿下からのお誘い、返事しなくてよろしいのでしょうか」

「……ダニエラ、貴女、わざとですの?」


 壁際で控えていたダニエラが突如口を開いた。

 危うく口の紅茶を吹き出しそうになり、ギリギリのとこで耐えた。私偉い。

 咎めるように質問すると、ダニエラはキョトンとした顔で、


「え? なんのことでしょうか?」


 と答える。

 ……まあ、わざとではないのは知っているわ。うちのダニエラが私が紅茶を吹き出し、部屋を汚してしまう様を眺めながら楽しむ鬼畜ではないのは知っていますわ。

 でも察してほしいですの、人がこんなにも気持ちよく高級紅茶の香りを楽しんでいるのに、諸悪の根源の片割れの名前を出さないでほしいですわ。というか存在を思い出させないで頂戴。

 ……もしかして、この場合、わざとではないほうがもっとタチ悪い?


 いや、今は考えたくないですわ。せっかくのいいお天気、清々しい気分のままでいたいの。


 再び紅茶を飲もうとしたその時、


「ではエリック様はどうします?」

「……ダニエラ、貴女わざとやってませんこと?」

「ヘ?」


 危なかったわ。

 今度こそ、もう私が一秒早く紅茶を飲んでしまっていたら、ランツェアイル家の前代未聞の恥、末代まで語り継がれるところだったわ。

 淑女たるもの、何より公爵令嬢たるもの、そんな真似は決してできませんですわ。


「……ですが、エリック様昨日も来ておりまして、正門の前で叫んでいました」


 ダニエラが困った顔で大きくため息をついた。


 あの学習能力ゼロの猿は……!

 どこに『友達から始めましょう』と言われた翌日に朝から訪ねてくる人がいる。


「放っときなさい。追い返すと命じたはず」

「……毎日来ておりまして」

「丁寧に追い返しなさい」

「……そうしていますが、どうも私達のことを、お嬢様との恋路を妨害する邪魔者と認識されておりまして、聞く耳持ちません」


 あのお猿さんの頭の中は、一度ぐらい見てみたいわね。ポジティブ過ぎてあらぬ被害妄想を生み出している。


「……とにかく面会謝絶ですわ。返事もまだ早いね……これ以上は紅茶がまずくなるわ」

「……すみません、お嬢様」


 ズズー、と冷めかけていた紅茶を一口。


「あ、そういえばお嬢様」

「……ふふ。警戒しておいて、正解ですわ。で、今度は何か?」


 事前に来るとわかっていれば、失態を晒すこともない。


「……ヘ?……ダリアン様が、」

「そうだったわね、朝食と新しいテーブルを庭に運んで頂戴」

「……かしこまりました。ん? 新しいテーブル、ですか?……そう言えば庭のテーブル、いつの間にかなくなっていましたね」

「……老、老朽化よ、老朽化で粉々に」

「……はあ……そう、ですか?」


 そうに違いありませんの。きっと老朽化ですわ。





 友達という条件から一週間が経った。

 謎多き第二王子カタストロフは思いの外すんなり納得し、この一週間は一通の招待状だけが送られてきた。

 が、お猿さんは不満に文句をこぼしていた。

 その不満と堪え性のなさを現しているかのように、毎日訪ねて来ている。


 今のところ、カタストロフの返事は近々出そうと考えている。

 お猿さんには我慢というものを学んでほしいので、しばらくは会う気ありません。犬だって待てと言われたらおとなしく待つのに、あなたが犬以下ということは流石にありませんわよね?


 ダリアンについてはあの二人がいないとき観察してみたけれど、前と変わらない振る舞いなので、おそらく原因はあの二人だろう。


(……現状では夫候補としてカタストロフが一歩リードしているわね)


 あのお猿さんは苦手意識が強く、恋愛対象としては微妙。

 でもどちらを選んでも、ダリアンからNG出されそうな気がする。

 そもそも、なぜカタストロフはあの場面で、私の婚約者だと発言したのだろう。


(……落ち着いて考えてみれば、あそこであの発言は助け舟というより、更に場を混乱させただけでは?)


 だから、女の勘が警告をした。

 謎多き第二王子――彼のことをよく知るため、夫にふさわしいかどうかを知るため、私は招待に応じることにした。




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