第四人の刺客と三者択一
――どうしてこうなった。というのが、正直な感想。
何ということでしょう。翌日起きたら、なぜかダリアンの夫アルトスが来賓用の屋敷にいて、新婚夫婦特有の初々しさとラブラブ空気を見せつけている。
……念のために言っておきますが、この二人は婚約を結んだだけで、正式に結婚はしていません。なのにこの見ている方が恥ずかしく感じる空気……ある意味相性抜群です。あ~んするな、あ~んを。
(そうだったわ。前世のときもこの二人は仲良い夫婦として有名だったわ)
……すでに正式に結婚していた前世はともかく、なぜ結婚前からすでにこんなラブラブなのか、疑問ですわ。二度目の人生でも新しい発見があるわね。
だが問題はこの二人ではない。
「なぜ貴方もいるのでしょう、バルドロ」
視線は、すぐ隣の文学少年へ向ける。
一人用のテーブルを一人で占拠し、フィレの盤面とコマを広げているバルドロ。
公爵邸ですよ?……傍若無人にフィレのコマを動かしながら一心不乱にフィレの本を読んでいるコイツ、怖い。
私の家なのに。
「僕はただフィレをしに来ただけ、気にしないで」
バルドロは相変わらず盤面とコマと本を見つめたまま、返事する。
……あまりにもブレない発言だから危うくスルーしかけたけど、よくよく考えたらここ私の家なのにただフィレをしに来ただけ? 意味不明。
……っていうか……
「人の家で勝手にフィレしないでください!」
「僕にやめさせたいならフィレで勝負しよう。勝てればやめるよ」
何という王様発言。
コイツにフィレをやめさせたければフィレで挑まなければならない。だけれどフィレで挑んだらそもそもやめさせる意味がなくなり、最初の目的が崩壊する。しかし挑まなければコイツはやめない。まさに矛盾の螺旋。
「実力行使で排除もできますわよ?」
ニコっと柔らかな笑みを見せる。
このバカに付き合わず、実力で黙らせることもできるよと。
「だとしても僕はフィレを生涯やめない!」
えぇええぇえええぇ……。
何という王様発言パート2。
いや、まあ。フィレバカは問題だけど問題ではない。
フィレ大好きのバカより――
「ダブルデート行こうぜ、ティエラちゃん」
と、お猿さん。
「お互いの親睦を深めましょう。美しき姫君に最高の一日を約束しよう」
と、謎の自称婚約者第二王子。
――二人からデートに誘わているけど?
よし、状況を把握、確認しましょう。
場所はここ、ランツェアイル家の来賓用の屋敷、広間。
居合わせた人間は私、ランツェアイル公爵の娘。前世では凄すぎてモテなかった女ナンバーワン。
親友のダリアン、候爵の娘。色々ハイスペックだけど本人は気づいてない、自身の凄さに。
親友の夫、アルトス。優しくて人当たりも良く、親友にふさわしい男。だがなぜこの場にいる訳わからない人物その一。
男爵令息エリック、やんちゃなお猿さん。学習能力ゼロな上に何故か私と夫婦漫才を始める気満々で絡んでくる。苦手。
男爵令息エリックの友人、フィレ大好き唯我独尊王様バルドロ。なぜこの場にいるのかわからない人物その二。呼んでもいないのに勝手に持参し、人様の家でフィレを始めるヤバいヤツ。
最後に殿として登場するのはこの方、ポルソ第二王子殿下、謎のイケメン。自称婚約者。ミステリアス。
……本当、どういう組み合わせだよこれ。
で、朝ここに来たら熱い出迎えを受け、いきなりデートと提案された。
「デート、ですか」
普通なら喜ばしいことのはずだが。……提案するのがこの二人でなければ、の話。
片方は常に私と夫婦漫才を虎視眈々と狙う学習能力ゼロのお猿さん。
片方は素性がよくわからない上に危険な匂いを漂わせている超絶ミステリアスイケメン。
更に――
「ティエラちゃんは、今日は私達と一緒に回ろうと決めていますわ。そうですよね、ティエラちゃん」
親友ダリアンが何故かここでも参戦してくる。後半さり気なく圧力をかけてきているが、そんなの言葉だけで、声色は拒絶されないかと不安に震えている。
捨てられた子犬の目で見ないでください。思わず頷きそうになるわ。
誤解しないでほしいのは、別に私はダリアンと二人で出かけても良い。だけど彼女は”私達”と言った。
私達、それはつまりこの場合、アルトスが含まれている。
……未来の夫を連れて私と一緒に王都を回るつもり? それありなの? 私としてはナシだけど。
アルトスと二人で回りなさい……そう言いたいが、ダリアンの人畜無害小動物視線で見つめられたら、ノーと言えなくなる。そんな涙目で私を見つめないでー。
そしてダリアンの”私達”の場合、おそらくエリックとカタストロフ――コホン、失礼。やんちゃなお猿さんとミステリアスイケメンが含まれていない。
同じことは他の二人にも言える。
エリックはカタストロフと一緒にいるなんて絶対嫌がるだろうし、何よりこの二人の相性は最悪だと思う。
カタストロフだってせっかくのデートなのに、ライバルがついてくるなんてありえない。
んで、ダリアンはこの二人を嫌悪している、ように見える。
三者択一というわけだ。
どうしよう。もう本当に、どうしよう。
この場合の正解は?
行く? 行かない? それとも――
「悩まなくていいのに」
私が頭を悩ませていると、予想外の人物が口を開いた。……バルドロ?
まさか、この場面を解決する秘策があるのかな? と一縷の望みを抱いた私だが、
「僕とフィレをしよう。そうすればすべて解決さ」
第四の刺客が現れましただってよ。




