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その場にいなくて良かった。危うく二度目のデッドエンドを迎えるとこだったわ。




「私は――様子を見ながら、慎重に決めたいと思いますわ」


 つまり、キープで。


 最初は候補として考えていたあの学習能力ゼロのやんちゃなお猿さんは、実際接してみるとグイグイ強引に来るどころか、二人の間を隔てる壁を一気にぶち破って距離をゼロにするタイプ。


 正直、どう接していいのか戸惑うし、苦手だわ。


 何より、あのお猿さんと話しているといつの間にかペースに乗せられてしまい、夫婦漫才が始まる。

 ……こんなコメディでギャグなお笑い芸人みたいな恋は嫌ですわ。普通の恋がしたいですわ。


 次は謎の超絶イケメンの第二王子殿下ですが……見た目はあまりにも麗しすぎて、逆にどうしたらいいのかわかりませんわ。

 あの見た目で静かに見つめられていたら、一分で失神する自信がありますわ。更に愛の言葉も同時に囁かれていたら、心臓麻痺する自信ありますっ。


 これでは結婚どころか、恋愛自体成立するかどうかも怪しいですわ。


 それに、前世で培った戦闘直感と女の勘が告げている。

 あの人は、なにか重大な秘密がある、軽々しく心を許してはいけないと。


「そうか……」


 私の返答にひとまず納得したのか、ホッとした表情を見せるお父様。


 婚約の話はこれで一旦終わり。

 その後はお父様と少し話してから、自室に戻った。





 一方、来客用の屋敷の広間に――。


「夜這いならあっちじゃねえぞ?」

「……そんなことはしません。あまり見かけない異国のものが珍しくて、つい夢中になってしまいました」


 消灯後の室内は月明かりに照らされ、薄い闇が浮かび上がっている。


 おぼろげな輪郭を帯びていた様々な影の中、広間を見下ろすように二階の手すりに寄りかかる一つの人影と、広間の中心に佇んでいるもう一つの人影が、声と連動しゆらりと動いた。


「……何が目的だ?」

「目的、とは?」

 

 見下ろす影が問い、佇んでいる影が聞き返す。二人の視線は闇の中で交差する。


「婚約の話だ。あれ、嘘だろう」

「さあ、どうでしょう」

「とぼけるな。ティエラちゃんは最近デビューパーティーに出席した。なのにいきなり婚約者だと? しかも他国の。胡散臭せぇな」

「実は幼い頃に決めた婚約です。という可能性は考えられませんか?」

「知らなかったぜ、俺の国はいつの間にかポルソとそんな関係になってたなんて」


 見下ろす影が皮肉げに笑い、挑発する。


「愛は時間を飛び越える。悪いが、譲る気はありませんよ。今のところはね」


 だが佇む影は涼しげに受け流し、恥ずかしいセリフをこともなげに言い放つ。


「お、お前……よく恥ずかしげもなく言えるな」

「本音を言葉にしただけです。私は彼女に惹かれています」


「……チッ、仕草がいちいち芝居かかるやつだぜ」

「お気に召しませんでしたか?」


「当たり前だこの野郎」

「それは何よりです。勝手に殴ってきて、勝手に負けた相手に親しく思われるのもなんだか不愉快ですし」


「……今のも、本音か?」

「そうですよ?」


「そうかよ。じゃあ覚えとけ、俺はティエラを諦めるつもりはない」

「それは良かったですね」


「なに?」

「いえいえ、何でもありません」


 佇む影――カタストロフが浮かべる薄ら笑いは暗闇のヴェールが覆い、よく見えなくしている。


 ――お前が諦めると、面白さ半減だからね。と、カタストロフは心の中でほくそ笑む。

 事態は複雑になればなるほど、面白い。

 そう告げるカタストロフの笑みは、誰にも見られることなく暗闇の中に消えていく。


「では、夜も遅いので、私はこれで」


 二階から見下ろすエリックにカタストロフはペコリと一礼し、部屋へ戻ろうとする。

 そして、広間と廊下を繋ぐ扉をくぐる直前に、まだ見下ろしているであろうエリックに、


「明日が楽しみですね」


 意味ありげな言葉を呟いた。





 何なの、アイツは。

 広間を離れていったアイツの足音を聞きながら、エリックは複雑な気持ちになっていた。


 愛は時間を飛び越える。とアイツは言った。

 恥ずかしいセリフだが、こともなげにさらっと言えるのは素直にすごいと感心した。


 ……自分は、どうなんだろうね。


 最初はおもちゃぐらいの感想しか抱かなかったティエラのことだが、いつの間にか彼女のことが気になって、一緒にいたい。


(俺は、ティエラちゃんのことが好きなのか)


 よくわからない。だって初めてのことだから。

 頭の中はわからないことだらけだ……が、一つわかることがある。

 それは――


(ティエラちゃんがムカつくアイツに奪われるのはいやだ)




聞いていたら恥ずか死。

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