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修羅場&修羅場&修羅場……?




 OH、NO……!

 そこに立っていたのは、いつぞやの学習能力ゼロの猿だった。


 学名、男爵令息エリック・カイザー……! 

 生息地、国内全域。

 体長178センチ、体重71キロ。

 オス。

 外見は著しく人間にそっくりなため、よく混同されているが、学習能力は低く、人間の言葉は聞き流す傾向にあり、またやけに馴れ馴れしく話しかけるため、付きまとわれたら非常に困る生物の一種。


 そんな生物が、ここに。

 なんで?


「……GO HOME! YOU YANKEE MONKEY!(野山へ還れや、やんちゃなお猿さん)」


 私はエリックに向かって大声を上げる。

 考えるのは後だ。背後には宴会の時のイケ――もとい、ポルソ第二王子がいる。まさに犬猿の仲。二人が出会うのはまずい。喧嘩になるのは目に見えている。


 そんな私の淡く儚い願いが、通じ――


「何言ってんか、わかんねぇーべや。ティエラちゃん」


 ――通じる訳ないですもんね! 

 知っていたわよ。儚い願いがあっさり打ち砕かれたわ。


 エリックはちらっと私の後ろにいるカタストロフを一瞥し、


「ま、なんでアイツがここにいるのかは聞かないでおくが、」


 それは貴方。あ・な・た。なんで私の家にお猿さんが?


「会えて嬉しいぞティエラ」


 そう言って、実に嬉しそうに私を抱きしめるエリック。


 あまりに突然、あまりにイラッと来たので、思わず彼に渾身のドラゴンをも屠るボディブローを放ちたくなるが、既の所でギリギリこらえた。

 ここを戦場にしてはいけないと、血の雨を降らしてはいけないと、自分を落ち着かせる。


 迂闊にやらかした暁には今度こそ前世のありとあらゆるの異名が再び蘇り、世界中にランツェアイルの娘の名を轟かせるであろう。

 そうなるとまだ見ぬイケメン――コホン、未来の夫達はたちまち裸足で逃げ出す。


 ……先のテーブルはノーカンよ。

 あくまでお淑やかにを心がける。


「は・な・れ・て・く・だ・さ・い……ッ!」


 そう、あくまで笑顔。

 しれっと呼び捨てにした男にはムカついているが、その気持ちは額に浮き出ている青筋だけで十分彼に伝わるだろう。

 ぐぐぐっと彼を押しのける私の抵抗がようやく伝わったのか、エリックは、


「そんなに嬉しいのか。恥ずかしがんなよ。ティエラかわいいなもう」


 ――更に抱きしめる力を強めた。


 ピキ、ピキピキ、ピキピキピキ……!

 青筋が一つ。青筋が二つ。青筋が三つ。


 この大きなやんちゃな盛のついたお猿さんは、どうやら地下牢に閉じ込められ、三食バナナ生活を送りたいようだ。

 限界に達し、爆発寸前を迎えていた私は、実力行使に移そうとした瞬間、


「私のティエラちゃんに馴れ馴れしく触らないで!!!」


 いきなりダリアンが私の手を掴み、引っ剥がそうとする。

 ――ちょっ? ダリアン、今”私のティエラちゃん”って言わなかった? ……”私の”?


 当然、エリックはそれで手を放すハズもなく、


「おやおやこれはこれはファイブライズ家の候爵令嬢ではありませんか。失礼。ですが聞き捨てになりません――ティエラは俺の彼女です」


 聞き捨てにならないのは貴方も同じよ。

 それに何回も言うけど、私がいつ、どこで貴方の彼女になったの? というかこのお猿さん口調変わってません? 二重人格?


「ティエラちゃんは私の親友なの! 貴方の彼女さんではありませんッ!」


 ダリアンも負けじと私を引っ張り、反論する。

 ……さり気なく”私の”という所を強調するあたり、愛が重い。


 私の体は――


「親友と彼女なんて比べようがありません。手を放していただけませんかね、ファイブライズ様」


 エリックに引っ張られ、右へ――


「嫌ですわ。私の大親友ティエラちゃんが嫌がってますの! 手を放すのは貴方ですわ!」


 ダリアン引っ張られ、左へ――


「これだから上級貴族様は……! ティエラを物扱いするな」


 右へ――


「物扱いしているのは貴方ですわ! 六歳からの大親友ティエラちゃんのこと一番良くわかっているのは私ですわ!」


 左へ――


「ガウガウ……!」


 右。


「ガミガミ……!」


 左。


 ……。

 …………。

 ………………。

 ……………………誰か、助けて。


 助けを求む私の視線は――遠くで傍観していたポルソ第二王子と目が合ってしまった。

 するとカタストロフはニッコリと笑い、大きく頷いて見せた。


 助けてくれるの?

 と、一縷の望みを抱いた私だが、


「そこまでだ、私の婚約者をこれ以上困らせないでほしい」


 ――あれ?




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