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修羅場&修羅場




 ポルソの第二王子?

 ……そんな方、いましたっけ?


 ようやく激しい呼吸を整え終わったのか、ダニエラは私に出迎えようと、そう促そうとした時、


「お久しぶりですね、夢の国の姫君」


 ダニエラの背後から声が響き、一人の青年がやってきて、私達に恭しく一礼した。


 あっ、アイツはッ! あの時のイケメンッ!?


 顔を上げた青年、優しそうな笑みを浮かべている彼は――親睦宴会の時に、庭で出会った名前も知らぬイケメンだった。


(メディッッッッッック!っ)

(どうしたっ!? 閣下――あ、なるほど。敵襲ですね。お任せあれ。……今出られるのは、そうですね……ポンコツの冷静ちゃんしかいませんが、よろしいでしょうか)

(貴女ね、私のことをポンコツポンコツと言ってますけど、みんなポンコツと言っているようなものですわよ?)

(あ、これはヤバい。冷静ちゃんが冷静なツッコミだと……空前絶後の緊急事態ですね)

(失礼しちゃうわねっ、ほんと……で、どうするの? 閣下)

(……だめだ……冷静ちゃんが冷静だと使い物にならないわッ、他の私を――ッ!?)


「貴女のことを見かけて以来、忘れられなくて。どうかお許しを」


 いつの間にか第二王子は私の目の前まで来ており、気づかぬうちに私の手を取り、今まさに手の甲に再び口づけをしようとしているところ。

 隣りにいるダリアンは『んまぁっ』と照れながら手で口を覆った。


「んぎゃぁああああ!?」


 が、私は淑女が出してはいけない声を上げながら、手を反射的に引っ込めた。

 言うまでもなく、今脳内はすっかりパニック状態である。


(コヤツ、一度ならまだしも二度もキスしようとするとは、どういう反応すればいいのかわからないわッ――もうやだわ、ティエラちゃん帰りたい。おうちどこ?)

(……閣下までも幼児退行してしまったか。致し方あるまい。私が出るしかない)


 すっかり幼児退行してしまった閣下と冷静な私を置いて、ミリタリな私は覚悟を決め、体の制御権を握る。

 そして、謎のイケメンから一歩引き、距離を取った後に薄く笑みを浮かべて、


「――貴方。断りもなく訪ねてきておきながら、名乗りもせずに口付けとは、失礼だと思いませんこと?」


 と、熱のこもらない言葉を叩きつける。


「ティエラちゃん?」


 突然の私の変貌に、隣のダリアンがぽかんと口を開けて見ている。


「……そうでした。では改めて―ポルソ第二王子カタストロフ・ポルソと申します……ティエラ・ド・ランツェアイル様」


 だが彼は動じることなく、優雅に頭を僅かに下げ、自己紹介した。


(……ッハ、見とれている場合ではありませんッ。いま前線は私しかいない、なんとか持ち堪えなければ)


 内心ではそう思っているが、動揺と緊張を出さずに私は、


「ティエラ・ド・ランツェアイルですわ。……淑女の名前をこっそり調べ上げるなんて、いい趣味ではありませんわね」


 絶対零度の視線を放ち、カタストロフを射抜こうとする。

 正直、貴族だから名前ぐらい知れ渡っていても何らおかしくない。だけれど名乗る前に先に名前を言われると少し不愉快に感じる。


「これは失礼。私の無礼にお許しと寛大な処置を。少しでも貴女に近づきたくて、独断で調べました」


 ……はい?


(私に近づきたい? ありえない。人生生まれて一番縁がないのはイケメンだった。それがお近づきになりたいと言っている?……ドッキリ?)


「……失礼ですが、私、貴方に名前を名乗ったことがありません、わよね?」


 まずはそこから。

 イケメンにお近づきになりたいと言われてドキッと来たが、逆にあまりにも縁がない相手からのセリフなので、冷静になったわ。


「はい、名乗りませんでしたね。庭の時――私としたことが」

 

 カタストロフは穏やかな笑み――絶対の自信を感じさせるような笑みを向けてくる。


「……では、どうしてお近づきになりたいとおっしゃいますの? あの時は……」

「姫君の美しさに惹かれた。というのは駄目でしょうか?」


 尋ねる私の言葉に、カタストロフは真摯な声色と眼差しで私を見て、答えた。


(……っう、そんな真っ直ぐに見つめられたら……ッ)


「……理、理由にはなりませんわッ」


 顔が赤くなっていくを感じ、慌てて横にプイッと逸らす。


「たしかにそれだけでは理由になりませんね。だからこうして来訪し……さらなる親交を深めておきたいと思います」


 カタストロフはクスッと笑い、そう述べる――が、


「そうですッ、ティエラちゃんはすごく美人だと思いますっ」


 何故かそれまでは静観に徹していたダリアンがいきなり興奮した声を上げた。

 それに対し、私とカタストロフだけでなく、いつの間にか庭園の遠くまで下がったダニエラも驚いていた。


「……これはまた失礼を。貴女の名前を伺ってもよろしいでしょうか。私はカタストロフ・ポルソ」

「ダリアン・ドゥ・ファイブライズです。それよりティエラちゃんの話だったわね? もうみんなわからないわっ、今まで。ティエラちゃんの美しさと言ったら私でも時々見惚れ――」


 やめて……ッ、ダリアン、お願い、やめて……ッ。

 傍で聞いているだけで、恥ずかしさで死にそう。


「……ほ、ほぅ?」

 

 カタストロフもダリアンの勢いに押されたのか、返答に困るような困惑した声を漏らす。


「何も喋らない時のティエラちゃんはそれはそれで凛々しくて格好いいだけど、やはり笑う時のティエラちゃんも捨てがたいわね?」


 熱のこもった声で、カタストロフに同意を求めるダリアン。上気した頬はじんわりと汗ばみ、ピンク色に染まる。

 特にわね? と一見同意を求めているように見えて、実は拒否権を与えてないのが怖い。


「はい、そうですね。そう思いますよ」


 だがカタストロフは、最初の時こそ少し彼女の勢いに押されたがすぐに体勢を立て直し、柔らかい微笑みで対処し始める。

 そしていつの間にか遠くまで下がったダニエラは、またいつの間にか近づいてきて、ダリアンの手を軽く引き、


「ダリアン様、ほら、屋敷でお茶の用意はできましたわ。一緒に参りましょうね?」


 共に屋敷に行こうと勧める。

 さすがダニエラ、ナイス気配り。が、


「ねぇ、ダニエラも、ティエラちゃんすごくかわいいと思うでしょ、ねっ?」


 まさに飛んで火に入る夏の虫、近づいてきたダニエラをそのまま捕食し、格好の獲物にダリアンは飛びついた。


「え? えぇ、とても可愛っ……きれいだと思いますよ、お嬢様」


 矛先を向けられ、戸惑ったのも一瞬、ダニエラはすぐに素直に本音を言葉にした。


「でしょっでしょっ?」


 ダリアンは答えに満足したのか、引こうとするくダニエラの手を逆に握り、小さくぴょんぴょんと跳ねている。

 恐るべきダリアン、襲いかかってくる刺客をこんなにも簡単に返り討ちにするとは、しかもちゃっかり味方に引き入れている。


 もう、やめて…! 褒め殺される……!!! 

 何もこんな場所で思いの丈をぶちまけなくても――ッッ!

 段々と収拾がつかなく場面を見て、私はなんとかしようと試みるが、


「ティエラちゃん、遊びに来た――よ?」


 誰だ、この忙しい時に! と心の中で叫び、勢いよく振り返った私が見たのは――。




ティエラガチラブ勢。

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