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6話

 「はあ~、それにしてもさっきのノア君、とても素敵だった……。生まれてきてくれたことに感謝だわ……」


 町の方角に手を合わせ、拝む。そう、そんな私の事情よりも重大なのは、ノア君だ。あれは全くの奇跡だった。なんと、私は今日、人生で初めてこんなに推したといっても過言ではない、素晴らしく清らかで純粋で汚してはならない存在……幼少期のノア君と出会うことができたのだ。



◇ ◇ ◇



 それは、買い物スキルや金銭の感覚について学ぶとい言って多少強引についていった町への買い物帰りでのことだった。買い忘れに気が付き慌てるメイドさんに、そこの公園で遊んでみたいから気にしないで行ってきて、と私は言った。だいぶん渋られたが、売り切れてしまうかもしれないよと諭すと絶対に動かないでくださいね!と言って急いで彼女は走っていった。


 言われた通りにおとなしく「ほえ~、これが異世界の公園か!さすが魔法がある世界。あの噴水のキラキラはどうやってるんだろう?って、なにあれブランコの進化版!?全自動ブランコ!?じ、実に興味深いわ……この世界ではカップルのブランコの押し合いっこは見られないのね……!」などという怪しい言動を続けながらメイドさんの帰りを待っていた。


 そんな時だった。公園の隅のほうから何やら騒がしい声が聞こえたのは。


 それだけならまあ、子供が元気に遊んでいていいわねえ、とほのぼのしながら流すところだったのだが、どうにも様子がおかしい。泣き声のようなものが聞こえてきたのだ。

 少し気になって、こっそり声の方へ近づいていくと、正体はどうやら男の子の一団であるらしかった。で、その会話というのが……





 「おい、お前いい加減にしろよ!弱虫のくせに、いつまでも逆らうんじゃねえ!」


 「さっさとその鳥渡せってんだよ!聞いてんのか泣き虫!」






 どうやら、1人の男の子が周りの3人の男の子から小鳥をかばっているような状況のようだ。かばっている一人は今にも泣きそうらしい。3対1とは……しかも小鳥で争うって……どういう状況?と思っていた時、「さっさと渡せよ弱虫ノア!」と、三人衆のリーダー格の子が叫んだ。

















 …………………………ノア?
















 「ちょ、ちょっと待って!」

 「ああ!?な、なんだよお前!?いったいいつから……」

 「いいからどきなさい!」

 「んなっ……!?」




 何やら言ってきた男の子3人を押しのけ、私はその男の子を見た。

 泣きそうにうるんだアメジストの瞳。ふわふわした水色の髪。片眼鏡はまだないが、その天使のごとき姿はまさしく……









(ノア、くん……!?)











 時が止まったよう、とは今使うために作られた言葉だと思った。纏う柔らかい雰囲気はそのままに「おい」でもさらに可愛らしく「おい……」小動物のような「おい!」そんな、見事なまでに母性を掻き立てられる「おいっ!!聞いてんのかお前ぇ!」圧倒的天使……「おいっ、無視するな!!!」




 「ええい、さっきからうるさいわ!」なぜか半泣きになりながらこちらに叫ぶ三人衆のリーダーに一括する。



 「お、おまえ、この俺様に対して……!」

 「うるさいって言ってるでしょうが!!黙って私より背が低いんだから!!」

 「せっ……!」

 「ちょ……!お、おい女!今すぐ謝れ!ラルフ様が一番気にしていることをよくも!」

 「そ、そうだぞ!お前知らないんだろ!ラルフ様が毎日牛乳を飲んでいらっしゃることを!今だってかかとの高いブーツをだな……!」

 「ぎゃあああ!お、お前らそれ以上はやめろお!」

 「え!?あ、ちょ、ラルフ様!?勝手に走っていかないでください!危ないですよ~!」



 阿鼻叫喚の声が去っていき、公園はようやく静けさを取り戻した。



 「あ、あの……」



なんだあいつら、と三つの人影を見送っていると、小さな声がかけられた。


 「ん?……はあっ!だ、だだだ大丈夫だった?」


 そんなことより、今目の前の少年こそがノア君であるということを確信した私は、かなり挙動不審になりながらも振り返った。ぐっ!眩しい!エンジェル!しかし!負けるわけにはいかない!推しと話せる千載一遇のチャンス!無駄にするわけにはうおお顔がいい!

そんな私の心の葛藤など知る由もないのであろう目の前の天使は、だれもが見とれる柔らかい笑顔を浮かべた。


 「ありがとう、ございました。助けてくれて」

 「いえいえいえ!そんな、助けたなんて、滅相もない……!よくわからないけどあいつらが勝手に自爆しただけよ!」

 


 ぶんぶんと首を振ると、きょとんとして、「でも、ありがとう」と言った。天使か?



 「この子、お母さんで。お母さんがいないと、寂しいから」


 そう言って、ノア君は手の中にいた小さな緑色の小鳥をやさしくなで、手を開いた。小鳥は元気よく飛び去って行く。



 「お母さん鳥だったのね。よかった。おーい、頑張って子供たちを育てるのよ~!」



 ぶんぶんと手を振っていると、笑い声が聞こえた。

私ではないから、当然もう一人だ。



「あ」



 やばっ、つい実家のインコに話しかけるノリで……!とあわあわしていると、




 「子供たちによろしくね~!」と、私より大きな声で叫んで手を振っていた。天使か?





 「僕、ノアっていうんだ。君は?」




 やっぱりノアくん!という魂の叫びとガッツポーズは必死で飲み込んで、努めて平静を保って、学校で同人本を読む事で鍛え上げた表情筋を駆使して、




 「私は___」




 名乗ろうとしてはっとする。まて、この国でクラネリアの性は、というか性を持っているという事実はあまりにも貴族だ。ましてやその噂は方々まで轟くこの名前を出したら……! 




 頭の中で、「は?うわ、君があのごくつぶしって噂の……?」と目の前の天使がドンびいている画が再生される。そ、それはそれで……じゃなくって!




 「わ、私は、その、え~……」

 「うん?」




その瞬間、天使の上目遣いが私の萌えポイントにクリティカルヒットし、キャパオーバーでオーバーヒートを起こした。



「……っ」





そして……









「てえてぇ……」












そして、冒頭に巻き戻る。


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