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47話

 ぐわん、と頭が揺れる。叫んだ直後。一瞬の後。私は、真っ黒い空間に浮かんでいた。


 「…………へ?」


 ノアくんも、ローザお姉様も、ピンクの部屋も、どこにもない。真っ黒い空間。何もない。思わず自分を見下ろす。さらに驚いた。私の姿はフィリアではなくなっていた。背は伸びているし、服も見覚えがある。私は、“私”の__つまり、日本でゲームをしていた頃の私に戻っていた。


 「……は!?」


 一体何が起きたのか。理解できない。困惑しながら自分の体をぺたぺた触る。実体は、一応あるようだ。頬をつねる。痛くない。……ということはこれは、夢?


 「なんだぁ、夢か……私は今、夢を見ているのね……」

 「夢なわけないでしょう。あんたバカ?」


 声は正面から返ってきた。驚いて前を見て、また驚愕する。そこに立っていたのは、“フィリア=リル=クラネリア”だった。ラビファンの嫌われ者。理不尽で傲慢でわがままで、共感性ゼロの、悪役令嬢。くすんだ金の髪も、蒼い瞳も、首元で輝くクリスタルのペンダントも、そっくりそのまま。先ほどまでの私の姿。


 「……フィリア?……フィリア!?え!?」

 「うるっさいわね!!黙りなさい!誰の前だと思っているの!!」

 

 イライラしたように言って、彼女は腕を組んで仁王立ちする。ゲームでお決まりのポーズだ。


 「でも、どうして貴女がここに?というか、あなたは本物?」

 「減らない口ね。死刑にしたいところだけど、腹立たしいことにアンタを殺したらあたしも死んじゃうのよ。___あぁもう、むっかつく!!ほんとにあの男、むっかつく!!」

 「私が死ぬと死ぬ?男?……どういうこと?何?これは、夢?」

 「だから、夢な分けがないでしょう!!あんた本当にバカなの?バカなのね、そうよね、バカよね。魔法も使えないなんて、バカ過ぎるわ」


 いよいよ苛立ったようで彼女は声を荒げる。私を指さして、「いいこと。一度しか言わないわ。よく聞きなさい」と言う。


 「あたしは、罠に嵌められたのよ!」


♢ ♢ ♢


 その日。あたし__フィリア=リル=クラネリアは怒っていた。理由は簡単で、好きなマロンケーキが食べられなかったから。季節じゃないから手に入らないなんて、冗談じゃないわ。私が食べたいと言ったらすぐに持ってきなさいよ!当然のことでしょう?


 苛立っていたら、レオン兄様がやってきて、一緒に遊んでくれるって言ったわ。兄様は大好きだから、腹は立っていたけど一緒に遊んだの。応接室にはお客さんが来てるから入らないようにも言われたわ。入るわけがないわよ、お客さんって、あの気持ち悪いハゲた中年と陰気くさい魔術師だったんだもの。誰が好き好んで近づくもんですか。そう思ってたわ。それで、兄様と遊んだわ。遊んでたら少しは落ち着いてきたのだけれど、そこでまたあたしを苛立たせることが起きたの。新人のメイドが、このあたしが飲むためのお茶をこぼしたのよ!信じられる?兄様は笑っていたけれど、冗談じゃないわ!そのお茶はお母様にお土産としてもらったものだったんだもの。それであたし、腹がたって、そのメイドに何か言おうと思って立ち上がったの。


 ……おかしいと気がついたのはその後よ。


__気がついたら応接室にいたの。何が起きたのかわからなかった。でも、あたし、気がついたら言っていたのよ。「王子様と結婚したい」って。そうしたら、私、私ね……


 「あんたの体の中にいたの」

 「……はい?」


 間抜け面がさらに間抜け面になる。口が半開きで、困惑が伝わってくる。けど、困惑したのはこっちだ。


 「あんたの体の中にいたのよ。あたし。ニホンで、ダイガクセイをしているあなた、倉敷 風花の中に」


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