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43話

 エリオット=フィル=セレメンティールはラビファン男子の一人だ。コミュニケーションを遮断するかのように長く伸びた前髪とそれに隠れるように見える金色の瞳、深い緑色の髪が特徴の美少年。攻略対象の中でも群を抜いて謎が多く、『初見殺しの白銀の花』ことルカ=トライデル=クーゼリアとはまた違った意味で初見殺しのキャラでもある。ルカの場合は選択肢を間違えるとバッドエンド一直線というのが初見殺しの所以なのだが、エリオットはその深すぎる闇が初見殺しと呼ばれる所以だ。


 ラビファンは基本的には明るいゲームなのだが、所々に闇が存在していると言われている。その際たる例がエリオットだ。彼の生家、セレメンティール伯爵家は生粋の魔術師家系。しかし、その膨大な魔力量は決して自然に沸いてきているものではない。セレメンティール家は、代々悪魔との契約を行うことによって高い魔力を得ているのだ。


 悪魔。それは、この世界に存在するヒトならざる生き物の名前だ。現実世界と大体同じような位置づけにされていて、呼び出した者と契約し、契約者の願いを叶える。ただし、そのためには大きな代償が伴うのだ。エリオットは、その代償に選ばれた人間だった。セレメンティール家の人々は、悪魔と契約する際に、生まれたばかりのエリオットを生け贄として捧げたのだ。悪魔はエリオットに取り憑き、その生気を吸い取ることで生きている。悪魔の影響は多岐にわたるため、エリオットは人に近づくことすらままならず、ずっと孤独に過ごしていたのだ。ゲーム中では主人公、ルリアがそのことを知って、エリオットに取りついた悪魔を祓うところまででワンセットなのだけれど__今、私の目の前にいるのは紛れもなくそのエリオットにとりついている悪魔であるエナジーだ。カラーリングが栄養ドリンクに似ているのでそんな名付けがされたのだろうと私は践んでいたが、それが一体何故兄様にとりついていたのだろうか?


 「人に指を指すなって教わらなかったのか?」

 「あなたは人ではないでしょうが!__ちょっと、今すぐ兄様から離れなさい!」

 「言われなくても離れるよ。オレちゃん、こういうヤツ大っ嫌いだし。無鉄砲で、正義感が強くて、バカみたいにまっすぐで正直で善良なつまらないヤツ。生気も一辺倒で耐えがたいよ。太陽でドロドロに溶けかけたオレンジキャンディーを食べてるみたい」


 げぇ、と舌を出してエナジーが兄様から離れる。背に生えた悪魔の羽でバサリと飛んで、急に目の前に逆さまになって現れた。


 「それより。今のオレちゃんは君に興味があるなぁ。ねぇねぇ、君は一体何者?フィリアじゃないよね?それに___エリオット?誰のことを言ってるの?」

 「え?あなた、じゃあもしかして、まだ___」

 「質問に答えてくれる?オレちゃん、そんなに気が長い方じゃないんだけど」


 ニコニコしてはいるが、その爪が突如長く鋭く伸びて喉元に突きつけられたのでひゅっと息を吞む。質問に答えることにした。


 「わ、私は__フィリアよ。フィリア=リル=クラネリア。今のところは」

 「つまんない冗談はいらない__と言いたいところだけど、ふうん?今のところは、ね」


 中々良い回答だ、とエナジーは言って、爪を引っ込める。息を吐くと、それじゃあ、と彼が言った。


 「契約しよっか、今のところはフィリア=リル=クラネリア。はいこれ契約書。こっちはペン。ここに名前を書いて。それだけでいいから」

 「は?いきなり何言ってるの!?契約をするわけないじゃない!あなた、悪魔でしょう!?」

 

 ほらほら、とせかすようにぐいぐいペンを押しつけられて思わず叫ぶ、目の前で何が起きているのかさっぱり理解できなかった。簡単に言えば悪魔が私に契約を持ちかけている、ということだが事態は簡単どころか非常に深刻だ。全くもって意味がわからない。


 「えぇー?だって君、かなえたい願いがあるんでしょ?オレちゃん、やさしーからさ、そーゆーのは積極的に叶えにやってくるわけ。こんなでっかい悪魔召喚用の魔方陣用意しといて契約しないとかないよね?」

 「魔方陣?」

 「うん。この下にある魔方陣。テレポートの魔方陣と良く似てるから間違えやすいよねー」


 そう言いながらエナジーが指を指した先には私がせっせと描いた魔方陣がある。……よーく見ると、それは所々文字が間違っていて、なおかつ使用済み魔方陣に現れる焼け焦げが所々に存在していた。


 「つまり……あんたは、この魔方陣から勝手に出てきたって、そういうこと……!?」

 「悪魔って自由奔放だからね。呼ばれる前に飛び出すなんて結構ざらにあるよ?そんなことより、早く契約契約!」

 「いや、だから話を聞いてってば!私は貴方と契約する気なんてないわよ!」


 ただでさえこの世界で悪魔と契約を結ぶことは禁忌だ。それに、どんな代償を取られるかわかったもんじゃない。私自身ばかりか家族や友人にまで危害が及ぶ可能性があるのだ。そんなのリスクが高すぎる。そう言って首を振ると、またしても爪が喉元に当たった。今度ははっきりその感触を感じる。ヒッ、とエナジーを見れば、先ほどの胡散臭い笑顔とは真逆の真顔をしていた。まさに悪魔のような表情で、淡々と口を開く。


 「はいかイエスしか求めてないんだけど?」

 「やらせていただきます!」


 ギラリ、とネオングリーンの瞳が真っ赤に輝く瞬間を見てしまえばもうどうしようもない。その場で殺されるよりはましだと慌てて書類にサインをする。よく確認をすることもなくサインしてしまう。し終えると、エナジーは元の瞳に戻ってにかっと笑うと「契約完了―」と少し嬉しそうにくるくるとその紙を丸めてポケットに収めた。しっかり蓋をして、ぽんぽんとそれを叩く。途端、左手に激痛が走った。思わず「痛!」と悲鳴を上げるがそれはほんの一瞬の出来事で、次の瞬間には私の手首に銀色の腕輪がついていた。シンプルな造りだが、恐ろしく手首にフィットして全く離れない。これを私は確かに見たことがある。エリオットくんも確か同じようなものをつけていた。それがきっかけでルリアちゃんと__


 「それ、契約の証ね。終了するまでとれないから。あと、オレちゃんは基本あんたの影に住むから。さて、じゃあ早速行こう」


 考え事をしていると、テキパキとエナジーが説明をする。私の影から出たり入ったりしているのは非常に遺憾なのだけれど、それ以上に気になることが一つ。


 「……行く?どこに?」

 「は?__決まってるじゃん。君がずっと気にしてる男の子を助けに、だよ」


 にたぁ、と悪魔らしく笑ったその瞳が眩しいほどに光り輝いていた。ものすごい光量に思わず目を閉じれば何やら運ばれるような感じがあって、浮遊感が来て、そしてフリーフォールのような衝撃が来た。「ぎゃああああああ!!」と淑女らしさのかけらもない声で悲鳴を上げて落下し、再び目を開けた時には、


 「はい、到着」


 目の前には、一件の古びた屋敷があった。


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